No.303 應義塾高校野球部・森林監督から学ぶ「リーダーとはメンバーの自立を支援するもの」

一昨日の8月23日、夏の甲子園大会決勝戦で、慶應義塾高校野球部が107年ぶり2度目の優勝を果たしました。

この優勝は、私は日本社会の価値観をよい方向に進化させる大きなきっかけになり得ると感じています。
慶應高校の野球が、これまでの「高校野球、こうあるべし」という常識をことごとく破っているからです。

これまで甲子園で戦う高校野球の常識は、こんな感じでした。
・頭は丸刈り
・先輩後輩は絶対的
・朝から晩まで365日野球漬け
・勉強できなくてもそこは問わない
・プロ野球入団を目指して、全てを捧げる

慶應高校野球部は、こんな感じです。
・普通の髪型
・先輩後輩は同等
・練習時間は、強豪校と比べて少なめ
・野球部だからといって、勉強で特別扱いしない
・野球を離れても勝負できる人間に育てる

なぜこんな方針なのに、甲子園で優勝できたのでしょうか?
森林監督は、優勝インタビューで以下のように答えています。

「優勝することで、高校野球の新たな可能性とか、多様性とか、そういったものを何か示せればいい」
「常識を覆すという目的に向けて頑張ってきた」
「高校野球の新しい姿につながるような勝利だったと思う」

慶應高校は、全国屈指の高偏差値を誇る難関校です。強豪校のような野球推薦はなく、中学の内申点が満点45点中、38点以上必要です。
入学後も野球だけやっていればいいというわけではなく、扱いは周囲の学生とまったく同じ。しっかり勉強をしなくては進級できません。また、先輩後輩の関係も厳しくなく自由な雰囲気が特色。「高校野球といえばスポーツ刈り」が常識の中、部員全員がごく普通の髪型だったことがメディアで注目されていました。

慶應高校野球部のこうした姿勢に、風当たりも強かったようです。

優勝インタビューにて、大村主将は「ずっと高校野球の常識を変えたいとか、さんざん大きなことを言ってきて、笑われたり、いろいろ言われることがあった。そういう人たちを見返して、自分たちが絶対に日本一になるという強い思いで頑張ってきた」とコメントしていました。

これまでの伝統的な取り組み方とはまったく違う慶應高校が、並みいる強豪校を押さえて優勝したことは、まさに高校野球の常識を覆すような革新的な出来事だと思います。

森林監督は、著書「Thinking Baseball―慶應義塾高校が目指す”野球を通じて引き出す価値”」にて以下のように述べています。

私が指導するにあたって、もっとも心がけているのは、選手の主体性を伸ばすことです。
プロとして野球を続けられる選手はごくわずかですし、仮にプロ野球選手になれても、いつかは現役を引退しなければならず、監督や評論家になれるのはほんのひと握り。
つまり、野球から離れたときにきちんと勝負できる人間になっていることが大事なのです。
そのためには、高校野球を通して人間性やその人自身の価値を高めていかなければなりません。この重要な2年半、3年間を野球で勝つことだけに使っては絶対にいけない。野球にしか通じない指導は、「俺の言う通りにやれ」という方法が大半でしょうから、それはやはり指導者のエゴです。(中略)
社会で活躍できる人の共通点として挙げられるのは、自分を客観視できること。自分なりのアイデアを持ち、自分自身の強みを知り、それを伸ばす努力ができる人は、社会に出てどんな仕事に就こうとも通用します。

森林監督は「選手の主体性を伸ばす」と書いています。
まさにメンバーの自立を応援するのが、真のリーダーです。
人は自立しているからこそ、自分の価値を信じて、力を発揮できるのではないでしょうか。

昨今、スポーツ部の暴力事件、パワハラ事件が後を絶ちません。
勝利という結果に盲目的になり、パワハラを誰も止められず、受けている本人も「止めてほしい」と言えない現実は、自立しているとは言えないと感じます。

もしかしたらこれはスポーツだけでなく、旧態然として不祥事を起こす一部の日本企業にも、共通しているかもしれません。

慶應義塾の基本精神には、創設者である福澤諭吉の説く「独立自尊」があります。
独立自尊とは「自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行うことを意味する」ということ。(慶應義塾サイトより)

今回の慶應高校野球部の優勝で、組織のメンバーの個性を重視して自由に伸ばすことが大きな結果につながることや、リーダーが周囲に迎合せず勇気を持ってメッセージを伝えていくことがいかに大切か、日本社会全体で気づいて、大きく変わるきっかけになればいいですね。

2023/08/25 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika