タカタ、東芝、日産、神戸製鋼所、三菱マテリアル…。最近、企業の謝罪会見が続いています。
広報担当者さんたちのご苦労はさぞ大変だろう、とお察ししつつも、メディアでの反応は厳しく、批判的な記事も多く見られます。
謝罪会見と言えば、多くの方々が思い出すのは、20年前の11月24日、山一証券・野澤正平社長の会見でしょう。
「社員は悪くありませんから。どうか社員の皆さんを応援してやってください。お願いします。
1人でも2人でも、皆さんが力を貸していただいて再就職できるように、この場を借りて私からもお願いします」
号泣しながらの謝罪会見でした。
謝罪会見での、「泣く」「感情的になる」などのふるまいは、トップとして冷静な判断ができないという印象を与えるため、通常はNG。しかし海外では、「保身に走らず、社員のことを必死に考える素晴らしい社長だ」と高く評価する人もいるそうです。
野澤さんは、24日に放送されたテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で、あのときのことを振り返り、こう語っています。
「あの涙の会見を悪くいう人も良くいう人もいる。しかし私は、あれは自分でも恥ずかしくない。あの涙には2つあって、7割が社員の事で頭がいっぱい、3割は社長になって頑張ったけれど駄目だったという悔し涙です」
確かに既に経営破綻している状態で、守る会社は既にない状態です。
まだ多くの守るべきものを抱えている企業の謝罪会見と同一に比較すべきではないかもしれません。
しかし言い訳せずにすっぱりと負けを認め、『私は逃げも隠れもしません。すべて自分の責任です』という腹決めを、純粋な気持ちでパッションと共に伝えたのがあの会見でした。
他の誰も代替の効かない、腹の底からわき上がってくる野澤社長ならではの言葉を、パッションと共に語れば、本気が伝わり、人の心は動きます。
その後、山一証券の社員さんたちは、自ら起業したり、大企業に再就職したり、また企業のトップを務める方々もいて、多くが活躍しています。
そして現在、山一証券の社員さんだった方が、M&Aを提案する独立系の証券会社として、新生「山一証券」を復活させていました。元山一の方も社外取締役として就任しています。「つぶれない会社にする。千年続く企業にする」と力強く語っていたのが印象に残りました。
謝罪会見と言えば、ネガティブなイメージです。しかし、野澤さんの謝罪会見は、野澤さんのパッションが熱伝導し、20年もの間、元山一社員の人たちに「危機感」を植え付ける一つのきっかけになったのではないかと思います。
野澤さんの謝罪会見を見てから、改めて最近の謝罪会見を見ると、感じることがあります。雛形に忠実なスタイルが多いのです。もちろん、言ってはいけないことを話してしまうリスクがあるので、雛形は必要です。しかし生身の人間同士のコミュニケーションです。雛形通り行うということは、「雛形通りにやれば問題ない」という気持ちが、どうしても聴き手に伝わってしまうのです。
謝罪会見は、社外も社内も一斉に注目しています。
もちろん、ある程度のルールに沿って話すことも必要です。
しかし皆が注目するからこそ、そのトップにしかできない言葉で語ることもまた、大切なのです。