プレゼン最初の15秒はゴールデンタイム

何事もスタートによって出来の善し悪しが決まります。

これはスポーツでも同じです。
陸上競技のアスリートたちが、何度も繰り返しスタートの練習をしているのを見たことがあります。

また、相撲でも立ち会いで勝負がつきます。

子どもの頃に師事したピアノの先生から、あるアドバイスをいただいたことがあります。
「演奏は出だしで全て決まる。あなたは出だしがだめ。
相撲の立ち合いを見てごらんなさい。
演奏の出だしと似ているから。」

すると立ち合いというのは、すぐに行うのではなく、何度も何度も、水を飲んだり、タオルで汗を拭いたり、身体をたたいたりしながら、時間をかけて気合を高めていくのですね。
そして、対戦相手との呼吸を合わせるのも難しいものです。
「はっけよいのこった!」では相手と呼吸があわないとやり直しをさせられたりします。

それぐらい、出だしの立ち会いに気合いと集中力を高め、勝負をかけているのです。

プレゼンも同じです。

特に、プレゼンの場合は、スタート15秒がゴールデンタイムです。

出だしの15秒は、聴衆が一番興味と関心を持って発表者を見ているところです。
ここでしっかりとお客さんのお気持ちをつかんでおく必要があります。
すべってしまったり、つまらないことを話してしまうと、お客さんの気持ちは離れてしまい、もう取り戻しがききません。

話しの内容を決める上での重要なポイントを申し上げましょう。

あなたの話しを聞きにきている会場のほとんどのお客さんはどんな方々ですか?
お客さんのために何を話すか良く考えてください。
ある一部の方々にだけに向けられた話しであったり、お決まりの挨拶を長々と続けていませんか?

話す内容を深く考え抜き、特にスタートは何度も練習し、本番当日は集中力と気持ちを高めて臨みたいものですね。

プレゼンで歩き回って話さないほうが説得力が増す

海外のCEOで、よく激しく歩き回りながら話す人がいます。
また、その影響か、日本人経営者でもよく歩き回って話す人をよく見かけます。

一般的に、人前で話すとき、歩き回ったほうが活動的なイメージで良いと思われている傾向があるようです。

そして、人は緊張すると、歩き回りたくなるものです。

しかし、あまり動き回ると、落ち着きなくみえますし、感情の浮き沈みが激しいように見えてしまいます。これはもし経営者であれば、あまり良いことではありません。

経営者の場合、話すときは一カ所にとどまり、できるだけ歩き回らない方が、落ち着いて堂々と見え、説得力が増します。

話題が変化したりする場合のみ移動し、移動した先でまた正面を向いて下半身は動かさずに話しましょう。

もし、活動的なイメージを演出したかったら、手振りで表現すると良いと思います。

もちろん、「演台の後ろに立って一度も出てこない」というのよりは、動いても全身を出したほうがメッセージが伝わりますし、聴衆との距離感も近くなりますのでまだマシです。

緊張が最高潮に達してしまい、動かずにはいられない場合は、出来るだけおへその下の下腹に力を込めましょう。
おへその下9センチの場所を中心に、前に張るような気持ちで立つと、まっすぐに凜として立っているように見えますよ。

私は、結構緊張しやすいので、プレゼンの最初の5分くらいは、思い切り下腹に力を込めています。やはり、初めての方々の前で話すのは、最初なかなか空気がなじみません。でも、だいたい5分くらいするとそれほど頑張らなくても自分の空気感で話せるようになります。最初の数分でいかに自分のペースをつかむかが、この日上手くいくかどうかの勝負どころです。

正面を向いてまっすぐ立ち、話すときは下半身は動かず、下腹に重心を持って行く。
これで、声も響くようになるし、立ち姿も良くなり、一石二鳥です。
お試しください。

人から用意された資料でも説得力のあるプレゼンになる方法

企業においては、誰かの用意した資料を読んで説明しなくてはならない場面が多いのではないでしょうか。

お客さんへのプレゼンや、記者会見などで、資料に釘付けで棒読みされている方々をよく拝見します。それは、まったく自分の言葉ではなく、人の考えた文章です。
また、まず普段使われないような、口語体でない言葉もそのまま読み上げてしまうので、自分の中で消化されていないということがよく分かります。

企業の発表会でも、プロの司会者が、台本を持って台本通りに読んでいる場面をよく見かけますが、それは「間違いなく読む」ということが大きな目的で、人に記憶してもらおうとか印象づけようとすることとは正反対です。

 

ビジネスの場においては、間違いなく読むことよりも、いかに説得力や信頼感を持って伝えるかということのほうが大事です。

しかし、用意された台本や資料があれば、それを「つい読みたくなってしまう」というのも人情です。
台本が用意されていれば、「多少アレンジして話していいですよ」と申し上げても、人は必ずそこに頼ってしまいます。
これは、実際行うとまず間違いなくそうなってしまいます。

だから、台本があれば、人とのアイコンタクトもとれなくなりますし、緊張から高い声になり、早口で棒読みしていますので、まず説得力はありません

資料があっても、説得力をもって話すためには2つの方法とコツがあります。

1 覚えればベストです。

ほぼ記憶し、あとは自分の言葉で語ることができれば、断然説得力は上がります。
練習も必要です。企業のトップはぜひやっていただきたいところです。

2 見て話す練習をする

資料の見方もなかなか難しいものです。
「べったり見ないで話しましょう」と言っても、やはり人前に出ると、怖くなってしまい、資料から目が離せなくなります。高い山に鎖場があれば、必死で鎖にしがみついてしまうような状態と似ています。少しでも目を離すと、もう一度見たときに「あれ?どこまで話したっけ?」と自分の読んでいるところが迷子になってしまうことがあります。

なので、目は1秒以内で資料を確認し、それ以外は、聞き手とのアイコンタクトをしながら話す練習をしましょう

世界経営者会議でIBMのロメッティCEOは、資料を用意していましたが、間違ってはいけないような数字だけは1秒以内で見て確認し、あとはアイコンタクトをとって話していました。
見る技術も必要なのです。

この方法は、リハーサルをしましょう。ぶっつけ本番では、絶対に1秒以内で見ることはできません

そして大事なコツがあります。

良く響く低い声でゆっくりと語りかけるように話すこと。

低い声は人間の温かみや、信頼感や安心感を感じさせます。
私が、ビジネスの場で、低い声を使いましょうと言っているのは、ここに理由があります。

甲高い声で資料を読み上げるのでは、無機質で印象に残りません。

ぜひ、落ち着いて、いつもより低い声で話すくらいの気持ちで臨んでみてください。人にはちょうどよく聞こえるでしょう。

政治家も行っている人の心をとらえる簡単な目線の配り方

ただ綺麗な声、良く通る声、というのはある程度のトレーニングを積めば誰でも出すことが出来ます。しかし、努力してただ良い声を手に入れただけでは、本当に伝えたいことは伝わりません。

ほんの数人からでも、たくさんの人の前でお話しになる場合でも、良い声で行うスピーチとステージさばき・・・つまり、その場の空気を自分の空気で満たす要素が必要になってきます。

私が、皆さんのスピーチで特に気にしていただきたいことの一つに、「目線」の配り方があります。この目線一つで、聴き手に対する説得力は格段に変わってきます。

私は最初、演奏会のステージで学んだのですが、本日は一流の政治家も行っているという、大変簡単な方法をお伝えします。

私が人のスピーチを聴いていて、いつも気になるのは、演台に置かれた原稿や、パソコンを見てしまい、始終目線が伏し目がちになってしまっていることです。これでは、とても良いことをお話しになっていても、自信がなさそうに見えてしまい、本当にもったいないことです。

もし可能ならば演台はなくして、目線は客席に向けてください。

まず出て行くときが肝心です。
「この人はどんな人なんだろう」と聴き手が一番集中力を持ってみている場面だからです。

このとき、自分が歩いてくる方向と対角線上にある一番後ろのお客さんの目をじっと見ます。そこから目を離さない。

そして中央に歩いていくときには少しずつ目線を客席最後方逆サイドの移して行く。そうすると中央に立ったときには、先ほど見ていた人とは反対側の人の目をじっと見つめることになりますね。そしてゆっくりと、最初に見た人の目をもう一度見てください。

この目線の動かし方で、自分を全ての方々に見てもらうことが出来、より堂々として見えます。

そして、話しに入ったら、ある人にターゲットを決めて、その人と目線を合わせることです。最初なれないうちは、熱心そうに聴いてくださっている人がいいですね。
ターゲットは数分ごとに変えていきますが、あまり短い時間で常に目を動かし続けるのは落ち着きがなく見えてしまうので、避けたほうが良いと考えています。
まず、目をすえることを目標にしてください。

そうすると良いことがあります。落ち着きが感じられることはもちろん、聴き手は目線が合うことで、一対一で話しを聴いているような気持ちがするのです。大勢に話しているという感覚ではなく、ぜひ、その人一人に語りかけているつもりで話してください。

上手な講演を聴くと、不思議なことなのですが、大勢の人がいても、まるで常に自分のことをいわれているような、自分一人に語りかけてもらっているような気持ちになり、大変集中できることがありますね。ぜひ聴き手をそういう気持ちにさせてあげてください。

良い声を手に入れることももちろん大事なことなのですが、それを上手に「舞台」に乗せてあげることをしてみるとさらに良い声が生きてきます。

数字やスペックをスルーされないようにするには

企業の方々のプレゼンを拝聴していますと、特にIT企業の方は数字やスペックの話が多いものですね。

私はもともと数字があまり得意ではないので、プロジェクターの資料に細かい数字や数式が映し出されると、とたんに思考がストップしてしまいます。

数字やスペックの話は、お話しているご本人は良くご存知なので、サーッと流してしまいがちです。

じつはこれ、自分自身もそうなってしまいがちだったのです。皆さんのお顔を見ると、こういうときの聴衆の方々は一気に退屈そうな表情をしています。「きっと退屈なさってるだろうなあ」と察して、「話さないわけにはいかないけれど、退屈なさっているからサッサと話してしまおう」と思って、早口になってしまいがちです。

しかし、あるときから、数字やスペック、または理論の話をしなくてはならないとき、工夫するようになりました。

スルーされないようにするには、3点のポイントがあります。

(1)ゆっくり話す・指で示す

ただでさえ分かり難いものを早口にするとスルーされる。しっかりアイコンタクトをとって、念を押すくらいにゆっくり話すこと。と同時に、数字を指で示すジェスチャーをすると印象に残りやすい。

(2)見せる資料の要点をしぼる

できるだけ簡潔に、資料はぎっしり書かず、覚えてもらいたい文字や数字だけ大きく写しだし、あとは口頭で説明する。

(3)例えを用いたり質問形式にする

何か身近な物に例えると頭に入りやすい。
例:スピード感があるものと遅いものを比較したいときは「うさぎ」と「亀」の絵を入れるなど。

質問してみると思考ストップせずに考えてもらえる。
例:「一年間で何種類の製品が発売されていると思いますか?」と聴衆に質問。正解に意外な数字が出てくると驚きとともに記憶に残る。

話に心がこもって聞こえる簡単な2つのポイント

「心がこもってないと言われる」「話し方に抑揚がつかない」

良く受ける相談です。

以下2点を守れば誰でも話に抑揚をつけることができます。

【1】本番で台本を置かない

人に用意してもらった原稿を読むときは要注意。
ほとんどの人が読み上げることに精一杯で、抑揚をつける余裕などありません。

また、原稿をほぼ覚えたとしても、本番で原稿を置いておけばつい見てしまうのが人情です。
せっかく覚えて練習したのに、やはり棒読みになってしまいます。

もし、内容をほぼ覚えたとしたらば、本番で原稿の台本は置かず、話のポイントと全体の流れだけが分かるものを置いておくと良いでしょう。

自分の言葉で話すということです。

自分の言葉ではなしたほうが、より感情がのせやすく抑揚がついて聞こえるようになります。

特に経営者の方々は、他の人に資料を作ってもらうケースが多いので、棒読みになりやすく、内容が伝わりません。
忙しいかもしれませんが、出来れば、基本的に話す内容は自分で用意すると、より会社の理念が皆さんに伝わりやすくなります。

