トッププレゼンの世界共通語は、母国語である

 

日本人トップが英語でプレゼンしているのを見かけることがあります。

英語で話す努力をすることは立派なのですが、大抵の方は読み上げるのに必死。まったく気持ちが伝わってきません。

最近、 LINEがバイクシェアサービス「モバイク」との業務提携を発表した会見に取材に行ってまいりました。モバイクは、たった2年でユーザー2億人に成長している世界でも注目の中国企業です。

会見では、モバイク本社のCEO胡瑋煒(フー・ウェイウェイ)さんも来日し、母国語である中国語でプレゼンを行いました。プレゼンが始まるとするどい目つきに一変。脇を締めてまるでボクサーのようなファイティングポーズをとりながら、ポインターを持つ手を振り回して話す姿は洗練されていませんが、得体の知れない迫力です。中国での激烈な競争を勝ち抜いてきた気性の激しさがほとばしっていました。胡さんの、腹の底から信じる強い想いが言葉を超越して響いてきたプレゼンでした。この心の響きこそが「世界共通語」なのです。

日本電産の永守社長は海外のM&A後、現地の会社に行くと社員全員を集めて日本語で話しをします。一生懸命本気で話すと、言葉が分からなくても現地の社員は熱心に耳を傾け、最後は皆で盛り上がるのだそうです。

 

現代は同時通訳レシーバーが用意されているので、中国語が分からなくても意味は通じます。胡さんのプレゼンを聞いて、無理に英語で話す努力をするよりも、トップしかできない中身を磨くことに時間を使うべきだと改めて感じました。

トッププレゼンとは、トップのパッションとビジョンを伝えることなのです。

 

LINEの会見については「広報会議 3月号」『プレゼン力診断』に詳しく書きました。
もしご興味ある方はご覧ください。

 

 

 

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トップのプレゼンが上手くならないのは、仕組みで解決しよう

 

広報さんからのご相談で一番多いのが、これです。

「ウチのトップはプレゼンが下手な上、練習しないでメディアの前に出るので困っています。だらしない会社という印象を与えているかもしれません。なかなか聞いてもらえません。どうすればいいでしょうか」

実際には、プレゼンが上手にならないトップのほとんどは、自分のプレゼンを「そんなに悪くない」と思っています。つまりトップ自身の危機意識がないのです。これでは変えるのが難しいですよね。とはいえ、このまま放置するのも考えものです。

どうすればいいのか?一番大事な点があります。それは、広報担当者自身が、危機意識を高めることです。

広報担当の方に詳しくお話しを聞いてみると、こんなことが多いのです。

「言ってはみたけど反応が鈍いし、言い難いことなので、ついつい後回しになっている」
「意を決して言っても、トップ自身が全然聞いてくれない。結局、一度しか言ってない」

広報担当者ご自身が本気で「これはまずい。解決しなければ」と危機意識を高めない限り、状況は変わりません。
そして危機意識を高めたら、次に、一人で抱え込まずに、少人数のチームを作ること。広報担当者なら広報部長を味方につける。あるいは社長室長と話してみる。そして自分の危機感を共有するのです。少人数チームを作れば、いろいろなアイデアが出てきます。

そして個人ではなく、チームでトップに進言すること。広報さんがトップの説得に成功してプレゼンが良くなるケースは、お一人ではなく、2〜3人のチームを組んで対策を立てていることが多いのです。

実際に私も、トップ、広報部長さん、社長室長さんの3人で会社の方向性をお話しし合って、社長のトッププレゼンをコンサルティングしています。

トップは自身の危機意識を持ってもらうには、説得する広報さんがそれ以上に危機意識を高めることが必要です。そして、一人で抱え込まずにチームで動くこと。仕組みで解決していくのです。

 

 

 

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広報担当者がTVインタビューをクリアするために

 

「今度、テレビ取材で話さなくてはならなくて困っているんです」
というご相談を広報担当者さんから受けました。

テレビ局が企業を取材するときは、広報担当者がインタビューを受けて話すことも多いかと思います。

拝見していて、いつも気になっていることがあります。ほとんどの人が、一生懸命お話ししているのですが、今一つ伝わってこないことが多いのです。

特 に目につくのは、しゃべるのにいっぱいいっぱいで、一文ごとに頭を振ったり、女性だとゆらゆらと無意識に「女子揺れ」してしまっていることです。テレビの 画面だと余計に揺れが目立ってしまい、いかにも余裕がなく不慣れな印象を与えてしまいます。体を揺らさないだけでも落ち着きが出て、得力が上がるはずで す。

しかし、緊張するテレビインタビューです。細かい技術を一つ一つ気をつけている余裕などないのが現実ですよね。
ゆらゆら揺れて話している人は、いろいろ話しているのですが、大抵「コレ伝えたい!」がはっきりしていないのがほとんどです。

そこで、「はっきりしゃべる」「内容を覚えて原稿を見ない」「体を安定させる」など技術的なことが、一気にクリアできる方法があります。

それは、「コレ伝えたい!」をはっきりさせること。

こ の「コレ伝えたい!」が決まり、腹の底からその思いを前面に出せば、否が応でもはっきりしゃべらざるえません。強い想いは決して内容は忘れません。強い気 持ちも入ります。だから体が安定してゆらゆら揺れたりしません。何よりも強いパッションが、言葉に説得力を宿らせるのです。

 

 

 

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「自然体」の川上元ドワンゴ会長のトッププレゼンから感じたこと

先週もお伝えしましたが川上量生さんがドワンゴの会長を退任されました。

11月28日の会見にはユーザーも来場、客席の前半分がユーザー、後ろ半分が記者席という配置になっていて、「ユーザーファースト」の姿勢を前面に押し出していました。

当日、各席にはノートPCを用意して会見をニコニコ生放送で流し、ユーザーとの対話を「見える化」していました。しかし、新サービスが予定通り動かない状態になり、ユーザーの怒りが爆発。「ニコ動」には罵詈雑言の嵐が流れてしまったのです。

そのとき、川上さんは質疑応答も延長し、ユーザーの声を聞き届けようと一生懸命でした。

多くの企業は、今回と同じ状況に陥ったら、トップを守ろうとして、質疑を早めに打ち切ることがほとんどです。この日も、取締役の夏野剛さんが「そろそろ時間ですので…」と切り出しました。しかし川上さんは「いや、続けましょう。全部聞きます」と即座に言い切り、ストップはかけませんでした。もし、ここで打ち切っていたら、顧客は口を閉ざし、黙って離れていくことをよく分かっていたのだと思います。川上さんの姿勢は「ユーザーファースト」を貫きました。

しかし、課題もありました。

川上会長は会社員時代、「どうしてもやりたいゲームがあったので、社長に提案して会社でゲームし放題にした」という根っからのゲーマーです。川上会長にとってユーザーは自分と同じ仲間なのかもしれません。会見で感じたのは、「自分のプライド」を捨てて、仲間に文句を言われながら一生懸命説明している、一人のゲーマーの姿でした。

そのため、話し方も、仲間に言い訳するような「あのー」「えーと」を多用する言葉使いが多くでていました。

どんなときでも自然体で態度を変えないのが川上さんの良いところ。しかし「ユーザーファースト」を優先しすぎ、ユーザーとの距離感が近くなり過ぎる危険性も感じました。結果、ユーザーは言いたい放題。それが増幅されてネット上も大炎上してしまったのです。

公式なトップ会見で、「あのー」「えーと」を多用しすぎると、決断力が弱い印象を与えてしまいます。シンプルな言葉で毅然と話すようにすれば、内容がストレートに伝わり、今回もここまで荒れることはなかったのではないでしょうか?

「いつも自然体」という川上さんの良さを活かしつつ、話し方も変えることで、もっといいトッププレゼンになったように思いました。

 

詳しくは宣伝会議デジタルマガジンにも掲載されています。

「退任したドワンゴ川上会長 あの『炎上』会見のプレゼン分析」

よろしければご覧ください。

 

 

 

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取材3週間後に退任!ドワンゴ川上会長のプレゼンから、感じたこと

 

12月21日、川上量生さんがドワンゴ会長を退任されました。
その3週間前の11月28日。私は川上さんのプレゼンを取材していました。新しいニコニコ動画サービス「ニコニコ(く)」の発表会でした。元々は10月発表予定でしたが、技術的な問題により2ヶ月延期され、この日の会見になったのです。

しかしデモではサービスが上手く動かず、ニコニコ動画ライブ配信では罵詈雑言の嵐。当日来場していたユーザーからも厳しい意見が続出。10分の予定だった質疑応答は、その場で川上さんの判断により延長し、56分にも及びました。

川上さんは平静を保ってはいましたが、最後の「これで発表会を終了したいと思います」という声はかすれ、肩を落とした背中には疲労と寂寥感が感じられました。そして、質疑応答後に予定されていた「エンディング向けデモ配信」は行われず、いつの間にか発表会は終了したのです。

川上さんの、厳しいユーザーの声を最後まで聞き届けた態度は立派でした
しかし今回は、プレゼンの内容以前にとても気になったことがありました。進行と時間管理のマネージメントです。

10月予定の新サービス発表が遅れたこともよくありませんが、当日17時に予定していた開場時間は20分遅れ。質疑応答の延長によって終了時間は20分オーバー。最後に予定していた「エンディング向けデモ配信」も説明なく終了。終了時間を20分超過したためかもしれませんが、予告している以上、中止するならば一言説明が必要でした。

トッププレゼンで大事なことは、「聴衆の人生の貴重な時間を預かっている」という覚悟を話し手が持つことです。
しかし、世のほとんどのトッププレゼンは時間を大きく超過しています。いかに内容が良くても、時間超過はプレゼンの満足度を下げる最大の要因です。逆に余裕を持って短めに終われば、聞き手の満足度は上がります。

今、世の中はもの凄いスピードで変化しています。今や時間は、ヒトモノカネ情報に次ぐ「第5の経営資源」。
時間にルーズだと思われてしまうことは、致命的です。
今回のプレゼンは、時間感覚の緩みがアウトプットにも表れていたような気がしてなりませんでした。

 

川上さんのプレゼンについては「広報会議 2月号」の『プレゼン力診断』に詳しく書きました。
もしご興味ある方はご覧ください。

 

 

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今年最高のトッププレゼンのあの人から学んだこと

残すところ今年もあと4日。
今年も数多くのトップ会見を取材しました。

今日は、今年一番素晴らしかったプレゼンをご紹介します。

広報会議の記事では公開していませんが、私はトッププレゼンを次の6項目で5点満点で採点しています。
(6項目とは「声」「話し方」「表情と目線」「身振り手振り」「ファッション」「コンテンツ」です)

トップの平均値は3点。4点以上になるとかなりの高得点です。

連載4年目の今年、初めての満点のトップが出ました。

ソニーCEOの平井一夫さんです。
全項目で文句のつけようがなく、パーフェクトなプレゼンでした。

実は3年前にも平井さんのプレゼンを見ました。上手でしたが、本来持っている熱いパッションが伝わってこないもどかしさを感じていました。当時はソニーの業績も下降、メディアもソニー内部の方々さえも「ソニーはダメだ」と言い始める状況での社長就任。「あー」とか「えー」とかの言葉も多く出ていて、どこか自信のなさというものが感じられたのを覚えています。

しかし今年取材したプレゼンでは一変。
ご自身が「初挑戦」というテナーサックス演奏、ジョン・カビラ氏とのノリノリトーク、そして、ソニービル最後のおわかれスピーチでは、元々持っている潜在能力を全開にしての鳥肌が立つようなシャウト。

その4ヶ月前、日経フォーラム世界経営者会議でのプレゼンも、世界の著名トップを凌駕していました。フィナンシャル・タイムズの編集長の鋭い質問にも英語で堂々と渡り合い、「ついに日本にもこういう経営者が登場したか」と思わされた経験でした。

ソニーの業績を回復させたという自信が、自然ににじみ出ていました。

この3年間、平井さんは努力し、変化し、進化していたのです。
プレゼンは、日々の仕事での努力、人生の深みがそのまま表れるものだと実感しました。
このような素晴らしい場に立ち会えたことに、大きな幸せを覚えました。

2018年も、さらにものすごいスピードで世の中は変化していくはずです。現状維持ではあっという間に時代に立ち後れます。

変化対応力と進化は、トッププレゼンにも求められているのです。

今年1年間、ありがとうございました。

そして2018年もよろしくお願いいたします。

 

 

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プレゼンスタイルは、TPOで変えるべし

 

ある会見で、外資系企業の日本人トップが、米国人が良く行うポケットに手を突っ込む動作をしていました。でも、途中から違和感に気がついたのでしょう。ポケットから手を出して話していました。本番冒頭は誰もが緊張するので、その人のクセがでやすい場面でもあります。ついつい海外でプレゼンしているときのクセが出てしまったのかもしれませんね。

本来日本では、聴き手に対してラフな印象を与えがちなので、ポケットに手はNGです。

 

