ブログ「次世代トッププレゼン」
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話し下手でも伝え方上手になる方法
「この男に任せた。そう決断したのです」
2020年、西武園ゆうえんちリニューアル記者会見取材に伺ったときのこと。
西武HD・後藤高志社長にそう言わしめたのは、当代きってのマーケター・森岡毅さんでした。
森岡さんはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)復活の立役者として知られています。その後森岡さんに託された西武園ゆうえんちは、コロナ渦にもかかわらず、現在チケット売上はコロナ前の13倍。またもや大成功に導きました。
しかし森岡さんは会見で「自分一人で何とかなるものではない。周囲の皆さんに動いてもらわなくては成功は見えてこない」と語っていました。
なぜ、森岡さんのプロジェクトでは、人が動くのでしょうか?
マーケターとしての力量は絶大なものですが、それに加えて森岡さんはとても「伝え方上手」な人なのです。
「伝え方上手」とは、ただ話しが伝わる、というだけではありません。
伝えることで、人が動くことです。
森岡さんは決して素晴らしい話し方をする方ではありません。どちらかというと早口で、聞き取り難いことすらあります。
でも森岡さんが話すと、話を聞いた人は、動かずにはいられなくなるのです。
そんな森岡さんの伝え方は、 私たちも努力すれば真似ができるポイントがあります。
それは、相手が共感するWHY=大義名分から話し始めること。
世界的ベストセラー『WHYから始めよ!』の著者サイモン・シネックは、「『WHY→HOW→WHAT』の順番で語れば人は動く」と述べています。
人は、「なぜそれをしなければならないのか」という大義名分を聞くと、自分ごとに置き換えて考えるようになり心が動きます。
対照的にうまく伝わらない多くの人の場合、製品やプロジェクトの説明から入ってしまいます。だからスルーされてしまい、誰も動いてくれません。
西武HD・後藤社長との会見の冒頭、森岡さんはこのように語りました。
「日本のエンターテインメントはディズニーやUSJだけではいけない。消費者にとって彩り豊かな選択肢のある世の中こそが経済成長期を続ける。所沢の遊園地が持続可能なものになることは所沢周辺の地域にとっても素晴らしいことだし、それを見ている同業のビジネパーソンの方々に勇気を与える。この意義は大きい。難しい挑戦だが『何とかするんだ』と覚悟を決めた」
会見後のメディアでは、森岡さんのメッセージが多く取り上げられていました。
大義名分から語り、社会を動かしたのです。
大義名分といっても、大げさなものばかりでなくて構いません。身近なもので良いのです。
このメルマガを読まれる方は、新年でチームに語るお立場の人も多いと思います。
今度のあなたのプレゼン、大義名分から語ってみませんか。
経営トップのツッコミどころが高める「心理的安全性」
組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンが提唱している「心理的安全性」が注目されています。
心理的安全性とは「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」組織風土のこと。
心理的安全性の高い組織では、不正が起きにくくなり、イノベーションが生まれやすくなります。
エドモンドソンは、心理的安全性の高い組織を作るためのポイントを以下のように言っています。
・リーダーが「自分が完璧でない」と認め、社員の話を謙虚に聞くこと
・格好つけずに正直に話すこと
・失敗を恐れないこと
そのために私がご提案していることがあります。リーダーがあえて「ツッコミどころ」を作って、自ら敷居を下げることが有効です。リーダーと言えども完璧ではありません。社員は「トップは自分と同じく一人の人間だ」と認識して、はじめて本音を話すようになるからです。
「リーダーがツッコミどころを作る? そんなの非常識だ」と思われるかもしれません。しかしそのような考え方が心理的安全性が低い組織を作っているのです。
