リーダーの弱みが、組織を強くする

ある大企業の女性広報部長さんがこうおっしゃっていました。

「社長から責任ある役職を打診されたんだけど、自信がないんですよね」

普通は喜んで受けるような大抜擢のポジションです。しかしその方は「自分にはムリ。断ろうかな」と悩んでおられました。

これはとてももったいないことです。
実は、自分の弱さを認識した上で、そのことを隠そうとしない人のほうが、最強のチームを創れる可能性が高いのです。

100円ショップのダイソーを成功させた創業者の矢野博丈さんも、人前で自分の弱さを隠さない方です。

出演したテレビ番組で、苦難の創業秘話を語ると人目をはばからず泣き、イベントや商談には、頭に巨大ナイフを刺した被り物をして「申し訳ない、こんな格好で社長です」と皆を笑わせながら登場します。

また、雑誌のインタビューでも、虚勢を張らずに弱い自分をさらけ出しています。

「ワシは運が良かっただけ。先見の明とかそんな話じゃありません。運の悪い企業は油断するとすぐに倒産しかねません。改めて考えると、ダイソーも本当に大大夫なんでしょうか。こんなにいろんな歯車がうまく噛み合うということは、逆にそろそろ噛み合わなくなる可能性もあるわけで…。お話ししている間に怖くなってきました」(日経ビジネス2017.12.11)

『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』の著者、ダニエル・コイルは、「リーダーが自分の弱さを認め、チームで弱さを共有することが強い協力関係をつくり上げる」と述べています。

一般的に、リーダーは弱さを隠そうとして、強い自分をアピールしがちです。しかし、このような虚勢を張るリーダーの姿を見た部下は、自分も弱さを隠すようになります。こうして組織の中で信頼関係が生まれにくくなってしまいます。むしろリーダーが弱さを隠さないことで、相手との間に「弱さのループ」が生まれ、チーム全体が信頼関係が生まれて、協力しあうような組織になっていくのです。

もちろんいつも弱音ばかりを吐くのは論外です。
しかしリーダーに抜擢されたのは、上司が「この人は任せれば力を発揮する」と潜在力を見極めたからです。

真面目に仕事に取り組みつつ、自身の弱みを隠さないリーダーが率いるチームが、強いチームに育つのです。

 

『2023 広告界就職ガイド』に「緊張しても話せる面接対策」特集記事掲載

『2023 広告界就職ガイド』(宣伝会議)に、6ページの「緊張しても話せる面接対策」特集記事掲載いただきました。

口ベタで話せない、頭が真っ白になってしまう、重役が出てきてビビってしまった…。そうやって自分自身を伝えきれずに泣いてしまう学生さんもいます。
そんな学生さん方に、緊張を操って、悔いなく自分を伝えられるテクニックを伝える内容になっています。

学生さんだけではなく、通常の面接にも応用できますので、ご興味ございましたらぜひご覧下さい。

 

失敗体験を語れる組織文化は、成長する組織文化

今、組織行動学者エドモンドソンが提唱した「心理的安全性」が注目されています。

エドモンドソンは「『心理的安全性』の高い組織は不正が起こりにくく、成長や進化をもたらす」と述べた上で、心理的安全性の高い組織を作るためのポイントとして、リーダーが「格好つけずに正直に話し、失敗を恐れないこと」を挙げています。

しかし失敗は恥ずかしいですし、隠したくなるものです。誰にとっても失敗を語るのは、気持ちの良いものではありません。そして失敗をネガティブに捉えると、間違いは報告されず、不正隠蔽が起こりやすくなります。

『失敗の科学』の著者、マシュー・サイドによれば、人は失敗について2つのタイプがいると言います。

・「固定型マインドセット」の人…失敗をネガティブに捉えてスルーします
・「成長型マインドセット」の人…失敗をポジティブに捉えて強い興味を示します

ある2人の心理学者が「フォーチュン1000」にランクインした7社の社員を対象に広範なアンケートを行い、各企業のマインドセットを調査したところ、大成功を収めた企業は「成長型マインドセット」の組織文化を持っていることが分かりました。

「固定型マインドセット」の企業は失敗を恐れ、ミスが報告されにくい一方、「成長型マインドセット」の企業では、誠実で協力的な組織文化が浸透していて、ミスに対する反応もはるかに前向きだったのです。

そして組織文化に最も大きな影響力があるのは、リーダーの本気の行動です。社員はリーダーの一挙手一投足をしっかり見ています。

そこで必要なことが、まずはリーダーが率先して派手な失敗談を語ること。これが失敗から学ぶ「成長型マインドセット」の企業文化へ徐々に変革するきっかけとなることです。

この際に大事なことは、失敗を認めること。認めるだけではなく失敗から学んだ経験を語ることです。

これから4月の新年度にかけて、皆さんの前でお話することも増えてくると思います。
つい自分の成功談を話したくなるものですが、多くの社員は、上司の自慢話には本音では飽き飽きしています。しかし失敗談は興味を持って聞くものです。

この機会に「失敗体験の棚卸し」をしてみるのもいいかもしれませんね。

 

商談で相手が真剣に話しを聞くために

伝え方が上手い人には1つの共通点があります。

それは「聴き手が期待していて、自分しか語れないこと」を話すこと。

どんなに話し方の技術を高めても、自分が話したいことだけを話していたり、他の誰でも語れる内容を話していれば、相手は聞き流してしまいます。しかしたとえ話し下手であっても、聴き手が期待する自分しか語れないことを話せば、聴き手は真剣に話を聞いてくれます。

そのためには、まず相手を知ること

「そんなこと言っても、相手がどんなことに関心があるのか分からない…」と思われるかもしれません。でもネットやSNSで検索してプロフィールを読み込めば、その人がどんな人で、何に興味がありそうか、おおよその見当がつきます。

またB2Bでは、相手の勤務先の企業サイトたメディア情報を読み込んでおくのも一つの方法です。

伝え方が上手な人は、まず会う前に相手に興味を持って調べています。
とくにカリスマ営業と言われるような人は、商談前に会う相手のことを徹底的に調べ尽くします。
その上で、相手が興味があり、かつ自分だけが伝えられることを話します。だから相手は真剣に話を聞き、結果としてビジネスが成功するのです。

ただこのような準備も、あくまでも「仮説」に過ぎません。
当日は相手の話をよく聞いた上で、予め考えた「仮説」を検証し、もし違ったら別に用意していた二の矢・三の矢の仮説を繰り出しながら話せば、さらに成功する可能性が高まります

話が伝わらないのは必ずしも話し方の技術の問題だけではなく、事前準備にも原因があるのです。

話し下手でも伝え方上手になる方法

「この男に任せた。そう決断したのです」

2020年、西武園ゆうえんちリニューアル記者会見取材に伺ったときのこと。
西武HD・後藤高志社長にそう言わしめたのは、当代きってのマーケター・森岡毅さんでした。

森岡さんはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)復活の立役者として知られています。その後森岡さんに託された西武園ゆうえんちは、コロナ渦にもかかわらず、現在チケット売上はコロナ前の13倍。またもや大成功に導きました。

しかし森岡さんは会見で「自分一人で何とかなるものではない。周囲の皆さんに動いてもらわなくては成功は見えてこない」と語っていました。
なぜ、森岡さんのプロジェクトでは、人が動くのでしょうか?
マーケターとしての力量は絶大なものですが、それに加えて森岡さんはとても「伝え方上手」な人なのです。

「伝え方上手」とは、ただ話しが伝わる、というだけではありません。

伝えることで、人が動くことです。

森岡さんは決して素晴らしい話し方をする方ではありません。どちらかというと早口で、聞き取り難いことすらあります。
でも森岡さんが話すと、話を聞いた人は、動かずにはいられなくなるのです。

そんな森岡さんの伝え方は、 私たちも努力すれば真似ができるポイントがあります。
それは、相手が共感するWHY=大義名分から話し始めること。

世界的ベストセラー『WHYから始めよ!』の著者サイモン・シネックは、「『WHY→HOW→WHAT』の順番で語れば人は動く」と述べています。
人は、「なぜそれをしなければならないのか」という大義名分を聞くと、自分ごとに置き換えて考えるようになり心が動きます。

対照的にうまく伝わらない多くの人の場合、製品やプロジェクトの説明から入ってしまいます。だからスルーされてしまい、誰も動いてくれません。

西武HD・後藤社長との会見の冒頭、森岡さんはこのように語りました。

「日本のエンターテインメントはディズニーやUSJだけではいけない。消費者にとって彩り豊かな選択肢のある世の中こそが経済成長期を続ける。所沢の遊園地が持続可能なものになることは所沢周辺の地域にとっても素晴らしいことだし、それを見ている同業のビジネパーソンの方々に勇気を与える。この意義は大きい。難しい挑戦だが『何とかするんだ』と覚悟を決めた」

会見後のメディアでは、森岡さんのメッセージが多く取り上げられていました。
大義名分から語り、社会を動かしたのです。

大義名分といっても、大げさなものばかりでなくて構いません。身近なもので良いのです。

このメルマガを読まれる方は、新年でチームに語るお立場の人も多いと思います。
今度のあなたのプレゼン、大義名分から語ってみませんか。

経営トップのツッコミどころが高める「心理的安全性」

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンが提唱している「心理的安全性」が注目されています。
心理的安全性とは「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」組織風土のこと。
心理的安全性の高い組織では、不正が起きにくくなり、イノベーションが生まれやすくなります。

エドモンドソンは、心理的安全性の高い組織を作るためのポイントを以下のように言っています。

・リーダーが「自分が完璧でない」と認め、社員の話を謙虚に聞くこと
・格好つけずに正直に話すこと
・失敗を恐れないこと

そのために私がご提案していることがあります。リーダーがあえて「ツッコミどころ」を作って、自ら敷居を下げることが有効です。リーダーと言えども完璧ではありません。社員は「トップは自分と同じく一人の人間だ」と認識して、はじめて本音を話すようになるからです。

「リーダーがツッコミどころを作る? そんなの非常識だ」と思われるかもしれません。しかしそのような考え方が心理的安全性が低い組織を作っているのです。

低迷するソニーを復活させた元社長の平井一夫氏は、社員とのタウンホールミーティングを行い、「ルールはない。何を聞いてもよい」というルールを決め、皆が発言しやすくするために、奥様を同席させて茶々を入れさせるなど、あえてツッコミどころを作ったと著書『ソニー再生』に書いています。

数年前に取材した「よなよなエール」で有名なクラフトビールの会社、ヤッホーブルーイングの記者会見でも、まさにツッコミどころ満載でした。
当日、井手直行社長は、なんと全身新商品キャラクター姿で登場したのです。それを周囲の社員は楽しそうに笑って見ています。
また井手社長は、自身を「社長」ではなく「てんちょ」(店長)と呼ばせ、社員と和気藹々と話していました。社長と社員の間にある壁の低さを感じました。
社長の仮装も、呼び方も、役職の壁を一気に外す破壊力があります。
ヤッホーブルーイングは、2017年から5年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出され、コロナ禍でも働きがいを高めて、18年連続増収増益を実現しています。

日本は世界で最も序列を重視する文化だ、と言われています。
組織の下層にいる社員の方から壁を崩すことは、困難を極めます。
心理的安全性の高い組織文化を作れるのは、経営トップしかいません。
まずトップから壁を崩し始めることが必要なのです。

オンラインコミュニケーションの壁を乗り越える方法

ウィズコロナのおかげで、オンラインでの話し合いが可能になり、以前よりも気軽に人と会って話せるようになりました。

最近も、初対面同士のオンライン会議に同席していました。すると、会議のキーマンである方のお顔が逆光で真っ暗。
まったく表情が読み取れないのです。議論が活性化しないもどかしさを感じました。

リアルであれば、逆光で表情が分かり難くても空気感が伝わるので、ある程度は察することができます。
しかしオンラインは、カメラやマイクを通しているため、リアルのように空気感を共有しながら相手を察してコミュニケーションしにくいデメリットがあるのです。
そのため、どんなに話し上手でも、伝わり難く残念な結果になってしまいがちです。

人は無意識に「最初の15秒」で相手を判断しています。
第一印象で「顔が暗い」、「顔が分断されている」、「声が聞き取り難い」などの要素は相手にストレスをかけてしまいます。

主な原因は、テクニカル投資不足。
投資と言っても多額の投資は必要ありません。
オンライン専用のカメラやマイク、照明に投資するだけで大きく差が付くのです。

オンラインコミュニケーションには、「テクニカルの壁」があります。
「テクニカルの壁」は、必要な投資を行い、対策を打てば誰でも乗り越えられるものです。話し上手かどうかは関係ありません。

リアルとオンラインの「二刀流時代」にビジネスを成功させるには、オンラインのテクニカル強化が必要不可欠なのです。

不正の起きにくい心理的安全性の高い組織文化の作り方

今年、三菱電機の長年の不正が発覚し、社会的な問題になりました。
三菱電機が公表した調査報告書では「言ったもん負け」の企業文化であったことが書かれていました。

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、「心理的安全性の低い組織では、率直に話せば自分の身を危険にさらすことになるため、皆が沈黙する」と言います。
心理的安全性とは、「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」と感じる組織風土のこと。
このような心理的安全性が高い組織では、マイナス情報でも経営層に伝わり、不正が起きにくくなります。

もう随分前になりますが、現在の仕事を始める前、ある企業に関わらせていただいたことがありました。
トップが出席する会議では良い情報しか出てきません。悪い情報を出すとトップの機嫌が悪くなり、人事評価も悪くなるからです。
会議前のプロジェクトリーダーは、「絶対に完璧な提案以外はしちゃいけないから大変だ」といつも神経質になっていました。
トップの「悪い情報は聞きたくない」という無言のメッセージが組織に浸透して、「心理的安全性」が低下し、仕事のミスは一切報告されませんでした。

このような組織文化は、長い年月をかけて醸成されるものです。
長い年月かけて構築されたものを変革するには時間がかかります。

ただ、心理的安全性を高めるために効果の高い方法があります。

それは、まずトップ自身が、心理的安全性の重要さを認識することです。
そして、トップが「完璧でないことを認め、社員の話を謙虚に聞くこと」「格好つけずに正直に話すこと」「失敗を恐れないこと」がポイントになることをエドモンドソンは述べています。

ある企業の広報担当者さんに、「会社の暗い雰囲気を何とかしたいんです」というご依頼をいただき、トップのプレゼンをご支援したことがありました。
目指す組織文化を確実に浸透させる大きなチャンスの一つが、4月の新入社員入社式です。
まだ組織文化に染まっていない新入社員は、生まれたての雛と同じ。見るも聞くものが全て新鮮で、何事も素直に吸収します。
入社式は、トップ自身の言葉でビジョンや存在意義を伝えて浸透させ、新入社員の行動を定めるベストの機会なのです。

そこで入社式では、トップに「失敗してもいい。自分もたくさん失敗している。失敗を恐れず、失敗から学んでチャレンジしてほしい」と、あえてトップの弱みも含めたメッセージを率直に語ってもらいました。
すると、その様子を見ていた役員の方々も、自身の若い頃の失敗談を次々と披露し始めたのです。
その後、新入社員に向けた無記名のアンケートでは、「社会人として仕事をする上で、今日のメッセージは覚えておきたい」というコメントも多く見られました。

憧れているタレントや有名人の、話し方や服装まで似てしまった経験がないでしょうか。
人は、自分が良いと感じたものを模倣する行動をとります。組織文化は行動の真似をして生まれるのです。
組織で一番強い影響力を持つのは、トップです。
トップが良き規範として行動の台本になれば、それを見た社員は真似をし、組織文化は次第に良い方向へ変わっていくのです。

怖い質問が楽になる便利な言葉

「質問が怖い」。皆さん、よくおっしゃいます。

緊張して臨んだプレゼンで、厳しい質問をされるのではと思うと、余計に緊張してしまいそうです。

それに、「なぜこんなことを聞いてくるんだろう、何か意図があるのでは?」と思わずムッとしてしまいたくなることもあるものです。

憂鬱になりそうな質疑応答ですが、これさえ覚えておけば楽になります。

『すぐに答えなくていい』

もし困ってすぐ答えられなかったら、少々黙ってもいいですし、答えたくなければ真っ正直に答えなくてもいいのです。

間違っても「あ〜」とか「え〜」とか言って、沈黙を自ら打ち破ってはいけません。緊張しながら「それで、え〜、だから、あ〜」などと行っていると、相手に「困っているな」とすぐに分かってしまいます。

瞬発力は必要ありません。

良い答えが浮かぶまで時間をとりましょう。

そのために便利な言葉があります。

「良いご質問ですね…」
「面白いご質問ですね…」

加えて、斜め上を見上げ、言葉が降りてくるのを待つポーズをとると効果的です。
質問者や会場の方々も「真摯に答えようとしているな」と安心します。
ムッとしたときも、時間をとれば感情を爆発させずクールダウンさせることもできます。

ちょっとした時間で良い答えが浮かぶものです。
皆さんは、本当はベストの答えを知っているのです。ただ、ちょっと慌ててしまったり、動揺してしまって良い答えができないだけなのです。

厳しい質問には、「瞬発力は百害あって一利なし」と割り切って、ぜひ時間をとってみてください。

 

リーダーの涙は隠さなくていい。でも嘘泣きは厳禁

運転免許停止中に人身事故を起こし書類送検され、7回にわたって無免許運転をしたとして在宅起訴された木下富美子都議の会見が話題になっています。
会見が火に油を注ぎ、SNSでも「反省してない」「不快」とネガティブな感想が多く見られました。
これで思い出されるのが、2014年、詐欺罪で有罪となった野々村元議員の号泣会見。こちらも大きく炎上していましたね。

