「SoftBank World2023」10月4日、ソフトバンクグループの孫正義さんが登壇し、基調講演を行いました。
冒頭のスライドは、金魚が見つめるABCの文字。
でも、なぜ金魚?
そして、なぜABC?
孫さんはこう切り出しました。
「人間の10倍優れたAGIが、10年以内に誕生する。その次の10年後はどうなるのか?10倍ではなく、1万倍くらいになる」
「金魚のニューロンは人間の1万分の1。1万倍の差とは、人間対猿ではない。人間が金魚になる」
「AIの知能はハードウェアとソフトウェア。ハードウェア=チップでありニューロン。このニューロンに1万倍の差がある。そうなると、ABCを教えたくても無理」
「いろんな屁理屈をつけて、ChatGPTさえもを使ってない人。人生を悔い改めたほうがいい。このままでは『金魚』になりますよ」
これをこう言ったら、どうでしょうか?
「AI活用の問題を議論するレベルを圧倒的に凌駕してしまう世界が、20年以内にやってきます。
AIを禁止している場合ではありません」
なんか今一つですよね。
孫さんは
「あなた、20年後には金魚になりますよ」
ということを、金魚とABCのスライドを効果的に使って、主張したのです。
孫さんがプレゼンで多用するのが、この「誰でもわかり、心にズシンと来るレトリック」。
実は、孫さんは「レトリックの達人」なのです。
レトリックというと「言葉巧みに論点をすり替える技法のことでしょ?」と思われがちですが、本当は違います。
人は、物事を自分の受け取りたいように解釈しようとしがちです。
更に、SNSやメディアにあらゆる情報が溢れている現代では、人は理屈だけで信用しなくなりつつあります。
話し手の主張と、聴き手の思い込みの間に、情報伝達の「ゆがみ」が生じているのです。
そこでレトリックが役に立ちます。
レトリックは、話し手が主張したいことと、聴き手の感情や思い込みの間にある情報伝達の「ゆがみ」を可能な限り解消していくことができるのです。
レトリックの代表的な原則の一つに「比喩を使うこと」があげられます。
比喩は、情報伝達の「ゆがみ」を解消するのに最適です。たとえば、言いたいことを絵や図で表せば一瞬で伝えることができます。
実は孫さんは、ChatGPTを徹底的に使い込み続けて、「AIとは何なのか?」を孫さんなりに考え抜いてきたそうです。
そして今回の講演で、孫さんは冒頭から「金魚とABC」の比喩を用いて、高い説得力を発揮したのです。
このように高い説得性を持つレトリックですが、使い方には注意が必要です。
それは、強い主張と理論を持っていることです。
ちゃんとした理論のないのに、レトリックを使っているケースをよく見かけます。
それは言葉巧みに論点をすり替える「まやかし」でしかありません。
そしてそのまやかしを、聴き手は直観的に、見抜いてしまうのです。
孫さんのこのプレゼンは、SNS上のインフルエンサーの皆さんから大きな反響を受けました。これも孫さんが考え抜いたことを、わかりやすいレトリックで表現したからなのです。
でも、これは決して難しいことではないのです。
皆さんも、いつも考え続けている問題があると思います。その問題をもう少し考えてみて、何かわかりやすいモノにたとえられないかを、考えてみる。
そうしたレトリックが、聴き手に伝わるのです。