外資系企業の外国人トップでも、日本での会見では手をポケットに突っ込んで話す人はほとんどいません。ある米国大手飲料メーカーの外国人トップなどは、舞台に上がる直前、お客さんの座っているフロアと同じ高さから丁寧に会釈し、壇上に上がってからも「高い所からすみません」とでも言うように、もう一度会釈をしていました。日本の「何よりも礼節を重んじる」という文化を彼なりに解釈し、リスペクトしているのが伝わってきました。

一方、ハーバードビジネススクールの日本人教授が、権威あるビジネスフォーラムでポケットに手を突っ込みながら話していたことがありました。このときは、ここが日本であっても、形式は「ハーバード流」で行われていたため、まったく抵抗感なく受け入れることができました。

プレゼンでの身振り手振り立ち居振る舞いは、プレゼンの形式、そして聴き手の文化と、聴き手へのリスペクトの問題が大きく関係します。

「こうすると話しやすいから」「格好良いから」とか、「いつもこれでやっているし」ではなく、「聞き手は誰か」「ここはどこか」をあらかじめ考慮に入れて、プレゼンスタイルを決めるべきなのです。

 

 

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「言葉の自転車操業」に陥らないために

 

「あー、 この新商品はですね、”あるといいな”というお母さん方の声ですとか受けて開発し、まあ、いろいろですね、えー、全国200店舗ありまして、えー、そこでですね、えー、展開、販売し、大手企業からもオファーありまして、えー、まあですね、2年後には20万台と考えてます…」

何を話しているかお分かりになりましたでしょうか?
このような話し方でプレゼンするトップは、意外と多いのです。これでは話のポイントがわかりにくく、聴き手にストレスを与えます。

いろいろ話してはいますが、「要は何をいいたいのか」が伝わりません。
こうなると質疑応答でも「既に話した内容」を再確認する質問が多く出てしまいます。

「いろいろですね」「まあですね」「そこでですね」のつなぎ言葉の多用に加え、「あ〜」「え〜」や、語尾の母音を伸ばしてつなげて話すので、話が長くなっています。
その場で考え、またはスタッフが書いた文章を思い出しつつ話しているので、文章がまとまらず、言っていることがまったく伝わらない。
この現象を私は「言葉の自転車操業」と呼んでいます。

解決方法は、話す前に一呼吸置き、いったん話す内容を頭で整理した上で話すこと。
これでロジックが整理されて、格段に伝わるようになります。

冒頭の文章の場合、

「(まず数秒の間合いと呼吸)この新商品は、お子さんを持つお母さん方の声を受けて開発しました。(間合いと呼吸)全国200店舗で展開、販売し、2年後には、20万台を目指します」

と話せばすっきりと伝わります。

さらにできれば文章力を付けてから話すことです。

このタイプのトップは、原稿を他人任せにせず、一度自分で書いてみることです。どうしても書けなければ、スタッフが用意した原稿の推敲をすること。そうすることで頭が整理されてわかりやすくロジカルに話せるようになります。

 

 

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トップの強みを、いかにトップ広報で活かすか?

広報担当者さんから、こんなお話しをうかがいました。

「社長が地味で、プレゼンも真面目すぎてつまらないんです。プレゼンが始まると寝始める人が続出なんです」

真面目なことは、いいことですね。
でも「真面目だけれど、まったく印象に残らないプレゼン」になってしまうと話は別。トップ広報も上手くいきません。

ここで思い出したのが、「一度見たら忘れられない」というくらいの強烈なプレゼン。
9月26日に行われたアデランス「スカルプビューティドライヤー N-LED Sonic 記者発表会」で、津村佳宏社のプレゼンを取材したときのことです。

発表会冒頭のプレゼンは、メガネをかけ、台本を確認しながらトツトツと話すという、やや印象が薄いものでした。

しかしその後場面が変わり、舞台に真っ赤なドレスシャツを着た男性が立っていました。
よく見ると、先ほどまでトツトツとプレゼンをしていた津村社長。

すぐに状況が理解できませんでした。
会場の聴衆も同じだったようで、全体が水を打ったようにシーンとなっていました。

そこからが凄かったのです。

舞台上の紙に向かい、墨をたっぷり含んだ筆を豪快に走らせ、書道の腕を披露。その次、新製品のドライヤーを使いモデルさんに鮮やかな腕前でスタイリング。実は津村社長、社内の技術コンテストで優勝経験もある凄腕の理美容師です。

会見修了後、津村社長の別の一面を見ました。

この日は、Winkの相田翔子さんがゲストで登場していました。会見後、当時話題になっていた「Wink再結成か?」について、芸能レポーターの囲みが行われていました。それを遠目に見ていた津村社長は、担当者さんに「(私は)いいの?」と聞き、「社長は個別取材です」と言われると「私、芸能人じゃないから…」と、残念そうにつぶやいているのです。もう一度担当者さんから「個別取材です」と言われ、また「私、芸能人じゃないから…」と繰り返したとき、津村社長のお人柄が感じられて、思わず笑みがこぼれてしまいました。

自分の「強みの土俵」である一芸を披露したことを契機に、奥底に秘めた自信の扉が開け放たれ、心も前向きに「変身」したのかもしれません。

トップの強みを、トップ広報で、どのように活かすか?
皆さんも、もしプレゼン内容と紐付けできるようなトップの強みがあったら、ぜひ活かしてみてはいかがでしょうか。

 

今回、津村さんのプレゼンについては「広報会議 1月号」の『プレゼン力診断』に詳しく書きました。
もしご興味ある方はご覧ください。

 

 

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20年前の山一証券・野澤社長「涙の謝罪会見」から、学ぶべきこと

 

タカタ、東芝、日産、神戸製鋼所、三菱マテリアル…。最近、企業の謝罪会見が続いています。

広報担当者さんたちのご苦労はさぞ大変だろう、とお察ししつつも、メディアでの反応は厳しく、批判的な記事も多く見られます。

謝罪会見と言えば、多くの方々が思い出すのは、20年前の11月24日、山一証券・野澤正平社長の会見でしょう。

「社員は悪くありませんから。どうか社員の皆さんを応援してやってください。お願いします。
1人でも2人でも、皆さんが力を貸していただいて再就職できるように、この場を借りて私からもお願いします」

号泣しながらの謝罪会見でした。

謝罪会見での、「泣く」「感情的になる」などのふるまいは、トップとして冷静な判断ができないという印象を与えるため、通常はNG。しかし海外では、「保身に走らず、社員のことを必死に考える素晴らしい社長だ」と高く評価する人もいるそうです。

