先週は、日本経済新聞主催の世界経営者会議に参加してまいりました。世界の名だたるトップのプレゼンを見ることが出来、また、世界の動向を肌で感じることができる貴重な経験となりました。
二日間、十数名のトップすべてのプレゼンを聞きました。
しかし、聴衆が集中して話しに耳を傾け、共感し、感動するような素晴らしいプレゼンには、ある一つの共通点があったのです。
それは、人から学ばなくては出来ないような難しいプレゼンのテクニックではありません。どんな人でも必ず出来ることです。
その共通点について、今回特に素晴らしかった、3名のプレゼンから学んでみることにしましょう。
女性トップで、ザ・モール・グループ会長、スパラック・アムプットさんは、薬剤師から小売りの知識がないままショッピングモールを立ち上げた、タイを代表するデパート経営者です
アムプットさんは、1981年に最初のショッピングモールを作りましたが、店が小さすぎ、品物も少なく、駐車場もなく、たった2年で閉鎖してしまいました。アムプットさんはこのとき、大失敗を受け入れ、諦めずに戦うことを決めます。そして、人々のニーズの基礎である「ハッピーになりたい」「家族・友人と良い時間を過ごしたい」「いつでも買い物ができる」という『勝利の方程式』にのっとった施設が必要と考えました。取引先に「どうか、私に2回目のチャンスをください」と言って、再びデパートを立ち上げ大成功したのです。
女性らしい上品さ、気高さ、自然ににじみ出てくる深い謙虚さが深い余韻を残し、話し終わった後、とりわけ大きな拍手に包まれていたのが印象的でした。
そしてもう一人、今注目のウエスタンデジタルCEO、スティーブ・ミリガンさんが、長い沈黙を破って登壇しました。
ミリガンさんは、2007年の結婚記念日にウエスタンデジタルのトップから突然、解雇を言い渡されました。それは、トップが自分の部下を最高責任者に引きあげるためです。奥様に、「結婚記念日なのに、こんな報告をしなくちゃならなくて…」と電話したときのエピソードを、コワモテのままユーモアを持って話す様子は、事前の印象とはまったく違った人柄が伝わってきました。
その後、家族のために職を探していたところ日立製作所の中西宏明会長から誘いを受けて、米HDD子会社へ再就職することができました。経営再建を果たした後、日立は子会社をウエスタンデジタルへ売却。ミリガンさんは、社長としてウエスタンデジタルに返り咲くことが出来たのです。
ミリガンさんは言います。
「私は子供の頃に父から、『夜、頭に枕をつけたとき、正しいことをしたと思えるようなことをしなさい』と教えられた。自分や家族、社員、そして世界にとって正しいかというフィルターをかけて意志決定する」
ミリガンさんの挫折体験を知ったからこそ、言葉が重量感を持ち、聞いていて胸が熱くなった瞬間でした。
3人目は、川淵三郎チェアマンです。
かつて日本のサッカーは、ワールドカップよりレベルが低いオリンピック予選を通らないほど実力がなく、挫折や困難の連続だったと言います。そこで川淵さんは「もうこうなったらコペルニクス的転回でプロ化するしかない」と声を挙げ、周囲の反対を乗り越えてJリーグを立ち上げたのです。
さらに川淵さんは、鹿島アントラーズ誕生のストーリーを話しました。アントラーズは「99.999%不可能」と川淵さんが言うところを「0.111%の可能性」にかけて、人口たった4万5千人の町に1万5千人入るスタジアムを建ててJリーグに参入し、日本を代表するサッカーチームとなったのです。
「上品な言葉で話すと自分らしさが出ないので、自分らしく話させてもらう」と冒頭に言い放ち、”川淵節”炸裂のプレゼンで、パッションが会場に熱伝導した素晴らしいプレゼンでした。
3人に共通する大事なポイントは一つです。
自らの「失敗」「挫折」というマイナスの部分を、格好つけず、大いに語ること。失敗から学んだことを伝えることです
多くの人は、失敗を語ることは「自分の評価を下げる」と考え、また、「恥をかきたくない」というプライドから、過去の成功体験、「ベストプラクティス」ばかりを語りたがります。
一日目のトリでユニクロの柳井さんが登壇しました。柳井さんのプレゼンも「口ベタなんで…」と言いながら、「自分の言葉」で、「自分の体験」からのみ語る説得力は、群を抜いて素晴らしいものでした。
その柳井さんは、
「ボクはたくさん失敗している。失敗しても諦めずに挑戦する」
と繰り返し語っていました。
失敗から得た学びを語ることで、聴き手は共感し、感動し、良き方向に行動を変えます。
これがプレゼンの神髄なのです。
今、世界は”失敗してもどんどん挑戦する”という流れになっています。不確実で、変化のスピードはますます加速度化するこの世界において、将来の方向性を決めることはとても難しいこと。スピード感を持って挑戦し、成功していくには「失敗」はつきものだということです。
失敗を恐れず、前に進む勇気をいただいた世界経営者会議でした。
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