【2】声に息を混ぜる

「抑揚をつける」というと、声に高低差をつけることだと勘違いなさっている方が意外に多いのです。

実は,抑揚は、「声帯をきつく閉じるか、ゆるく閉じるか」によって決まります。

声を高くしたり低くしたりする必要はありません。

声帯をきつく閉じれば、強い声になり、緩く閉じれば弱く柔らかい声になります。
弱い声を出そうとして息を少なく出す方が多いのですが、実は、より弱い声を出したければ、声帯をよりゆるく閉じて息を混ぜれば良いのです。
この方法が良いのは、声帯をゆるく閉じて、息の流れを減らさなければ、どんなに弱い声でも遠くまで聞こえるようになることです。

そして、強い表現や、激情を表現したいときは、声帯をほどほどに閉じて、よりたくさんの息を流すと、熱いパッションを感じさせるような声になります。

例えば、小泉純一郎さんは、パッションが伝わりやすい政治家でした。
小泉さんは、言葉に息をたくさん混ぜて発声していることから、感情が伝わり、抑揚がついて聞こえたのです。

それでは声に息を混ぜて話すにはどうすればよいでしょうか?

まずは、一番簡単な方法をお伝えしましょう。

内緒話のときの声。
ヒソヒソとした声を出すとき、声帯はゆるく閉じられて、息が流れています。

この声で台詞を練習します。
息の量を減らさずに、何度か繰り返しながら、少しずつ声をしっかりさせていくと、息混じりの声で感情を表現できるようになります。

このとき注意すべきは、声を「少しずつ」しっかりさせていくということです。

一気に強くしてしまうと、またいつもの一本調子に戻ってしまいます。
イチロー選手も、練習するときは、ほんの少しずつ動きを調整していくそうですよ。一気に変えてしまうと、どこで良くなかったか分かり難くなるからです。少しずつ変えていけば「ここが良くなかったのか」とか「今ここで丁度良い」という場所がみつかります。

話に豊かな表現力をもって抑揚をつけるには、

【1】本番で台本を置かない

【2】声に息を混ぜる

という2つの方法を行うことです。

プレゼンが失敗する理由は3つある

良いプレゼンをするにはどうすれば良いのでしょうか?

ハーバードビジネスレビュー2015年1月号の論文「TED流人を魅了するプレゼンテーション」で、数時間で人前でうまく話せるようにコーチングする方法が書かれています。

・・・・(以下、ポイントのみ引用)・・・・

【話の組み立て】

・最大の問題は多くを盛り込もうとしすぎること

・探偵小説のような物語構造を取るべき。

・失敗する理由は3つある

① 話を正しく組み立てなかった
② 聴衆の関心度合いを見誤った
③ ストーリーを語ることを怠った

・自社の自慢は禁物。

・・・・(以上、引用)・・・・

「『探偵小説のような』魅力的なストーリーなんて、小説家や放送作家でもあるまいし、思いつくわけない」と感じられるかもしれません。

そこで私は、ストーリーの中にご自分の経験を盛り込むことをおすすめします。
自分の経験で語ることは、他の方には話せないことです。

ご自身の経験を盛り込むようにすると、格段に面白くなります。是非お試し下さい。


 

この論文では、他にも参考になることがたくさん書かれています。箇条書きでご紹介します。

・・・・(以下、ポイントのみ引用)・・・・

【話の伝え方】

・何時間も練習したあと、聴衆を前に何十回もリハーサルをすること。言葉が自然に流れ出すようになるまで何回もリハーサルすること。

・覚える時間がない場合、メモ用紙に要点を箇条書きにして臨む。

【存在感を高めるために】

・最大の過ちは身体を動かしすぎること。下半身を動かさないだけで存在感は劇的に高まる。

・一カ所にじっと立ち、強調したいところは手振りに頼る

・アイコンタクトは信じがたいほどの力を持つ

・緊張した様子や声の調子で弱みを見せることは、それが本物であるならば、聴衆を味方につける最も強力な方法の一つとなる。

・・・・(以上、引用)・・・・

緊張することが、実は強力な方法だというのは、意外かも知れませんね。

しかし実は緊張してもよいのです。人は緊張している方が、実力以上の力を発揮できるのです。私が以前書いたブログ「「なぜ緊張してしまうの?」 でも緊張して良いのです」も、あわせて是非ご参照下さい。