「プロンプター依存症」の副作用

ある日本を代表する企業のトッププレゼンを見に行ったときのこと。
スラスラと淀みなく出る言葉。時折出る笑顔。会場の聴衆にもしっかりと目を向けています。

しかし、どこか不自然さが伝わってきます。
話している言葉も、まるで完成された綺麗な文章をそのまま読んでいるようで、パッションが伝わってきません。

目を見ていたら、すぐにわかりました。
目はこちらを向いていますが、聴衆とアイコンタクトしていないのです。
ふと視線の先をたどって後ろを振り向くと、巨大なプロンプターに、トップが読み上げるスピードに合わせて台本がゆっくりと流れていました。その文章には、「間合をとる」「笑顔」という注意書きもしっかり書かれています。

プロンプターは便利な道具です。
プロンプターを使えば、間違いなく話せます。
しかも会場を見ながら、いかにもアイコンタクトをとっているように話すことができます。
最近、多くのトッププレゼンで、プロンプターが使われるようになりました。
トップがプレゼンで一番怖いのは、「何を言うか忘れること」。
だからプロンプターを一度使うと離れられなくなるものなのです。

しかし実は、読みながら話すことは、プロや経験豊富なスピーカーではないと、とても難易度が高いのです。
普通の人がプロンプターに頼ってしまうと、棒読みになったり、視線が泳いでしまったり、言葉に気持ちが入らなくなります。

文章を確認しつつ聴衆には読んでいるように感じさせず、生きたアイコンタクトも欠かさず、プロンプターを使っているのを誰にも気づかせずに、あたかも自然に「今そこでこのストーリーが生まれた」というように即興性を持って話すことは、話しのプロが相当の経験を積んでも難しいことです。

しかも、プロンプターには怖い副作用もあります。
「企業のトップならば覚えて話して当然」と思っている聴衆の期待を裏切って、「ああ、この人はカンニングしているのね」という、「ちょっとずるい人」という印象を無意識に持たれてしまうのです。これは経営者にとっては、大きなマイナスです。

先日、ユニクロの柳井正社長の会見に同席しました。
柳井社長は講演嫌いで、依頼があっても余程の理由がない限り絶対に受けません。
実際に決して上手ではありません。
会場では巨大なプロンプターが設置してありましたが、プロンプターは使わず、内ポケットからメモを取り出し、演台で広げて話していました。メモを置いていても、極めて強いアイコンタクトで聴衆とコミュニケーションし、太い声で自らの壮大なストーリーを腹の底から語っていました。

もちろん、メモを見ずに話すことができればベストです。
しかし、柳井さんが内容を覚えていることは皆知っています。
そしてメモを見ていることも隠しません。
堂々と自分の土俵に立って話しているので、全員納得してしまうのです。

プレゼンの目的とは何なのでしょうか?

間違えずに話すことではないはずです。
プレゼンの目的とは「そのプレゼンを聞いた人が良き方向に行動が変わること」です。
トップの溢れるようなパッションを自分の言葉で語るからこそ、人の心が動き、市場が動くのです

 

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