ある社長さんとお話ししていたら、こうおっしゃっていました。
「今、社員たちに望みたいことですか。
すぐ辞めてほしくないんですよ。なるべく長く働いてほしい」
この社長さんの願いとは裏腹に、転職希望者は年々増加中です。
総務省の調査によると転職者希望者は2022年には過去最高を記録。2023年には1000万人超の予想です。
転職希望者の増加に対する取り組みは、もはや重要な経営課題の一つとなっているのです。
社員はなぜ辞めてしまうのでしょうか?
『週刊東洋経済 2023年12月9日号』の「少数異見」に、こんなことが書かれていました。
人事部による退職者へのインタビューを行っても、内容は形式的なものにとどまり、突っ込んだやりとりは少ない。
(中略)
退職の本当の理由を知るには従業員の感情の推移まで洞察する必要がある。
企業には感情を伴う人間が交差する場所である。従業員の「喜び」「誇り」「不安」「イライラ」が何に起因するかを知ることは、退職防止に役立つだけでなく、職場の活力を引き出すことにつながる。
働き続けたい職場とは何か。どんな評価体系ならば責任感をもって働けるか。それを聞き出し、環境を整えるのは経営者である。
この記事を見て実感するのは、社員が本音で話が出来る環境がほとんどの会社で整っていないことです。
大事なのは「この会社なら、皆が気兼ねなく何でも発言できて、かつ自分を偽らずに自分らしく振る舞える」と感じる雰囲気です。これが最近話題になっている「心理的安全性」です。
心理的安全性を高めるカギは、トップの発信です。
まずは「何を話しても良い」というトップの考えを、社内に浸透させる仕組みを作ること。
ただ多くの場合、社員は「ウチのトップは『何を話してもいいよ』って言っているけど、本当のことを話すのはバカみたいだよね。だって本当のことを話すと怒られるし、人事評価も下がるからな。黙っておこう」と思っています。
この考えは長年かけて作られたものなので、なかなか変わりません。
そこでトップは常に社内全体に「トップは本音でそう言っているんだ」と信じてもらうことが大事です。
まず重要なのは、トップが社員の前で話したり交流する機会積極的につくり、率直に腹蔵なく話して謙虚さを示すこと。
そして厳しいこと・耳が痛いことを言ってきても、それを否定せずに、感謝して受け止めること。
さらに社内の経営幹部や部課長にも、この方針と姿勢を徹底することです。せっかく勇気を出した社員が耳の痛いことをいってきても、上司の課長が「最近の若い社員って、ずいぶん正直な発言をするんだねぇ」なんて発言したりすると、(ああ、やっぱり会社は本音で話してほしくないんだなぁ)と感じてしまい、本音で話さなくなります。
私がご支援させていただいたあるトップは、新入社員の入社式の挨拶で「どんどん挑戦してほしい」と言った上で、「仕事の失敗談」をお話しいただきました。するとその後に話した役員たちも、自分の仕事の失敗談を次々と披露しました。
その結果、社員向けのアンケートで多くの人が「とても良かった」と回答していたのです。
トップが格好つけずに謙虚にお話しすることで社員が安心し、少しずつ心理的安全性は高まっていきます。
これから新年会などでお話しする機会も多いかと思います。リーダーの皆さんは、ぜひこの機会に、心理的安全性を高めるようなメッセージを発信していただけたらと思います。