脳科学的な知見によれば、人間の脳は、無意識の世界で他者のわずかな感情や行動の表現を読み取る「共鳴」という仕組みを持っています。作り笑いや嘘泣きを見ると無意識に不快に感じるのもこの仕組みのため。だからムリに演じて見せても、聴き手はどこか違和感を感じてしまうのです。

ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージが2003年に提唱した「オーセンティック・リーダーシップ」が注目されています。オーセンティックとは「本心に偽りがない」という意味です。

ウソ偽りのないリーダーに対して人は絆を感じるようになります。人間的な絆を感じながらの仕事は、高いお給料よりも社員の忠誠心を高めることも分かっています。

たとえば、トヨタの豊田章男社長は、リコール問題で米国公聴会の謝罪後、従業員の前で激励の声をかけられ涙ぐんでいました。これはトヨタ社員の結束を高めました。

1997年11月24日、倒産した山一證券・野澤正平社長の会見。「社員は悪くありませんから。どうか社員の皆さんを応援してやってください」と号泣しながらの謝罪会見を行いました。その後も、野澤社長を慕う社員はとても多いのです。

「経営者たるもの、人前で泣くなんて言語道断」と思われるかもしれませんが、真実なら感情を隠さなくても良いのです。だから泣くのもあり。でも本心を偽った嘘泣きは厳禁です。

ここ一番のプレゼンや会見でも、聴き手の心を動かすのは「自分らしさ」
自分自身を見つめ、自分らしさを貫くことがリーダーに求められているのです。

 

プレゼンで人を突き動かす方法

「話し下手だからスルーされちゃって伝わらないんですよね…」というお悩みを多く聞きます。

実はスルーされるのは最悪です。プレゼンの目的は、聴き手に何かを伝え、良い方向に行動を変えてもらうこと。この目的が達成できないからです。

しかし、話し下手でもスルーされない方法があります。

それは「誰もが共感する大義名分」から話し始めること。
つまり「Why」から話すべきなのです。
人は、「それをする意義は何か?」というWhy=大義名分や理念に共感します。

しかし現実には、ほとんどの人は「What」(製品・プロジェクト)や「How」(使い方・方法)しか語りません。
だからスルーされてしまうのです。

人々の心を突き動かす人たちは、必ずWhyを話しています。

低迷するソニーを復活させた前CEOの平井一夫さんは、「ソニーは方向性を失ってしまっている」と感じていました。
そこで「ソニーは『感動』を提供するために存在する。それが今のソニーが目指すべき姿だ」と考え、新しい時代のソニーが向かうべき方向性を示す言葉を「KANDO」(感動)という一言で言い表しました。
この「KANDO」こそが「ソニーはどのような大義や使命のために存在しているのか?」を語るWhyなのです。

平井さんは、世界中の拠点を回り、70回以上のタウンホールミーティングを行い、社員たちに「KANDO」を語りかけてきたと著書「ソニー再生」で述べています。

しかしWhyが語られていなければ、いくら話し方が上手でも人の行動は変わりません

「プレゼンがスルーされてしまう」とお悩みの方は、一度プレゼン資料を見直してみましょう。
あなたはWhyから語っていますか?

 

【参考文献】
サイモン・シネック『Whyから始めよ!』日本経済新聞出版社(2012年)
平井一夫『ソニー再生』日本経済新聞出版(2021年)

 

プレゼンで聴き手の反応が良くなる方法

「内容も良くて、プレゼンも上手くいったはずなのに、なぜかお客さんの反応がいまひとつ良くないんです」

このようなお悩み、本当によく伺います。
一言でいうと、「ウケが悪い」ということですね。

内容の良いことが大前提ですが、プレゼンで格段に聴き手の反応を良くする方法があります。

それは、聴き手に問いかけることです。

聴き手は話しを聴きに来ているのに、なぜ問わなくてはいけないの?と不思議に思われるかもしれませんね。

じつは、聴き手に問いかけることで、相手を敬う気持ちが伝わります。人は、他人から敬われて無視することはできません。

また良い問いは、聴き手に刺激を与え、思考を促します。
退屈することがないので、反応も良くなるのです。

以前、KDDIの高橋誠社長の会見を取材したことがありました。高橋社長は記者の顔を良く覚えていて、囲み取材では頻繁に問いかけていました。

私は70回近くトップの会見取材を重ねていますが、ここまで記者の反応がよかったのは見たことがありません。
会見後も、メディアで多くの記事を見ることができました。

お客さんの反応が悪いと悩んでいる方の殆どは、自分が話すことに力を注ぎすぎています。
一度、自分が話すことから少し距離を置いて、聴き手に「考えを聞かせてほしい」と問いかけ、その話に耳を傾けてみてください。

一人、二人に問いかけるだけでも、全体の反応が良くなります。
「今日はなんだか反応よくないなあ」と感じたら、ぜひ、お試しください。

困った数字の質問に答える方法

「ウチの社長、サービス精神旺盛で、メディアの前でつい数字を言っちゃうんですよね…」

広報担当者さんのよくあるお悩みです。

メディア対応で困るのが「数字」に関する質問です。
とくに記者会見で、販売目標数値などの質問の回答は注意が必要です。
短期的成果が求められがちな現代において、数字を言う場合は慎重に検討し、覚悟を決めて言うべきなのです。

ただ、何でもかんでも「お答えできません」では印象がよろしくありません

そこで本日は、質疑応答で困った数字の質問を受けたときに、上手く乗り切る方法の一つをお伝えします。

2019年8月、三井不動産の「日本橋再生計画第3ステージ 記者発表会」にうかがったときのことです。

三井不動産は、首都高の高架橋を撤去し、日本橋に青空を甦らせる日本橋再生プロジェクトを進めていました。そのためには首都高速道路の地下化が不可欠なのですが、「(地下高速道路)わずか1キロで数千億円もかけるのはいかがなものか」と必要性を疑問視する声も一部ではあがっていました。

そのような社会的な背景もあったため、菰田社長が「非公開」と明言しているにも関わらず、記者から事業投資額に関する質問が繰り返されました。
緊迫感が高まり、ついに菰田社長は横に立つ広報担当者に「答えますよ」というような目線を送ると、「数千億から1兆円の間ってことでしょうね。ちょっと幅が広くて申し訳ないんですけど」と茶目っ気のある笑顔を向けたのです。

決定的な数字は言わず、許容範囲ギリギリのところで乗り切った絶妙な回答だったと思います。この「数千億から1兆円の間」は、後日メディアで多く露出していました。

非公開の数字を聞かれて答えるのが難しくても、ヒントをあげたいときがあります。

そのようなとき、「ちょっと幅が広くて申し訳ないんですけど」に、プラス「笑顔」

困った数字を聞かれたときに、ぜひお試しください。

 

プレゼンで緊張しても上手くいく方法

「人前で緊張するから話したくない」と思われる方は少なくありません。

手足や声がふるえる、頭が真っ白になる、汗が出る…。
大勢の方々の前でこのような状態になってしまうのは、辛いものですよね。

私も人前で緊張してしまうことで悩んでいました。
「緊張しなくなる方法」が書いてある本を読み漁り、実行してみましたが、余計に緊張してしまうのです。

たとえば、ある本には「自意識過剰です。他人は気にしてないと思いなさい」と書かれています。
でも、「他人は気にしない、気にしない…」と思い込もうとして内容に集中できなくなり、かえって失敗しやすかったのです。

また、ある本には「恥も外聞も捨てて、役を演じるつもりで思い切り表現すれば緊張しない」と書かれていました。
しかし、そもそも緊張している状態なので、思い切り表現できるわけがありません。

そこで、本日は緊張しても、緊張を和らげながら上手くいくための、2つの方法をご紹介します。

(1)自分のプレゼンをスマホで撮影し、自分で見る

これは緊張対策としてかなり効果の高い方法です。
動画をご覧になった方々が口を揃えておっしゃるのは、

「意外と緊張しているように見えない」

というものです。

話している本人は客観的に自分が見えてないことが多いものです。
緊張で上手くいっていないと思っているのは思い込みだったことに気がつくのです。
良い気づきがあれば、人前に出ることはそれほど恐怖ではなくなります。

これは「認知行動療法」とも言われているものです。

じつは、録画するともっと良いことがあります。
録画は想像しているものと違うことが多いため、改善点が見つかりやすいのです。
「それほど悪くないと思っていたのに、じつは全然足りないことが分かった」という発見が多いのも、録画の効果です。

(2)最初の5分は丁寧に練習しておく

緊張がきついのは最初の5分くらいです。
どんな方でも、長時間極度な緊張が続くことはないと思います。
冒頭5分はなんとか乗り切れるように何度も練習しておきます。

もし極度な緊張の中で失敗してしまうと、更に緊張してしまい、立ち直るまで時間がかかってしまいます。
でもこの5分を乗り切れれば、その後は少しずつ緊張が和らいで上手くいくようになります。

たとえば、リハーサルで、5分だけでも録画して見直してみると、本番でどのように見えるのか確認できるので安心できます。
丁寧な準備と練習を行えば、緊張しない人より良いプレゼンになることも多くあります。
ぜひ、最初の5分だけでも納得いくまで練習して臨んでみてください。

 

面接で困った逆質問に対応する方法

面接のとき質問が怖いですという方多いと思います。

「面接官から、”なんでも質問していいよ”逆質問の時間があって、用意してなくて焦ってしまいました」

と仰る方がいました。

質問を考えるのは意外と難しいんですね。
ですから、これは差別化のチャンス。あらかじめ企業のHPは見ておくと良いですね。

逆質問対策には2つのポイントがあります。

1つ目は、できるだけ具体的に。

具体的と言っても「御社の社食にカレーはありますか?」などはあまり適切ではありません。

2つ目は、その会社特有のことを聞く。

理由は「興味を持っています」という意思表示になるからです。
出来ればメディアに出ていない情報がベストです。

たとえば、「御社は、市場が拡大するという理由で、アフリカに投資を増やす方針ですが」、…と、ここまではメディアに出ています。
でも、ここから先が大事です。
「新入社員のような私は何年後にチャンスをいただけますか?」
と、このような質問してみるのです。
「この人は、本気で、当社で仕事をしたいと思っているし、やる気もあるな」と思われます。これはマニュアル化できません。

逆質問では、自分をアピールするチャンスですので、ぜひ心づもりをしておくと良いでしょう。

不祥事会見では、トップの言葉だけがピンチをチャンスに変えられる

最近、ますます増えているのが不祥事会見。
不祥事で不買運動が起こると、売上激減、最悪倒産。まさに企業の危機です。
この危機で会社の命運を左右するのが、トップの言葉です。

たとえば2014年の野々村元議員の号泣会見。
振り返ればもう7年前の話。いまでもYouTubeにはこの会見動画が多数アップされています。
不祥事の会見で対応を間違えると、その動画が永久保存版になってしまうのです。怖いですよね。これが企業の場合、企業ブランドへの悪影響は計り知れません。

一方で立派だったのが、トヨタ自動車の豊田章男社長。10年ほど前、トヨタはアメリカで品質が大きな問題になって米国議会に呼ばれ、公聴会で証言しました。この時、豊田社長は誠実な姿勢でこう言いました。

「全てのトヨタの車には私の名前が入っている」
「責任をとることがトップの役割である」

自分の言葉で「私は逃げも隠れもしません」いう態度を示しました。これで問題が収まり、豊田社長の評価も高まりました。

公聴会後、豊田社長は米国トヨタの工場を訪れました。従業員からねぎらいの言葉を受けて思わず涙ぐみましたが、この態度がトヨタ社員の結束を高めました。

同じ涙でも、野々村元議員と随分と違うものです。

危機で最も大切なのは、まず誠実な態度。そして自分を見失わないこと。
トップの言葉だけが、大きなピンチを大きなチャンスに変えることができるのです。

トップ会見で企業ブランドを高めるコツ

トップは企業の顔。トップの会見はメディアからの注目度が俄然高まります。

トップが会社をしっかり語ることができれば、多くのメディアに取り上げられ、企業ブランドは高まります。
ただ、注意点があります。

「しっかり語る」とは、必ずしも「理路整然と話すこと」だけではありません。
短い言葉で力強く、会社のことが一瞬で伝わる言葉を語ることです。

鳥取県の平井伸治知事は、ダジャレ知事で知られています。
これまで「地味な県」と思われていた鳥取県を、ダジャレで盛り上げ知名度を上げています。

取材をした時、「鳥取にはスタバはないですが、日本一のスナバ(鳥取大砂丘)があります」を思いつきで言ったことがきっかけとなり、有名になってしまいました。

他にも「カネはないけどカニはある」「星取り県」「とっとりで待っとります」など、多くのダジャレを世に送り出しています。鳥取県の知名度向上ために、県職員さんと一緒にダジャレを考えているそうです。

スティーブ・ジョブズがiPhone4を発表した時の「これは、かつて人類が生み出したモノの中で最も美しいモノだ」という台詞も有名です。
これもジョブズ=アップルという強烈な企業ブランディングです。

企業ブランドを高めるためには、会社を一瞬で覚えてもらえる言葉を、トップに語ってもらうことなのです。

トップは会社の存在意義を情熱持って語れ…ソニーの場合

時々、広報担当者さんがもどかしそうにおっしゃいます。
「トップが社員の前で話したがりません。会社を盛り上げてほしいのに…」

人前で話すのが苦手なトップ、意外に多いですよね。
でも社員からすると、部長経由で間接的に「社長はこう言ってますから、皆さん頑張りましょうね」といわれるよりも、やはりトップ自身のやる気が出る言葉を聞きたいものです。

