「プロ経営者」と言われる人に「東芝の社長をお願いします」というと、多くの人は辞退されるのではないでしょうか?
まず、歴代トップが粉飾決算などの不祥事を起こしたのは、まだ記憶に新しいですね。
その後、会社の存続が厳しくなり、上場廃止回避のために海外ファンドが資本参加。
「物言う株主」として経営に口出しされています。
つまり短期利益を求める「物言う株主」に経営の意志決定権のかなりの部分を握られているのです。
2022年3月、こんな東芝のトップに就任したのが、島田太郎社長です。
2023年8月7日、東芝はJIPなどによるTOB(株式公開買い付け)の開始を発表しました。この日開いた記者会見で、島田太郎社長はこう言いました。
「非上場化がベストな選択です。非上場化することで世の中に本当に貢献できる企業として再び成長できる。いまは平静で澄みやかな気持ちです」
島田社長は、生え抜きの東芝社員ではありません。
外資系のシーメンスPLMソフトウェア日本法人トップでした。
前々社長の車谷氏に説得され、2018年に東芝へ入社し、東芝社長に就任。
そして就任から1年5ヶ月で、非上場化という次のステージに導きました。
島田社長の良い点は、信念に基づきながら首尾一貫した発言を続け、経営判断を行っている点です。
昨今、修羅場になると、これまでの言動を簡単に変えるリーダーをよく見かけます。
これでは信頼されません。
2022年3月の社長就任当時、島田社長はテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のインタビューに出演しました。
この時「信じることをしっかりやるということが大事」と話しています。
また「非上場、上場維持、どちらの方が東芝にとって良いと考えるか」と聞かれ、こう答えています。
「価値の最大化自体を中心に考えるべき。形はその結果。私が重視しているのは、我々がどういう領域でどんなふうに会社を伸ばすことができるのかということ。そのことによって初めて、資本の状況、状態はどれが1番いいのか後から決まる」
では「東芝の価値最大化」とは何でしょうか?
島田社長は「日経ビジネス」で次のように述べています。
コアとなる事業は時代によって変わるので、大切なのはコアバリュー(中核となる価値観)となります。東芝とはいかなる会社かというと「人と、地球の、明日のために。」という目的がある。その達成に向けて、とにかく難しい挑戦を好む組織と言えます。もし、コアバリューを忘れて様々な提案を受け入れるようなかたちになってしまったら、東芝が培ってきた理念が失われてしまう。
(『編集長インタビュー 東芝・島田社長の覚悟 「結果示し、混迷から脱却する」』日経ビジネス 2023.9.8号より)
つまり「人と、地球の、明日のために、難しいことに挑戦するのが東芝らしさ」ということなのでしょう。
しかしこれを実現するには時間がかかります。
一方で東芝の持ち株の半分以上を占める「物言う株主」は、短期利益を求める傾向にあります。
しかも日本は海外から「日本はアクティビストの遊び場」とも言われるほど、「物言う株主」が権利を乱用する傾向もあります。
この難しい状況の中、島田社長は最後まで価値最大化のために信念であるコアバリューを基準に考え抜き、非上場化という形を選びました。
島田社長のプレゼンは、明確な信念を首尾一貫して語り続け、強い信頼感を感じさせます。
島田社長には、これまでの暗い空気を一掃し、日本の伝統ある優良企業である東芝を復活させていただくことを期待しています。