野澤さんは、24日に放送されたテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で、あのときのことを振り返り、こう語っています。

「あの涙の会見を悪くいう人も良くいう人もいる。しかし私は、あれは自分でも恥ずかしくない。あの涙には2つあって、7割が社員の事で頭がいっぱい、3割は社長になって頑張ったけれど駄目だったという悔し涙です」

確かに既に経営破綻している状態で、守る会社は既にない状態です。
まだ多くの守るべきものを抱えている企業の謝罪会見と同一に比較すべきではないかもしれません。

しかし言い訳せずにすっぱりと負けを認め、『私は逃げも隠れもしません。すべて自分の責任です』という腹決めを、純粋な気持ちでパッションと共に伝えたのがあの会見でした。

他の誰も代替の効かない、腹の底からわき上がってくる野澤社長ならではの言葉を、パッションと共に語れば、本気が伝わり、人の心は動きます。

その後、山一証券の社員さんたちは、自ら起業したり、大企業に再就職したり、また企業のトップを務める方々もいて、多くが活躍しています。
そして現在、山一証券の社員さんだった方が、M&Aを提案する独立系の証券会社として、新生「山一証券」を復活させていました。元山一の方も社外取締役として就任しています。「つぶれない会社にする。千年続く企業にする」と力強く語っていたのが印象に残りました。

謝罪会見と言えば、ネガティブなイメージです。しかし、野澤さんの謝罪会見は、野澤さんのパッションが熱伝導し、20年もの間、元山一社員の人たちに「危機感」を植え付ける一つのきっかけになったのではないかと思います。

野澤さんの謝罪会見を見てから、改めて最近の謝罪会見を見ると、感じることがあります。雛形に忠実なスタイルが多いのです。もちろん、言ってはいけないことを話してしまうリスクがあるので、雛形は必要です。しかし生身の人間同士のコミュニケーションです。雛形通り行うということは、「雛形通りにやれば問題ない」という気持ちが、どうしても聴き手に伝わってしまうのです。

謝罪会見は、社外も社内も一斉に注目しています。

もちろん、ある程度のルールに沿って話すことも必要です。

しかし皆が注目するからこそ、そのトップにしかできない言葉で語ることもまた、大切なのです。

 

台本を捨てれば、トッププレゼンに感動が宿る

 

あるイベントに参加しました。海外・国内から著名なトップが集まりプレゼンが行われました。

この場で、日本を代表する大企業のトップは、常に手元の資料を読み上げてプレゼンしていました。記者との質疑応答も、台本の「あんちょこ」を読んでいます。

周囲の客席を見渡すと、自分の言葉で語らないその話しぶりに、聴き手は皆眠そうです。大あくびをする人もチラホラ。特に海外からの来賓席は空席が目立ち始めていました。

とても残念な気持ちになりました。

なぜこうなってしまうのでしょうか?
それは聴き手と心のこもったアイコンタクトやコミュニケーションがとれないからです。
台本を読み上げると、話し手は台本に目線が釘付けになったり、客席と台本の忙しい目線の往復になります。

「じゃぁ、プロンプターなら大丈夫」と思う方もおられるかもしれませんが、同じです。表面的には客席を見ていますが、目は明らかに「読んでいる」目線になります。これでは聴き手と心のこもったコミュニケーションは不可能。聴き手は、置いて行かれます。

「台本を置いても、覚えていれば大丈夫」と思いがちですが、違います。
台本が手元にあると、話し手は必ず読んでしまうからです。

完璧な台本とは、「浮き輪」です。
溺れるリスクがある海では、人は浮き輪があれば必ずしがみつきます。
極度に緊張する舞台に完璧な台本があれば、必ず読んでしまうのは人の性です。

そして、完璧な台本の致命的な問題は、「書き言葉を話す」ことです。書き言葉では人は感動しません。

しかし多忙な企業のトップは、プレゼン資料をスタッフに準備してもらうことがほとんど。広報担当の皆さんはトッププレゼンでトップが失敗しないように完璧な台本を用意することも、大事なお仕事です。

どうすればいいのでしょうか?

トップ自身が事前にしっかり内容を覚えること。
そして備忘録程度の内容の簡単なメモを手元に置くこと。
そしてトップが自らの言葉で話すように、トップに進言することです。

冒頭にご紹介した原稿読み上げをしていた日本のトップは、記者からの最後の質問には、ご自身の思い入れが強い事業内容だったためか、台本を見ずに思い入れたっぷりに答えました。この瞬間、説得力は格段に上がりました。

大企業のトップともなれば、本来自分の言葉で話せる力を持っています。
浮き輪がなくても溺れずに、スイスイ泳げるのです。
完璧な台本があるばかりに、逆に自分の言葉で話せなくなってしまうという皮肉な結果になってしまうのです。

トップ広報は、トップの力を信じましょう。

 

 

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トッププレゼンこそ、失敗を語れ

 

 

先週は、日本経済新聞主催の世界経営者会議に参加してまいりました。世界の名だたるトップのプレゼンを見ることが出来、また、世界の動向を肌で感じることができる貴重な経験となりました。

二日間、十数名のトップすべてのプレゼンを聞きました。
しかし、聴衆が集中して話しに耳を傾け、共感し、感動するような素晴らしいプレゼンには、ある一つの共通点があったのです。

それは、人から学ばなくては出来ないような難しいプレゼンのテクニックではありません。どんな人でも必ず出来ることです。

その共通点について、今回特に素晴らしかった、3名のプレゼンから学んでみることにしましょう。

 

女性トップで、ザ・モール・グループ会長、スパラック・アムプットさんは、薬剤師から小売りの知識がないままショッピングモールを立ち上げた、タイを代表するデパート経営者です

アムプットさんは、1981年に最初のショッピングモールを作りましたが、店が小さすぎ、品物も少なく、駐車場もなく、たった2年で閉鎖してしまいました。アムプットさんはこのとき、大失敗を受け入れ、諦めずに戦うことを決めます。そして、人々のニーズの基礎である「ハッピーになりたい」「家族・友人と良い時間を過ごしたい」「いつでも買い物ができる」という『勝利の方程式』にのっとった施設が必要と考えました。取引先に「どうか、私に2回目のチャンスをください」と言って、再びデパートを立ち上げ大成功したのです。

女性らしい上品さ、気高さ、自然ににじみ出てくる深い謙虚さが深い余韻を残し、話し終わった後、とりわけ大きな拍手に包まれていたのが印象的でした。

 

そしてもう一人、今注目のウエスタンデジタルCEO、スティーブ・ミリガンさんが、長い沈黙を破って登壇しました。

ミリガンさんは、2007年の結婚記念日にウエスタンデジタルのトップから突然、解雇を言い渡されました。それは、トップが自分の部下を最高責任者に引きあげるためです。奥様に、「結婚記念日なのに、こんな報告をしなくちゃならなくて…」と電話したときのエピソードを、コワモテのままユーモアを持って話す様子は、事前の印象とはまったく違った人柄が伝わってきました。

その後、家族のために職を探していたところ日立製作所の中西宏明会長から誘いを受けて、米HDD子会社へ再就職することができました。経営再建を果たした後、日立は子会社をウエスタンデジタルへ売却。ミリガンさんは、社長としてウエスタンデジタルに返り咲くことが出来たのです。

ミリガンさんは言います。

「私は子供の頃に父から、『夜、頭に枕をつけたとき、正しいことをしたと思えるようなことをしなさい』と教えられた。自分や家族、社員、そして世界にとって正しいかというフィルターをかけて意志決定する」

ミリガンさんの挫折体験を知ったからこそ、言葉が重量感を持ち、聞いていて胸が熱くなった瞬間でした。

 

3人目は、川淵三郎チェアマンです。

かつて日本のサッカーは、ワールドカップよりレベルが低いオリンピック予選を通らないほど実力がなく、挫折や困難の連続だったと言います。そこで川淵さんは「もうこうなったらコペルニクス的転回でプロ化するしかない」と声を挙げ、周囲の反対を乗り越えてJリーグを立ち上げたのです。

さらに川淵さんは、鹿島アントラーズ誕生のストーリーを話しました。アントラーズは「99.999%不可能」と川淵さんが言うところを「0.111%の可能性」にかけて、人口たった4万5千人の町に1万5千人入るスタジアムを建ててJリーグに参入し、日本を代表するサッカーチームとなったのです。

「上品な言葉で話すと自分らしさが出ないので、自分らしく話させてもらう」と冒頭に言い放ち、”川淵節”炸裂のプレゼンで、パッションが会場に熱伝導した素晴らしいプレゼンでした。

 

3人に共通する大事なポイントは一つです。

自らの「失敗」「挫折」というマイナスの部分を、格好つけず、大いに語ること。失敗から学んだことを伝えることです

多くの人は、失敗を語ることは「自分の評価を下げる」と考え、また、「恥をかきたくない」というプライドから、過去の成功体験、「ベストプラクティス」ばかりを語りたがります。

一日目のトリでユニクロの柳井さんが登壇しました。柳井さんのプレゼンも「口ベタなんで…」と言いながら、「自分の言葉」で、「自分の体験」からのみ語る説得力は、群を抜いて素晴らしいものでした。

その柳井さんは、

「ボクはたくさん失敗している。失敗しても諦めずに挑戦する」

と繰り返し語っていました。

失敗から得た学びを語ることで、聴き手は共感し、感動し、良き方向に行動を変えます。

これがプレゼンの神髄なのです。

今、世界は”失敗してもどんどん挑戦する”という流れになっています。不確実で、変化のスピードはますます加速度化するこの世界において、将来の方向性を決めることはとても難しいこと。スピード感を持って挑戦し、成功していくには「失敗」はつきものだということです。

失敗を恐れず、前に進む勇気をいただいた世界経営者会議でした。

 

 

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いつもの振る舞いが増幅されるトッププレゼン

企業発表会や会見で、トップが会社のスタッフや記者に対してリスペクトが不足しているのではと感じるふるまいを見かけることがあります。

「会社でもいつもこうなのでは?」と感じてしまう瞬間です。

誰でも人前のプレゼンでは緊張し、話すことに精一杯だったり、忙しくて疲れていることも多いもの。余裕がなくなり、つい相手に対するリスペクトにまで気が回らなかったりするものですよね。

そんな中、最近、素晴らしいリスペクトを感じたトッププレゼンがありました。
2017年9月19日、銀座マロニエ通り店で行われた、スターバックスコーヒージャパン社長、水口貴文さんのプレゼンです。

最も印象に残ったシーンがありました。

それは、水口さんご自身のプレゼン直後、次のプレゼンを緊張して待つデジタル戦略本部本部長の濱野努さんを気遣い、入れ替わる際に肩をポンと叩いて送り出すシーンでした。さらに濱野さんとの質疑応答では、自分が話し終わってもマイクをすぐ手渡せるよう、濱野さん側に準備して待っている姿も印象に残りました。この日、水口さんは常にニコニコと笑顔を絶やさず、ちょっとした動作も丁寧で、周りに対する配慮から優しい人柄が伝わってきました。

「人前に出たからやっている」というようなわざとらしさがなく、すべて自然なのです。

この会見を見て、思い出したことがあります。

私は、クラシックの演奏家出身です。音楽会の舞台に立つときに厳しく教えられたことがあります。

「舞台は怖い。ちょっとした動作が目立ってしまう。普段の姿が増幅されて見えてしまう。だから、足の先、指の先まで心を行き渡らせなさい」

いくら直前に「プレゼンの立ち居振る舞いのトレーニング」など行ったとしても、それは付け焼き刃でしかありません。舞台に立てば、聴き手には内面がすぐに伝わってしまいます。

これはトップに留まりません。外から見ればトップだけではなく、社員一人一人がその会社を代表しています。
どんな立場でも、プレゼンの舞台では、会社の代表なのです。
その自覚を持ち、想いを発信していただければ、とプレゼンを見る度に願っています。

今回、水口さんのプレゼンについては「広報会議 12月号」の『プレゼン力診断』に詳しく書きました。
もしご興味ある方はご覧ください。

 

 

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トッププレゼンでは、なぜ最上質スーツを着るだけではダメなのか?

