2023年8月8日、日大アメリカンフットボール部の薬物事件を受けて、日本大学が記者会見を行いました。
今回の事件を聞いて「またか」と思われた方も多いかと思います。
2018年、日大アメフト部の反則タックル事件は社会問題にもなりました。
その後も日大は、水泳部暴力事件、チアリーディング部パワハラ事件、ラグビー部暴力事件と大麻所持など、スポーツ部で不祥事が多発。さらに医学部でも不正入試が発覚。背任事件で元理事が逮捕され、理事長も逮捕されました。
そして2022年7月、日大出身で小説家の林真理子氏が「イメージが落ちた母校のために一肌脱ぎたい。ガバナンス全くなしの学校を何とか変えたい」と理事長に就任しました。
そして理事長の就任から1年。今回のアメフト部薬物事件が起こりました。
あまりメディアでは指摘されていませんが、今回の会見で最も注目すべきポイントは、不祥事発覚から会見開催までのスピード感だと思います。
7月6日、アメフト部の寮を点検し、逮捕された部員の部屋から植物片を発見。
その日から警視庁へ報告するまで、空白期間が約2週間。
沢田副学長は会見でこう述べました。
「大麻と分からなかった。疑惑があるから『大麻かもしれない』と思った」
「本人に『自首させて欲しい』と言われ、自分もそう考えた。まだ自首させる時期ではないと判断した」
林理事長は、この説明に対して「適切な対応」と述べています。
この林理事長の発言は、組織内の人間関係を考慮してのことかも知れません。
しかし澤田副学長の対応は、実は全く適切ではないのです。
違法な薬物への認識があるにも関わらず、それを所持していることは適切でないからです。
ここで参考になるのが、コーポレートガバナンスの考え方です。
コーポレートガバナンスと言うと「難しそうだし、自分は関係ない」と考えがちですが、このコラム読者は広報関係者が多いのでぜひお伝えしたいと思います。コーポレートガバナンスは、広報では今や必須科目です。
コーポレートガバナンスにおける不祥事対応の原則では、不祥事が起きた場合はタイムリーに情報開示をすることが鉄則です。
「しっかり状況を確認してから開示しよう」と考えて時間が長引けば、外部から隠蔽と判断され、責任追及される可能性が高まるからです。
今回はあまりにも遅過ぎました。
本来、事件が起こった場合、分かった時点ですみやかに記者会見を行い、誠実に謝罪するのが基本なのです。
当然、会見では記者より質問が飛びます。全部答えられないこともあるでしょう。しかしそれは問題ではありません。その時点で確認できている事実を明確にして、現時点で分かっている事実と、まだ分かっていない事実を分けて、答えることです。
さらにその後も、原因究明した結果の情報をわかり次第ホームページなどで開示するとと、最終的には第三者委員会の意見を踏まえて対応する旨をしっかりと伝えることです。
しかし今回の日大の謝罪会見では、あまりにも時間がかかりました。
会見準備に時間をかけている間に、メディアが徹底的に裏を取って調査します。この結果、謝罪会見では、「裏を取った情報で完全武装したメディア」vs.「まだ情報を完全に把握していない謝罪側」、という構図になってしまうのです。
そうならないためにも、不祥事は発覚時点ですぐに謝罪会見。これが鉄則なのです。
その点、昨年7月に発生したKDDIの大規模通信障害に対する謝罪会見はお手本のような謝罪会見だったと思います。
7月2日深夜1時35分に障害事件が発生し、翌日午前11時には記者会見。
高橋社長は、「事象の概要」→「事象による影響」→「事象の原因」→「一次処置対応状況を時系列で説明」→「検討している再発防止策」などを、分かりやすくプレゼン資料にまとめて、一人で説明していました。あれ以上は答えられないと言うところまで,オープンな情報開示が行われたのです。メディアやSNSでも好意的に受け止められました。
不祥事会見の成功パターンは、把握の段階で迅速に第一報を行うことです。隠蔽を疑われてしまうことが一番まずいのです。
今回の会見中、多くの記者より隠蔽を疑う質問が出てしまいました。初速を誤ったのが原因です。
不祥事は繰り返します。そして不祥事の完璧な未然防止は困難です。
これから、林理事長の本当の意味での経営手腕が問われるフェーズに入ってきているのではないでしょうか。
ぜひ初心を忘れずに改革に邁進していただきたく思います。