不正の起きにくい心理的安全性の高い組織文化の作り方

今年、三菱電機の長年の不正が発覚し、社会的な問題になりました。
三菱電機が公表した調査報告書では「言ったもん負け」の企業文化であったことが書かれていました。

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、「心理的安全性の低い組織では、率直に話せば自分の身を危険にさらすことになるため、皆が沈黙する」と言います。
心理的安全性とは、「皆が何でも言えて、リスクがとれる。自分らしくいられる」と感じる組織風土のこと。
このような心理的安全性が高い組織では、マイナス情報でも経営層に伝わり、不正が起きにくくなります。

もう随分前になりますが、現在の仕事を始める前、ある企業に関わらせていただいたことがありました。
トップが出席する会議では良い情報しか出てきません。悪い情報を出すとトップの機嫌が悪くなり、人事評価も悪くなるからです。
会議前のプロジェクトリーダーは、「絶対に完璧な提案以外はしちゃいけないから大変だ」といつも神経質になっていました。
トップの「悪い情報は聞きたくない」という無言のメッセージが組織に浸透して、「心理的安全性」が低下し、仕事のミスは一切報告されませんでした。

このような組織文化は、長い年月をかけて醸成されるものです。
長い年月かけて構築されたものを変革するには時間がかかります。

ただ、心理的安全性を高めるために効果の高い方法があります。

それは、まずトップ自身が、心理的安全性の重要さを認識することです。
そして、トップが「完璧でないことを認め、社員の話を謙虚に聞くこと」「格好つけずに正直に話すこと」「失敗を恐れないこと」がポイントになることをエドモンドソンは述べています。

ある企業の広報担当者さんに、「会社の暗い雰囲気を何とかしたいんです」というご依頼をいただき、トップのプレゼンをご支援したことがありました。
目指す組織文化を確実に浸透させる大きなチャンスの一つが、4月の新入社員入社式です。
まだ組織文化に染まっていない新入社員は、生まれたての雛と同じ。見るも聞くものが全て新鮮で、何事も素直に吸収します。
入社式は、トップ自身の言葉でビジョンや存在意義を伝えて浸透させ、新入社員の行動を定めるベストの機会なのです。

そこで入社式では、トップに「失敗してもいい。自分もたくさん失敗している。失敗を恐れず、失敗から学んでチャレンジしてほしい」と、あえてトップの弱みも含めたメッセージを率直に語ってもらいました。
すると、その様子を見ていた役員の方々も、自身の若い頃の失敗談を次々と披露し始めたのです。
その後、新入社員に向けた無記名のアンケートでは、「社会人として仕事をする上で、今日のメッセージは覚えておきたい」というコメントも多く見られました。

憧れているタレントや有名人の、話し方や服装まで似てしまった経験がないでしょうか。
人は、自分が良いと感じたものを模倣する行動をとります。組織文化は行動の真似をして生まれるのです。
組織で一番強い影響力を持つのは、トップです。
トップが良き規範として行動の台本になれば、それを見た社員は真似をし、組織文化は次第に良い方向へ変わっていくのです。