No.282 良いホラは、命を救うこともある

イーロン・マスクはこんなミッションを掲げてスペースXという会社を創業して挑戦を続ける経営者です。

「火星に人類を送り込み、人類を救う」

このミッションを聞いたとき、私は「とんでもない大ボラを吹く人が現れた」と思いました。
しかしイーロン・マスクはこのミッションを真剣に追求し続けています。
いまやスペースX社は、NASAの宇宙ミッションには欠かせない会社になりました。

まったくやる気もないのに、ウソをつくのはもちろん論外です。
でも時と場合によっては、本気で信じるのであれば「ホラ」を吹くことは大事なことなのです。
人が動くか動かないか、更に言うと、ビジネスで生き残れるか生き残れないかは、ちょっとしたことで大きく差がつくからです。

ここからご紹介するのは、実際にあったお話しです。

ハンガリー軍の小部隊が、軍事機動演習中にアルプス山脈で猛吹雪にあい遭難してしまいました。隊員たちは死の恐怖に怯えて立ち往生してしまいました。すると1人の隊員が、ポケットから地図を見つけました。
「これで山を降りられる」全員が下山を決意し、行動を始めました。そして地図を見ながら帰り道を見つけ、無事下山に成功したのです。
しかし隊員たちの帰還を待っていた上官は、その地図を見て驚きました。
それは、アルプスの地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのです。

なぜまったく別の地図なのに、彼らは全員助かったのでしょうか。

命の危険が迫るパニック状態の中で地図を見つけて、まず全員がこう思ったのです。
「下山できる」→「よかった、命が助かるぞ」そしてこのストーリーを全員で共有しました。
その結果、下山する行動を開始できました。
こうして具体的な行動を開始した結果、一致団結して危機を脱したのです。
もし下山を決意せずに立ち往生したまま行動しなければ、全員遭難して命は助からなかったでしょう。

これは、社会心理学者カール・ワイクが著書「センスメーキ
ング インオーガニゼーションズ」で紹介したエピソードで
す。
ワイクはこの事例を「センスメーキング理論」で説明してい
ます。

センスメーキング理論は「意味をつくり、共有すれば、チームの方向性が与えられる」という考え方です。ここで必要なのは、皆が納得して共感できる、魅力的な「優れた物語」です。

ワイクはこう述べています。
「『優れた物語』には、正確性があればそれにこしたことはない。しかし正確性は必ずしも必要ではない」

人は感情で動きます。
自分が聞いた物語に共感することで、「単に聞いた話」が「自分ごと」となり、行動に変わるのです。

正確性は必ずしも必要ではないとはいえ「ウソ」は御法度です。
不祥事会見で、知っていても「知らなかった」というトップがいます。これは保身のためにごまかす大ウソですよね。

良いホラは、魅力的な物語で人を動かし、組織を成長させます。皆を幸せにするために、リーダーが自らを追い込み、腹を括らせるものでもあります。良いホラは、大きなビジョンなのです。だからホラは大きければ大きいほど良いのです。

イーロン・マスクほどのホラは難しいかもしれません。しかし「自分は仕事でこんなことを実現したい」という思いは、誰でも持っているはずです。
次のプレゼンではそんな大胆に高い目標を語ってみるのもいいかもしれません。

価値観や理念が「優れた物語」によって共有され、納得されれば、人は共感して行動し始めるのです。

2023/03/15 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika