謝罪会見後に株価が上がる会見、下がる会見

ここ数年、増える一方の不祥事会見。
メディアから厳しい批判にさらされながら深々と頭を下げている経営者を見ると、いつも胸が痛みます。
決して他人事ではないからです。メディアの前に立つ可能性は低いものの、一般人でも、社内やコミュニティでいきなり同じ立場に立たされる可能性は少なくありません。そして、こんな場面は、ある日突然やって来ます。

世の中の謝罪会見を見ていると、会見後に鎮火する会見と、さらに炎上してしまう会見があることに気がつきます。どこが違うのでしょうか。

ハーバード・ビジネススクール教授・ビル・ジョージらの著書「オーセンティック・リーダーシップ」で、“効果的な謝罪”と“逆効果を招いてしまう謝罪”の違いが最近の研究で明らかになっていると述べられています。

トップが笑みを浮かべて謝罪した企業は、株価の下落が判明しました。謝罪に誠意がないとみなされたからです。
逆に、悲しそうな表情のトップが謝罪した後、株価は上昇していることが明らかになりました。
悲しそうな表情で行った謝罪は、投資家に「この人は誠実だ」と感じさせて、信頼を獲得することができるのです。

また謝罪会見で業績悪化を外部要因のせいにする企業は、自社の力不足を認める企業より2倍多く、それらの企業の財務状況はその後も引き続き悪化していました。逆に、自らの責任を認めた企業の収益状況は上昇に転じているのです。

これらを理解すると、効果的な謝罪には2つのポイントがあることがわかります。

・まず、自分の非を認める。
・そして心から謝罪の意を示す。

孔子は『論語』の中で、「過ちて改めざる。 これを過ちという」と言っています。
誰でも間違いはあります。間違う事が悪いのではありません。間違いを反省せずに改めない事が、間違いなのです。

人間ですから道から外れるのは仕方ありません。
間違いから反省して正しい道に戻ってくること。
そして大切なことは、単に反省して戻ってくるのではなく、改め、成長する、ということなのです。

 

リーダーの弱みが、組織を強くする

ある大企業の女性広報部長さんがこうおっしゃっていました。

「社長から責任ある役職を打診されたんだけど、自信がないんですよね」

普通は喜んで受けるような大抜擢のポジションです。しかしその方は「自分にはムリ。断ろうかな」と悩んでおられました。

これはとてももったいないことです。
実は、自分の弱さを認識した上で、そのことを隠そうとしない人のほうが、最強のチームを創れる可能性が高いのです。

100円ショップのダイソーを成功させた創業者の矢野博丈さんも、人前で自分の弱さを隠さない方です。

出演したテレビ番組で、苦難の創業秘話を語ると人目をはばからず泣き、イベントや商談には、頭に巨大ナイフを刺した被り物をして「申し訳ない、こんな格好で社長です」と皆を笑わせながら登場します。

また、雑誌のインタビューでも、虚勢を張らずに弱い自分をさらけ出しています。

「ワシは運が良かっただけ。先見の明とかそんな話じゃありません。運の悪い企業は油断するとすぐに倒産しかねません。改めて考えると、ダイソーも本当に大大夫なんでしょうか。こんなにいろんな歯車がうまく噛み合うということは、逆にそろそろ噛み合わなくなる可能性もあるわけで…。お話ししている間に怖くなってきました」(日経ビジネス2017.12.11)

『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』の著者、ダニエル・コイルは、「リーダーが自分の弱さを認め、チームで弱さを共有することが強い協力関係をつくり上げる」と述べています。

一般的に、リーダーは弱さを隠そうとして、強い自分をアピールしがちです。しかし、このような虚勢を張るリーダーの姿を見た部下は、自分も弱さを隠すようになります。こうして組織の中で信頼関係が生まれにくくなってしまいます。むしろリーダーが弱さを隠さないことで、相手との間に「弱さのループ」が生まれ、チーム全体が信頼関係が生まれて、協力しあうような組織になっていくのです。

もちろんいつも弱音ばかりを吐くのは論外です。
しかしリーダーに抜擢されたのは、上司が「この人は任せれば力を発揮する」と潜在力を見極めたからです。

真面目に仕事に取り組みつつ、自身の弱みを隠さないリーダーが率いるチームが、強いチームに育つのです。

 

失敗体験を語れる組織文化は、成長する組織文化

今、組織行動学者エドモンドソンが提唱した「心理的安全性」が注目されています。

エドモンドソンは「『心理的安全性』の高い組織は不正が起こりにくく、成長や進化をもたらす」と述べた上で、心理的安全性の高い組織を作るためのポイントとして、リーダーが「格好つけずに正直に話し、失敗を恐れないこと」を挙げています。

しかし失敗は恥ずかしいですし、隠したくなるものです。誰にとっても失敗を語るのは、気持ちの良いものではありません。そして失敗をネガティブに捉えると、間違いは報告されず、不正隠蔽が起こりやすくなります。

『失敗の科学』の著者、マシュー・サイドによれば、人は失敗について2つのタイプがいると言います。

・「固定型マインドセット」の人…失敗をネガティブに捉えてスルーします
・「成長型マインドセット」の人…失敗をポジティブに捉えて強い興味を示します

ある2人の心理学者が「フォーチュン1000」にランクインした7社の社員を対象に広範なアンケートを行い、各企業のマインドセットを調査したところ、大成功を収めた企業は「成長型マインドセット」の組織文化を持っていることが分かりました。

「固定型マインドセット」の企業は失敗を恐れ、ミスが報告されにくい一方、「成長型マインドセット」の企業では、誠実で協力的な組織文化が浸透していて、ミスに対する反応もはるかに前向きだったのです。

そして組織文化に最も大きな影響力があるのは、リーダーの本気の行動です。社員はリーダーの一挙手一投足をしっかり見ています。

そこで必要なことが、まずはリーダーが率先して派手な失敗談を語ること。これが失敗から学ぶ「成長型マインドセット」の企業文化へ徐々に変革するきっかけとなることです。

この際に大事なことは、失敗を認めること。認めるだけではなく失敗から学んだ経験を語ることです。

これから4月の新年度にかけて、皆さんの前でお話することも増えてくると思います。
つい自分の成功談を話したくなるものですが、多くの社員は、上司の自慢話には本音では飽き飽きしています。しかし失敗談は興味を持って聞くものです。

この機会に「失敗体験の棚卸し」をしてみるのもいいかもしれませんね。

 

経営トップのツッコミどころが高める「心理的安全性」

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンが提唱している「心理的安全性」が注目されています。
心理的安全性とは「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」組織風土のこと。
心理的安全性の高い組織では、不正が起きにくくなり、イノベーションが生まれやすくなります。

エドモンドソンは、心理的安全性の高い組織を作るためのポイントを以下のように言っています。

・リーダーが「自分が完璧でない」と認め、社員の話を謙虚に聞くこと
・格好つけずに正直に話すこと
・失敗を恐れないこと

そのために私がご提案していることがあります。リーダーがあえて「ツッコミどころ」を作って、自ら敷居を下げることが有効です。リーダーと言えども完璧ではありません。社員は「トップは自分と同じく一人の人間だ」と認識して、はじめて本音を話すようになるからです。

「リーダーがツッコミどころを作る? そんなの非常識だ」と思われるかもしれません。しかしそのような考え方が心理的安全性が低い組織を作っているのです。

低迷するソニーを復活させた元社長の平井一夫氏は、社員とのタウンホールミーティングを行い、「ルールはない。何を聞いてもよい」というルールを決め、皆が発言しやすくするために、奥様を同席させて茶々を入れさせるなど、あえてツッコミどころを作ったと著書『ソニー再生』に書いています。

数年前に取材した「よなよなエール」で有名なクラフトビールの会社、ヤッホーブルーイングの記者会見でも、まさにツッコミどころ満載でした。
当日、井手直行社長は、なんと全身新商品キャラクター姿で登場したのです。それを周囲の社員は楽しそうに笑って見ています。
また井手社長は、自身を「社長」ではなく「てんちょ」(店長)と呼ばせ、社員と和気藹々と話していました。社長と社員の間にある壁の低さを感じました。
社長の仮装も、呼び方も、役職の壁を一気に外す破壊力があります。
ヤッホーブルーイングは、2017年から5年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出され、コロナ禍でも働きがいを高めて、18年連続増収増益を実現しています。

日本は世界で最も序列を重視する文化だ、と言われています。
組織の下層にいる社員の方から壁を崩すことは、困難を極めます。
心理的安全性の高い組織文化を作れるのは、経営トップしかいません。
まずトップから壁を崩し始めることが必要なのです。

不正の起きにくい心理的安全性の高い組織文化の作り方

今年、三菱電機の長年の不正が発覚し、社会的な問題になりました。
三菱電機が公表した調査報告書では「言ったもん負け」の企業文化であったことが書かれていました。

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、「心理的安全性の低い組織では、率直に話せば自分の身を危険にさらすことになるため、皆が沈黙する」と言います。
心理的安全性とは、「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」と感じる組織風土のこと。
このような心理的安全性が高い組織では、マイナス情報でも経営層に伝わり、不正が起きにくくなります。

もう随分前になりますが、現在の仕事を始める前、ある企業に関わらせていただいたことがありました。
トップが出席する会議では良い情報しか出てきません。悪い情報を出すとトップの機嫌が悪くなり、人事評価も悪くなるからです。
会議前のプロジェクトリーダーは、「絶対に完璧な提案以外はしちゃいけないから大変だ」といつも神経質になっていました。
トップの「悪い情報は聞きたくない」という無言のメッセージが組織に浸透して、「心理的安全性」が低下し、仕事のミスは一切報告されませんでした。

このような組織文化は、長い年月をかけて醸成されるものです。
長い年月かけて構築されたものを変革するには時間がかかります。

ただ、心理的安全性を高めるために効果の高い方法があります。

それは、まずトップ自身が、心理的安全性の重要さを認識することです。
そして、トップが「完璧でないことを認め、社員の話を謙虚に聞くこと」「格好つけずに正直に話すこと」「失敗を恐れないこと」がポイントになることをエドモンドソンは述べています。

ある企業の広報担当者さんに、「会社の暗い雰囲気を何とかしたいんです」というご依頼をいただき、トップのプレゼンをご支援したことがありました。
目指す組織文化を確実に浸透させる大きなチャンスの一つが、4月の新入社員入社式です。
まだ組織文化に染まっていない新入社員は、生まれたての雛と同じ。見るも聞くものが全て新鮮で、何事も素直に吸収します。
入社式は、トップ自身の言葉でビジョンや存在意義を伝えて浸透させ、新入社員の行動を定めるベストの機会なのです。

そこで入社式では、トップに「失敗してもいい。自分もたくさん失敗している。失敗を恐れず、失敗から学んでチャレンジしてほしい」と、あえてトップの弱みも含めたメッセージを率直に語ってもらいました。
すると、その様子を見ていた役員の方々も、自身の若い頃の失敗談を次々と披露し始めたのです。
その後、新入社員に向けた無記名のアンケートでは、「社会人として仕事をする上で、今日のメッセージは覚えておきたい」というコメントも多く見られました。

憧れているタレントや有名人の、話し方や服装まで似てしまった経験がないでしょうか。
人は、自分が良いと感じたものを模倣する行動をとります。組織文化は行動の真似をして生まれるのです。
組織で一番強い影響力を持つのは、トップです。
トップが良き規範として行動の台本になれば、それを見た社員は真似をし、組織文化は次第に良い方向へ変わっていくのです。

会見では、タレントに使われるな。タレントを使え

 

「会見で芸能人を呼ぶと、芸能人ばかりがメディアで話題になって、商品が全く注目されないので困ってます」

このようなお悩みを持つ広報さんが多くいらっしゃいます。

確かに有名タレントを会見に呼べば注目度が上がり、メディアも多く集まります。特に話題になっているタレントが出演する会見は、テレビ関係者も多く集まり、会見は賑わいます。

ただ、企業が会見を行う本来の目的は商品を訴求することです。問題はタレント情報中心に訴求されてしまうことなのです。

タレントを使いながら商品・サービスの訴求力を上げるための方法があります。それは、タレントのコンテンツを商品と融合させて、タレントの言葉でストーリーを語らせること。

具体的には、タレントが商品に対する愛着があること、または愛着を持ってもらうことが有効です。

2019年9月5日に行われた、三陽商会『GINZA TIMELESS 8』オープン記念セレモニー&メディア向け内覧会では、タレントでモデルのパンツェッタ・ジローラモ氏が出演していました。

この日、会見の目玉である三陽商会のオーダースーツ「STORY&THE STUDY」をあらかじめジローラモ氏に着用してもらい、着心地や質の良さを語ってもらっていました。ファッション誌のモデルを長く務めてきたことでギネスにも載っているジローラモ氏が語るファッションのストーリーは説得力が極めて高く、会見後一般メディアだけでなく芸能ニュースでも、ジローラモ氏の言葉でSTORY&THE STUDYを取り上げられていました。

一方ある企業では、会見当日、タレントに商品をプレゼントするという演出を行っていました。このような演出だと、タレントはサプライズで喜んでくれるのですが、商品を使ったことがないので使い心地もよく分からず、タレントの語る言葉に説得力が出てきません。従って、訴求力も弱くなってしまうのです。結果的にタレント情報ばかりがメディアに露出し、商品はほとんど無視されてしまっていました。

高額なコストをかけてタレントを使っても、これではもったいないですね。

会見でタレントを使いながら商品を訴求するには、タレントとコンテンツと融合させ、タレントの言葉でストーリーを語らせることなのです。

詳しくは、広報会議12月号に記事が掲載されています。

 

2019/11/13 | カテゴリー : 広報戦略 | 投稿者 : nagaichika