No.278 一流のプレゼンを真似ると、三流になる理由

ある企業の社長交代後に、新社長のプレゼンを見たときのこと。

ハキハキした話し方、派手な身振り手振り、イキイキした表情。
全て先代トップとそっくりのスタイル。
猛練習の跡が感じられます。

しかし、その後の質疑応答では先ほどのエネルギッシュなプレゼンとは別人。
素に戻っていました。

「部下は上司に似る」と言われます。
元上司である社長の影響を受けてしまうことは、仕方ないことかもしれません。
そして「学ぶ」ことは、「真似る」ことでもあります。
「まなび」は、模範となる人を見つけて「まねる」ことから始まります。
「真似る」こと自体は、必ずしも悪いことではありません。

しかし、真似には怖い罠が仕掛けられています。
それは”猿真似”。

プレゼンの達人は、長い年月の試行錯誤と葛藤を経た末に、自分に合ったスタイルを確立しています。
そのスタイルを、資質や生き方・体格も違う人が真似しても、違和感があるのは当然。
「聴き手に刺さるプレゼンをしたい」と思ったら、本来学ぶべきことは単なるスタイルではなく、達人たちの背後にある思想を理解し、身体と心でつかむことです。
それを理解せず、模倣しているだけの人は猿真似の罠にはまってしまうのです。

TEDでは、プレゼンを鍛え抜いた達人たちが、見事なプレゼンをします。
TEDプレゼンのストーリーは、必ず(1)Why I、(2)Why we、(3)Why nowの順番になっています。
TEDにはプレゼンをサポートする事務局がいて、必ずこの流れで語るように指導しているようです。
つまりこれは、TED流の「鉄板プレゼン構成術」ですね。

そこで新任課長になったスズキさんは、新たに部下になったチームメンバーにTED流プレゼンで抱負を語りました。
結果は…、部下たちから「なんか新しい課長、言ってることが抽象的で、よく分からない」とウケが悪かったそうです。

TEDのように不特定多数の場で大きな夢を語る場合、この話し方は訴求力抜群です。
でもTED流は、必ずしも万能ではありません。
本来、新任課長のスズキさんが新メンバーの前で語るべきことは、(1)会社は何を目指しているか、(2)自分たちのチームがやるべきことは何か、(3)自分はメンバーにどんな貢献ができるか、を、自分の持ち味を活かして、誠実に語ることなのです。

一流のプレゼンを真似るだけでは、単なる猿まねになって相手に「何か嘘くさい」と思われて伝わりません。必要なことはTPOにあわせて、自分らしさを活かし、誠実に聴き手が求めていることを語ることなのです。

2023/02/15 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika