パッションは熱伝導

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子どもの頃、友だちとの集まりで欠かせないおやつといえば、「イケイケどんどん、湖池屋、ポテトチ〜ップス♪」のCMで有名な、湖池屋さんのポテトチップス。これさえあればみんなご機嫌で、パリパリほおばりながら何時間でもおしゃべりしていたものです。

この湖池屋さんが新社長、佐藤章さんを迎え、「新生・湖池屋」としての第一弾「プライドポテト」の発表会を行うということで、2016年11月30日、会場の椿山荘まで行って参りました。

佐藤社長は、かつてキリンビバレッジのマーケティング部長時代、缶コーヒー「FIRE」を企画し大ヒット商品に育て上げた日本では最高峰のマーケティング・プロフェッショナルです。

当時、「FIRE」を経営会議で提案すると、
「ぜったい許さん」
「『FIRE』なんてガソリンじゃあるまいしそんなネーミングありえない」
「シルバーのパッケージも色気がない」
と総スカンを食らいました。

そこで佐藤さんは、ネーミングは麒麟珈琲、色は青にして、日本人歌手を広告キャラクターにし再提案したら社長さんが大喜び。しかし、そこで終わらないのが佐藤さんの凄さです。「『FIRE』と『麒麟珈琲』両方を実際にモニター調査するので支持が多かった方を商品化しましょう」と社長さんに掛け合ったのだそうです。すると、結果は8対2で「FIRE」の圧勝でした。

「FIRE」の企画を通した佐藤さんの気迫とマーケター魂には度肝を抜かれます。

私は、この”FIRE伝説”を知っていたので、佐藤さんがどんなプレゼンをするのか、ワクワクドキドキしながら開始を待っていました。

始まってみたら、なんと最初の3分で心を完全に鷲づかみにされてしまったのです。

それは、冒頭に出てきた「新スローガン」のチャート。

「イケイケGOGO!」
新しいほうへ イケイケ
難しいほうへ イケイケ
面白いほうへ イケイケ

たった3行でシンプルに美しくデザインされた印象的な言葉は力に満ちて、それぞれが韻を踏んでリズム感があり、一度聞いたら絶対に忘れられません。

3つともマーケティング戦略そのもの。マーケティングの佐藤さんらしい内容で素晴らしいと思いました。

「新しいほうへ イケイケ」は、イノベーション。
「難しいほうへ イケイケ」は、チャレンジと差別化戦略。
「面白いほうへ イケイケ」は、モチベーション3.0、働き方改革。

よく考え抜かれている言葉から一瞬で深みが伝わり、思わず唸ってしまいました。

そして、燃えるようなパッションで語っている姿を見て、毎日の仕事に汗水たらしているビジネスパーソンの熱量そのものを感じました。最前列からよく見ると、佐藤さんは感動のためか目が潤んでいます。私も、「うん、うん」と頷きながら聞いていました。その熱量は会場全体にも広がり、隣の席の記者もいつの間にか大きく頷きながら聞いています。パッションは「熱伝導」でこそ伝わるのです。

「日々の仕事が透けてみえてくる」
これこそが、ビジネスパーソンのプレゼンの神髄ではないかと思います。これはどんなにプレゼンの本を読んでも書いていない、その人だけ強みの世界です。

感動的なビジネスのプレゼンとは、ロジックだけでもダメですし、ただパッションで押すだけでもダメです。佐藤さんの場合、パッションと理論の両輪ががっちりとかみ合っているから、もう鬼に金棒です。

新社長としての初戦。緊張もされたでしょう。しかし、気迫のこもったプレゼンにノックアウトされ、幸せな気持ちで帰路につきました。

月刊『広報会議2月号』に取材した記事が掲載されています。

電子版はこちら→「トップマーケター渾身のプレゼン」に感服!湖池屋・佐藤章社長を分析