低迷するソニーを復活させた元社長の平井一夫氏は、社員とのタウンホールミーティングを行い、「ルールはない。何を聞いてもよい」というルールを決め、皆が発言しやすくするために、奥様を同席させて茶々を入れさせるなど、あえてツッコミどころを作ったと著書『ソニー再生』に書いています。
数年前に取材した「よなよなエール」で有名なクラフトビールの会社、ヤッホーブルーイングの記者会見でも、まさにツッコミどころ満載でした。
当日、井手直行社長は、なんと全身新商品キャラクター姿で登場したのです。それを周囲の社員は楽しそうに笑って見ています。
また井手社長は、自身を「社長」ではなく「てんちょ」(店長)と呼ばせ、社員と和気藹々と話していました。社長と社員の間にある壁の低さを感じました。
社長の仮装も、呼び方も、役職の壁を一気に外す破壊力があります。
ヤッホーブルーイングは、2017年から5年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出され、コロナ禍でも働きがいを高めて、18年連続増収増益を実現しています。
日本は世界で最も序列を重視する文化だ、と言われています。
組織の下層にいる社員の方から壁を崩すことは、困難を極めます。
心理的安全性の高い組織文化を作れるのは、経営トップしかいません。
まずトップから壁を崩し始めることが必要なのです。
オンラインコミュニケーションの壁を乗り越える方法
ウィズコロナのおかげで、オンラインでの話し合いが可能になり、以前よりも気軽に人と会って話せるようになりました。
最近も、初対面同士のオンライン会議に同席していました。すると、会議のキーマンである方のお顔が逆光で真っ暗。
まったく表情が読み取れないのです。議論が活性化しないもどかしさを感じました。
リアルであれば、逆光で表情が分かり難くても空気感が伝わるので、ある程度は察することができます。
しかしオンラインは、カメラやマイクを通しているため、リアルのように空気感を共有しながら相手を察してコミュニケーションしにくいデメリットがあるのです。
そのため、どんなに話し上手でも、伝わり難く残念な結果になってしまいがちです。
人は無意識に「最初の15秒」で相手を判断しています。
第一印象で「顔が暗い」、「顔が分断されている」、「声が聞き取り難い」などの要素は相手にストレスをかけてしまいます。
主な原因は、テクニカル投資不足。
投資と言っても多額の投資は必要ありません。
オンライン専用のカメラやマイク、照明に投資するだけで大きく差が付くのです。
オンラインコミュニケーションには、「テクニカルの壁」があります。
「テクニカルの壁」は、必要な投資を行い、対策を打てば誰でも乗り越えられるものです。話し上手かどうかは関係ありません。
リアルとオンラインの「二刀流時代」にビジネスを成功させるには、オンラインのテクニカル強化が必要不可欠なのです。
不正の起きにくい心理的安全性の高い組織文化の作り方
今年、三菱電機の長年の不正が発覚し、社会的な問題になりました。
三菱電機が公表した調査報告書では「言ったもん負け」の企業文化であったことが書かれていました。
組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、「心理的安全性の低い組織では、率直に話せば自分の身を危険にさらすことになるため、皆が沈黙する」と言います。
心理的安全性とは、「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」と感じる組織風土のこと。
このような心理的安全性が高い組織では、マイナス情報でも経営層に伝わり、不正が起きにくくなります。
もう随分前になりますが、現在の仕事を始める前、ある企業に関わらせていただいたことがありました。
トップが出席する会議では良い情報しか出てきません。悪い情報を出すとトップの機嫌が悪くなり、人事評価も悪くなるからです。
会議前のプロジェクトリーダーは、「絶対に完璧な提案以外はしちゃいけないから大変だ」といつも神経質になっていました。
トップの「悪い情報は聞きたくない」という無言のメッセージが組織に浸透して、「心理的安全性」が低下し、仕事のミスは一切報告されませんでした。
このような組織文化は、長い年月をかけて醸成されるものです。
長い年月かけて構築されたものを変革するには時間がかかります。
ただ、心理的安全性を高めるために効果の高い方法があります。
それは、まずトップ自身が、心理的安全性の重要さを認識することです。
そして、トップが「完璧でないことを認め、社員の話を謙虚に聞くこと」「格好つけずに正直に話すこと」「失敗を恐れないこと」がポイントになることをエドモンドソンは述べています。
ある企業の広報担当者さんに、「会社の暗い雰囲気を何とかしたいんです」というご依頼をいただき、トップのプレゼンをご支援したことがありました。
目指す組織文化を確実に浸透させる大きなチャンスの一つが、4月の新入社員入社式です。
まだ組織文化に染まっていない新入社員は、生まれたての雛と同じ。見るも聞くものが全て新鮮で、何事も素直に吸収します。
入社式は、トップ自身の言葉でビジョンや存在意義を伝えて浸透させ、新入社員の行動を定めるベストの機会なのです。
そこで入社式では、トップに「失敗してもいい。自分もたくさん失敗している。失敗を恐れず、失敗から学んでチャレンジしてほしい」と、あえてトップの弱みも含めたメッセージを率直に語ってもらいました。
すると、その様子を見ていた役員の方々も、自身の若い頃の失敗談を次々と披露し始めたのです。
その後、新入社員に向けた無記名のアンケートでは、「社会人として仕事をする上で、今日のメッセージは覚えておきたい」というコメントも多く見られました。
憧れているタレントや有名人の、話し方や服装まで似てしまった経験がないでしょうか。
人は、自分が良いと感じたものを模倣する行動をとります。組織文化は行動の真似をして生まれるのです。
組織で一番強い影響力を持つのは、トップです。
トップが良き規範として行動の台本になれば、それを見た社員は真似をし、組織文化は次第に良い方向へ変わっていくのです。
「高めのカワイイ声だと、失敗も許してもらえる」という女性
私が講演で「落ち着いた低い声で話しましょう」とお話したところ、30代の女性から質問がありました。
「周囲は男性が多いんですよね。だから高めのカワイイ声で話すと、失敗しても許してもらいやすいんですよね」
このようにおっしゃる女性の方、意外と多いのです。
確かに現実には、多くの日本企業でまだまだ男性社員の比率が高いのが現実。女性は少数派。ある意味「男社会」です。
ご質問の裏にあるのは、「男社会だから、女性らしさを演じた方が男性ウケがいいのでは?」ということなのです。
もし「自分は職場の華でいい」というのなら、そのような考え方もあるでしょう。しかし「自分は仕事をちゃんとして評価されたい」とお考えであれば、少し考え方を変える必要があります。
ここでぜひ考えて頂きたいのは、「高めのカワイイ声で話すのは、本当に自分らしい話し方か?」ということです。
人間は誰でも、不思議な能力を持っています。
たとえば、不祥事会見をしている有名人をテレビなどで見ていて、こう思ったことはありませんか?
「これって、自分は悪いと本気で思っていないよね。とりあえず形だけ謝れば良いと思っているんじゃないの?」
自分の本心を偽って無理に演じると、相手は無意識に演じていることがわかるのです。これは人間の脳が、無意識の世界で他者のわずかな感情や行動の表現を読み取る「共鳴」という仕組みを持っているからです。このためにムリに演じて見せようとすると、聴き手はどこか違和感を感じてしまうのです。
「ごめんなさぁ〜い。間違っちゃいましたぁ」
と高い声で誤魔化すのと…、
「申し訳ありませんでした。私の責任でした。今後気をつけます」
と落ち着いた声で言うのとでは、どちらが信頼されるか、という話しですね。
確かに高いカワイイ声で話せば、大抵の男性はその場では大目に見てくれるでしょう。でも「仕事でちゃんと評価されたい」と思っているのに、相手が「カワイイ感じで謝っているけど、誤魔化している感じがする。本当に悪いと思っているのかな」と思ったとしたら、とても残念ですよね。高い声ではなく、むしろ低い落ち着いた声で話した方が、人は「この人は本音で話しているし、信頼できる」と感じます。そして安心感を覚えます。
仕事で評価されたいとお考えでしたら、高めの声で自分を偽るのはやめて、落ち着いた低い声で信頼される話し方をすることをお勧めします。