 

「イヤ〜!スーツがヨレヨレ!」

広報関係の勉強会で、あるトップ・プレゼンの記事を紹介すると、写真を見て女性が悲鳴をあげました。

トッププレゼンのファッションで何より大事なのが清潔感です。しかし聴き手から自分がどのように見えているか、気にしない男性トップはとても多いのが実態。

最上質のスーツを着ていても、シワやヨレが目立ってしまっては、清潔感が感じられませんよね。

特に難しいのがパンツです。動いたり、座ったりするので、確かにシワがよりやすいからです。

 

今回は、その対策をお伝えしましょう。

プレゼンを見ていると、大半の方はパンツ丈が長すぎます。
長すぎると、プレゼンで舞台に立ったときにだぶつき、シワが目立ってしまうのです。

「丈を長めにしておけば足が長く見えるのでは?」と質問をいただいたことがありますが、実は逆。だぶついている方が短く見えます。特に小柄な方は、パンツの丈を長くしすぎると余分なたるみが増え、足が短く背も低く見えてしまいます

最近はパンツのラインが細いものが主流ですので、立ったときシワが出ないジャスト丈に調整すると格好よく見えます。
模範例は、ソニーの平井一夫さん。いつもおしゃれで完璧。ビジネス界のベスドレッサーです。

もう一つ気をつけたいのは靴です。長めの丈に甲高の靴をはくと、裾が上がりすぎて裾がだぶつきます。立ってプレゼンすることが多い方は、「立ったときにどう見えるか」を考えながら、靴もを選びたいものです

また、ライトグレーなど薄い色は、照明が当たったときにシワが目立ちやすくなります。ダークな色調のほうが多少のシワは目立たちません。もしプレゼン前に余裕があれば、控え室でアイロンをかけて出ると安心です。

もう一人トッププレゼンのベストドレッサーは、政治家の麻生太郎さんです。ゆったりサイズのスーツを着ていても、立ち姿のときはパンツにブレイクがありながらも無駄なたるみもなく、美しく着こなしています。実は麻生さんは、パンツの裾には重り(5円玉)を入れ込んで、その重みで裾を美しく落としこむように工夫しているそうですよ。

 

 

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説得力ある党首は、休符が違う

 

**** 本記事は、私個人の支持政党とは関係はありません****

先日の第48回衆議院選挙。
各党党首の演説で、話術にも注目していました。

まず安倍さん。
小池百合子さん率いる希望の党の勢いに押される厳しい状況からスタートしました。2014年の前回衆議院選のときの自信満々で気迫のこもった話し方とは一変、顔色も冴えず、言葉に力が感じられません。テレビ出演でも、無意識に手書きのパネルで顔半分を隠しながら話す場面もあり、自信のなさが表れていました。しかし後半戦に世論調査で自民優勢が伝えられるようになると、本来の落ち着きと自信を取り戻し、説得力のある演説をしていました。
しかし自信がついてくると、都合のよくない質問には、ついついヒステリックになり甲高い声になってしまうのは、安倍さんの悪い癖。今後、話術で相手に対するリスペクトの表現も課題ですね。

そして枝野さん。
この方は、自分がリーダーになるとイキイキする「パッション型」です。今回は自ら「立憲民主党」を立ち上げられ、よい面が出てきました。
枝野さんの良い点は、良く通る声です。選挙カーの上から話せば声は通りやすいのに、今回の枝野さんは道ばたに立ち、聴衆と同じ高さからの演説でも声が良く通っていました。よく通る声は、話に説得力を加える強力な武器です。選挙戦終盤で、他候補者が声が枯れてしまった中、枝野さんは身体全体を響かせて発声しているので、 最後まで声のクオリティを落とさずに選挙を乗り切りました。さらに間合いのリズム感も抜群。聴衆と呼吸を合わせながらタメを作り、次の言葉に重みを持たせていました。

枝野さんは、どこでこんな良い発声法やリズム感を身につけられたのでしょうか?
じつは、枝野さんは中学生の頃から合唱をやっていて、日本最難関と言われている「NHK合唱コンクール」に優勝するほどの筋金入り「合唱マン」なのです。道理で身体で身についた発声法をしているわけですね。

もう一人あげたいのは、共産党党首の志位さんです。
志位さんの良い点は、声が低く、声質に温かみがあること。実際の街頭演説を聴いたときは、低い声で、声を出していない間合いそのものに深い意味を持たせていて、思わず頷きながら聞き入ってしまいました。
多くの他の党首は、言葉の合間に「あー」とか「えー」とか「えーと」とか「そのう」といった余分な言葉が入りますが、志位さんは皆無。すっきりと聞きやすいのです。また、激しいことを言っていても、なぜか憎めない感じのするビジュアルも大変得をしていると思います。だてに長期間、党首をやってこられたわけではありませんね。
志位さんも実は、特技はピアノで奥様と連弾をするほどの腕前。本気で作曲家を目指していた時期もあったそうです。声質も良いバリトン歌手です。

人の心を引き付けるリーダーのプレゼンとは、「良い声」と「間合い」です。
「間合い」とは、音符で言うと「休符」です。
枝野さんも志位さんも、演奏から「休符」を学んだのではないでしょうか?

「でも私は音楽をやってないから無理…」と思われる方でも大丈夫です。
とにかく最初は慌てずゆっくりと話すことです。

そして役立つのが、当ブログではお約束の「悪代官スペシャル」です。本番前に「(息を吸う)フッフッフッフッ…(間合い)越後屋〜(間合い)おぬしも(小さい間合い)ワルよのう〜」とやってみてくださ い。腹が据わって、深い間合いがとれるようになりますよ。

 

 

 

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神戸製鋼問題で考える、情報が揃うのを待つか?すぐ記者会見するか?

 

神戸製鋼のデータ改ざん問題。いま日本中を揺るがしています。

もしあなたがトップの立場で、いまこの場で、データ改ざんの事実を知らされたとしたら、次のどちらを選ぶでしょうか?

【選択肢1】ほとんどわからない状態だけど、まずは手持ちの情報ですぐに記者会見を開く
【選択肢2】何もわからない状態で記者会見するのは不誠実だと思う。できるだけ情報を揃えた上で、記者会見を開く

神戸製鋼が選んだのは、選択肢2でした。

10月08日 データ改ざんが発表
10月13日 川崎博也会長兼社長が正式な会見の場に現れる

5日間が経過していました。この間に経済産業省の「ゆゆしき事態だ。神戸製鋼にはしっかり対応して欲しい」という会見もありました。さらに川崎会長が経済産業省に謝罪会見した後、翌日に正式に記者会見。また「鉄は問題ない」と言った翌日に、「鉄にも問題の可能性がある」と、言っていることが変わってしまうのもよくありません。

不祥事が起こった際に、何よりも優先すべきことはスピードです。選択肢1で行くべきなのです。

しかし何もわからない状態で記者会見するには、どうすればいいのでしょうか?

私が今まで見てきた中で特に印象に残っているのは、2007年12月14日に長崎県佐世保市のスポーツクラブ「ルネサンス佐世保」で発生した銃乱射事件のトップ会見です。

当時、午後10時にテレビをつけたところ、ルネサンスの斎藤社長が記者会見している映像が流れていました。

事件発生が、14日午後7時15分。
斎藤社長の記者会見開始が、同日午後9時30分。
事件発生から記者会見まで、わずか2時間15分での会見でした。

斎藤社長は、2時間15分で、想定できなかった事件を知らされ、そのとき分かっている事実を把握した上で、記者会見をマスコミ各社に通知し、ご自身の言葉で記者会見に臨まれたのです。

当時、ネットでも「この社長すごい」という書き込みが多く見られました。

斎藤社長はこの後責任をとって辞任されました。トップのリーダーシップのあるべき姿を見た思いがしました。

 

しかし多くの企業では、不祥事が起こると次のように考えています。

「何もわからない状態で会見をしても責められるだけだ。トップの面子もある。データが揃ってから、会見をセットしよう」

しかし最優先事項は「時間」です。

すべてのデータを揃えてから会見をセットしようとすると、広報担当者がどんなに不眠不休で頑張っても、数日後あるいは1週間後になります。

不祥事が起こった際に、何よりも不安なのはお客様です。その不安なお客様に応えるためには、何よりもスピードが大切です。遅くなればなるほど、不安は急拡大します。しかし時間をかけても得られる情報は実はそれほど多くありません。

一方でタイミングを失えば失うほど、市場の信頼が落ちてしまうのです。

では、どうするか?
トップが限られた情報の中で判断し、公開できることは隠さずに話し、不安な顧客に応えることです。そして、「現時点で入手可能な情報で、憶測は排除し、語るべきことは何か」を考え抜いた強いメッセージが必要です。

ルネサンスの斎藤社長は、言葉には出しませんが、覚悟ある態度から、

『私は逃げも隠れもしません。任命責任も含め、すべて自分の責任です』

という覚悟が強く伝わってきました。見事です。

トップの謝罪会見は、「事実」よりも、「誠実」かどうかの姿勢が求められます。そして最後に「トップとしてお客さんにどうしたいか」をポジティブに伝える場でもあるのです。そのために「トッププレゼン力」が必要なのです。

一方で川崎会長の会見を見ると、技術面で今すぐ出来る「トッププレゼン力」の改善点が4点あります。

(1)低く落ち着いた声でゆっくり話すこと

声が弱く、頼りなく感じられてしまいます。呼吸を整えて、ゆっくりと低い声で話すことです。会見直前に「悪代官スペシャル」を行うと、トップとしての覚悟と胆力が伝わります。

(2)水を飲んでおく

会見中、頻繁に舌を出して唇をなめていました。唇をなめると、落ち着きのない印象になります。原因は緊張して口が渇いているからです。会見直前にしっかりと水を飲んでおくことでほとんど解決します。

(3)髪を整える

髪の毛が乱れていました。余裕がないように見られます。お忙しかったのかもしれません。特に、前髪がたれて目線にかぶっていました。アイコンタクトは大事なコミュニケーションの武器になります。会見前、2分でも時間をとって、目にかぶらないよう前髪は後方にセットすると印象が良くなります。

(4)まばたき

まばたきが多く、後ろめたい印象を与えています。人は、緊張しているときや、おびえているとき、目が乾燥しているとき、まばたきの回数が増えるのです。逆に、深く集中しているときほどまばたきの回数は少なくなります。直前に、目が乾かないよう潤いを与えるような目薬をさしておくと、まばたきが軽減されるかと思います。

 

 

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たった2秒で誰でも出来るのに、出来ない人が多い「ボタン問題」

 

ある日のトッププレゼンを見に行ったときのことです。トップがスーツ上着のボタンを留めていないことに気がつきました。

「たかがボタン」と思いがちですが、これが出来ていないトップはとても多いのです。就活生が上着のボタンを全部留めているのを見かけて、「あらら」と思うこともよくありますが、ビジネス経験の長いトップでも、留め方を間違えている方、または「うっかりミス」をしている方は、結構多くいらっしゃいます。

立っているときは、2つボタンでも3つボタンでも、一番下ははずして着ます。一番下のボタンは飾りで、留めるものではないのです。

座るときは、全部はずして、上着の前を開けてください。スーツの型がくずれてしまうからです。
そして、面倒かもしれませんが、立つときはまたボタンをかけます。

立つときはかけて、座るときは開ける、これが基本。たった2秒で出来ることです。

ただ、ボタンに気をとられすぎて”まごまご”してしまうと、かえって良くありません。事前に「相手とのアイコンタクトを外さず、ボタンを留めたり、はずしたりできるように」練習をしておくと自信を持ってスマートに出来ると思います。

この「ボタン問題」について、先日テレビを見ていて「さすが!」と思ったことがあります。

ここ10日間、日本は衆議院選挙で大盛り上がりです。テレビをつければ国会議員の先生方のインタビューばかり。よく見ると国会議員の先生方は、突然メディアインタビューを受けるような場面でも、カメラの前に来ると、カメラ目線と同時に必ず脊髄反射で上着のボタンを留めているのです。数限りなく同じ動作を行ってきたことを感じさせる実にスムーズで自然な動きです。

プレゼンの舞台に立つときでも、ただプレゼンが上手であれば良いというものではありません。お客さんの前に出るからには、ある程度のマナーが必要ですし、見た目も大事です。

ちょっとしたことすが、マナーを守るだけでその人の格は上がるもの。皆さんもプレゼンのときに気をつけてみてくださいね。

 

 

 

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トッププレゼンは社員と社会に伝わる無言のメッセージ

 

ある有名外資系企業の新戦略発表会でのこと。

トップのプレゼンで、プロジェクターに映しだしている資料と、話している内容が、かみ合わない場面が長く続きました。それは明らかに資料の操作を行っているスタッフのミスでした。企業のトッププレゼンを見る機会も多いのですが、これほど初歩的な失敗はあまりお目にかかったことのないもの。

そのトップは失敗を不満に思ったのか、突如話すのを止め、壇上で腕組みし、立腹した表情を見せたのです。

ここはメディア関係者を招いている公式発表会。トップは会社を代表する立場として見られています。もし自分のミスでなくとも、怒りをスタッフに向けるくらいでしたら、自ら聴衆側に一言お詫びする方が良いと感じました。

しかし、実はもっと怖いことがあります。

メディアに出るということは、多くの自社社員も見ているということです。トップの心のあり方を社員は敏感に感じ取り、会社全体に広がります。一見、「トップ広報はメディアに向けたもの」と思われるかもしれませんが、社員にメッセージを伝える場でもあることを、ほとんどのトップは意識されていないようです。

その後、この外資系企業は、会見で発表した戦略が2年以上経過してもほとんど形になっておらず、苦戦しています。

一方、ある外資系メーカーのブランド戦略発表会でのことです。

トップは、自分のプレゼン後、会場の客席から部下二人が緊張した様子で行っているプレゼンを見つめていました。私はトップのすぐ後ろの席に座っていたのですが、微動だにせず真剣な表情で見守っているのです。そのまなざしは、「上司として厳しい評価の目」というよりは、「任せた」というような腹決めが感じられました。