ただ、やる気といってもEXILEばりの「気合い」は不要。
強いメッセージがあれば、「気合い」や「パフォーマンス」はいりません。
強いメッセージを伝えて社員さんたちを動かすことを「インナーブランディング」と言います。

ソニーの前CEO・平井一夫さんが就任した時、ソニーは業績低迷の真っ直中。
そこで平井さんは徹底的に考え抜きました。
「ソニーの存在意義は、何だろう?」
そして出てきた答えが、これでした。
「ソニーは『感動』KANDOを実現する」

いまやソニー社員は海外の社員数が日本人社員数を上回っています。
たとえば映画「スパイダーマン」は、ソニー製作です。

平井さんは全世界を駆け回り、ソニー社員に「KANDO」という言葉を直接伝え続けました。
平井さんは大変プレゼンが上手な方ですが、もっと大切なことがあります。
それはプレゼン技術をはるかに上回る、ものすごく熱いパッションがあること。
2017年、銀座ソニービルで「ソニービルフィナーレイベント」が行われました。
私はこのイベントを現地で取材しましたが、平井さんが雨の中で放った熱いシャウトは、今でも鮮烈に覚えています。

現在、ソニーの業績は絶好調。利益は1兆円を超え、時価総額は一時期15兆円まで行きました。

インナーブランディングでは、トップの熱いメッセージ力が社員を動かします。
会社の存在意義を考え抜く。そして社員の前で情熱を持って、繰り返し語り続けることが会社を元気にしていくのです。

プレゼンで自社商品の訴求力を上げる出発点は、一つしかない

プレゼンで「自社商品の訴求力を上げたいのですが…」というご質問をいただくことがあります。
カギは、商品の良い面を強くPRして良い印象を残すことに尽きます。では、どのようにすればいいのでしょうか?

私が取材した会見の中でも、「よなよなエール」などで有名なクラフトビールのヤッホーブルーイングとキリンとの資本業務提携会見は、商品ブランディングを際立たせる見事な会見でした。

見せ場は会見の最後でした。ヤッホーブルーイングの井手社長がテーブルの上にあった自社ビール「よなよなエール」を二つ手に取り、キリンの磯崎社長に「では、乾杯しましょう!」と声をかけました。そして乾杯して二人で飲んだ後、井手社長は磯崎社長に「どうですかーっ?!」と聞いたのです。

ビールを飲んで「どうですか?」と聞かれると、ビール会社の人は脊髄反射で言う言葉は一つしかありませんよね。
磯崎社長は思わず「旨いっ!」と返したのです。

ポイントは、これが磯崎さんの自社ビールではなかった点。大手ビールメーカーであるキリンの磯崎社長が、当時今ほど有名ではなかったよなよなエールを「旨い」と言ったのは、ヤッホーブルーイングにとって最高の商品ブランディングとなりました。

井手社長は心の底からヤッホーのビールを愛しています。井手社長の行動のすべては、この真っ直ぐな愛情が出発点。だから真正面から大手ビール会社社長を相手に「乾杯しましょう」「旨いでしょう?」と言えるのです。

このように商品ブランディングの出発点は、自社商品に対する一点の曇りもない愛情なのです。
御社は自社商品に深い愛情を持っていますか?

うまく話すには、文章を書こう

「大事なときに言葉が出てこなくて悔しい思いをしています。言葉がスラスラ出てきて、論理的に話せるにはどうすればいいでしょうか」

このような質問を受けたことがあります。

これは表現法の基礎を磨くことです。そのためには、話すよりもまず文章を書くことをおすすめします。
文章表現が上達するとプレゼンテーションも上手くなります。

記者会見を取材して文字起こしをしますと、書く事が得意ではない人の話しは、思い込みや論理の飛躍が多く、記事にするときに苦労します。

一方、文章の上手い話し手は、話していることを文字に起こせばそのまま本にできそうなくらい話しが論理的に展開されています。
ある多作家の大学教授は、ご自身の講義を録音しながら話していました。出版された本を読むと、講義で聴いた内容がそのまま文章化されていて驚いたことがあります。

文章を上手にするコツは、毎日書く癖をつけることです。
いきなり長い文章を書くのは難しいので、100文字〜500文字くらいの量を書いてみるといいでしょう。
フェイスブックのような人に読んでもらえるような場所で文章を書く習慣をつけるのが継続するコツです。