そして、会見中最も印象的なシーンが訪れました。極度に緊張しながらも無事話し終わった部下に対して、そのトップは座席を立って自ら歩み寄り、メディアの前でがっちりと握手したのです。

「外資系だし欧米式の儀式だろう」と思われる方もいるかもしれません。しかし、この握手によってイベントの成功を印象づけ、部下へのねぎらいとチームが一枚岩になっていることを社会へ向けて強くアピールすることができたのです。

そして、更に大事なことは、トップの形だけではない「腹決め」が、何も言わなくとも態度から社員に、そしてメディアを通して市場に伝わっているということなのです。

この外資系メーカーは、現在も国内シェアトップの王道を走り続けています。

企業においてのトップとは、一般社員にとって「違う世界の人」であるのではないでしょうか?それが、トップの意図と反して「孤高のカリスマ」となってしまうケースも多いのです。国内最強とまで言われた企業のトップ退任のケースも記憶に新しいところですが、こうなってしまうとどんなに上手くいっている企業でも、その末路は遅かれ早かれ訪れることになるでしょう。

トップの腹決めは、トッププレゼンから無言のメッセージとして社員に伝わり、そして社会に伝わるのです。

 

 

 

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トップの言葉にインパクトが宿る、簡単な方法

 

「トップにプレゼンで『いつもと同じように話してください』と言っても、どうしても堅苦しい言葉で話すんです。インパクトがないんですよね。寝てしまう人も多くって…」

最近、広報の方からこんなご相談がありました。

真面目なトップの方は、「きちんと話さなくては」と思い込み、堅苦しい言葉を使ったプレゼンになりがちです。
また、「頭では分かっているんだけど、本番ではどうしてもよそ行きの言葉になってしまう」という方も多いもの。

アナウンサーがニュースを読むような、普段から使い慣れていないような言葉で話していても、気持ちは伝わりません。

しかし、どんな方でも簡単に、言葉に力を与えてインパクトあるプレゼンができるようになる方法があります。

ファミリーマート社長、澤田貴司さんのプレゼンを取材に行ったときのことです。
じつは、澤田さんは必ずしも上手ではありません。テンションが上がるとだんだん早口になり、言葉が滑って言い間違いも多かったのです。
しかし、今年上半期取材した中で一番の、インパクトあるプレゼンでした。

澤田さんの話し方は、大きな特徴があります。

 「のれんを『ドーンと』(腕を左右に大きく広げる)店の前に作りました」

 「商品開発して、いろんなものを商品展開に『ぶちこんでいく』」

 「『ガツン!』(間合い)と出ますんで(お相撲さんの押しのようにパーにした手を前に出す)」

 「『ガンガン!』(間合い)世の中に対していろんなものを発信していければいいなぁ」

 「面白いものを『ドンドン!』(間合い)仕掛けていきたい」

澤田さんは、「濁点言葉」を多用していたのです。濁点は言葉に迫力を加え、聞き手に強烈な印象を与えます。濁点言葉を言った後に、間合いと手振りを入れると更に効果が高まります。

(詳しくは、宣伝会議デジタルマガジンの記事『熱量の高さで人と市場を動かす ファミマ澤田社長のプレゼン分析』をご覧下さい)

澤田さんのように身振り手振りを加えれば最強ですが、普通に話していても、「濁点言葉」を盛り込めば、簡単に言葉にインパクトを与えることができるのです。

もし、伝えたい強い想いがあるのなら、プレゼンの中で濁点言葉を使ってみてはどうでしょうか。

 

 

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経営者が大変貌する瞬間を実感した、ファミマ・澤田社長のプレゼン

 

「新しいトップは元プログラマーでエンジニア出身です。そのためかすごく地味。うちは営業が強い会社なので、なんとか盛り上げて欲しいのですが…」

確かにエンジニアの方は自分の世界をきちんと持っている人が多いのですが、一方で感情を表に出さない人も少なくありません。もどかしい思いをする広報さんも多いかもしれませんね。

じつは最近、別人のように変わったトップのプレゼンを見て、度肝を抜かれました。

2017年6月5日、ファミリーマート(以下ファミマ)の新戦略記者発表会で、ファミマの社長に就任してちょうど1年の澤田貴司さんのプレゼンを見たときのことです。

どんなプレゼンをするのかとても興味がありました。
プレゼンが始まるや、澤田さんは戦闘能力全開。見た目は以前とは別人でした。

十数年前、ユニクロにご在籍中、澤田さん・柳井さん・玉塚さんが写っている写真があります。この時はメガネをかけてふっくらされていました。前職の経営支援サービス会社・リヴァンプ代表のときは、やや今の雰囲気に近づいてましたが、現在のように首の後ろまで日焼けしていませんし、こんなに筋肉質にシェイプアップされていません。今は目つきも鋭く、プレゼンも完全なパッション型。気合いが漲り、一部のスキも感じられないないほどです。また、ランニングシャツ一枚になって「ファミチキ先輩」というキャラクターに仮装している写真も公開する大サービスぶり。

「演じている」などと言う言葉が生やさしく感じられるほどの「本気」でした。

肉体的な変化はトライアスロンを始めたこともあると思います。しかしこれだけの気迫は、ファミマのトップに就任して世間から脚光を浴び、人生初の「事業会社トップ」という大舞台に立ったことが主な理由かもしれません。

そしてもう一つの理由は、コンビニ業界出身ではなかったということです。

澤田さんはファミマ社長就任当初、「コンビニ業界はど素人です」と言っていたのが強く印象に残っています。コンビニは、社員、店舗オーナー、店舗スタッフを抱えています。さらにファミマだけではなく、会社の風土が違うサークルKとサンクスも買収して仲間になります。巨大な連合体なのでです。

コンビニのプロではない澤田さんが会社を盛り上げるには、「兄貴肌で面倒見よく、積極的な資質を前面に押し出して、社員の目線に立つ」という自分の強みを極限まで活かすことだ、と腹を括ったのではないでしょうか。

この日、澤田さんのなりふり構わない姿を見て、ヒリつくような命懸けの仕事に取り組んでいる姿が心に強く残りました。
人は、人生において何かを成し遂げようと覚悟して進化する瞬間があるのだ、ということを目の当たりにした体験でした。

詳しくは、月刊『広報会議10月号』に執筆記事が掲載されています。もしよろしければご覧ください。

 

 

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