言葉に魂を宿らせる方法

「ウチの社長、特訓の成果で、プレゼンではスラスラと上手に話せるようになりました。
でもなぜか、『心がこもって聞こえない』と言われるんですよね」

こんなご相談をいただくことがあります。

そもそもプレゼン最大の目的は、「プレゼンを聞いた人の心が動き、良き方向に行動を変えること」。
人は感情で動きます。いくら上手に話せるようになっても、不思議なもので、言葉に魂が宿っていないと、人の心は決して動きません。

皆様もご経験はないでしょうか?
「この人、いかにも話し慣れた感じなんだけど、どこか心がこもっていないなぁ」

トップが話す場合は、必ず動かしたい相手がいます。
言葉に魂を宿らせるためには、どうすればよいのでしょうか。

2017年5月11日、日本交通会長の川鍋一朗さんが「陣痛タクシープロジェクト・マタニティギフト発表会」でプレゼンを行ったときのことです。私はここまで心こめて話す経営者は、今まで見たことがありませんでした。

川鍋さんは、「実はやりたいことがある」と言い、宙を睨み、長い間沈黙したあと、覚悟したように正面を向いて話し始めました。

「陣痛タクシーを…無料化したい」
「内閣府に相談している…しかし、形にならない。…地団駄踏んでいます」
「国策として…全、妊婦さんに、広めたい。…各タクシー会社の強力が…必要です」

と、頻繁に大きな間合いを取りながら話します。ただ間合いを取るだけでは「間抜け」になってしまいますが、川鍋さんの場合は、心の中で思いがこみ上げて、形になるのを辛抱強く待ってから言葉に発していました。この間合いにより、言葉に重み生まれ、言葉に魂が宿って伝わってくるのです。

世の中の多くのトッププレゼンでは、このプロセスが省かれているのです。
一生懸命に覚えた内容を話したり、台本を読み上げるので、心が伝わってこないのです。
また、間合いによる静寂に耐えきれず、安易に言葉を発してしまったり、「あー」「えー」などの言葉を入れてしまい、せっかくの間合いを台無しにしてしまっています。

川鍋さんのような間合いは、耳には聞こえてきませんが、言葉を超えた無言の思いが強く伝わってきます。

間合いは、例えて言うならば相撲の立ち会いのようなもの。相撲の立ち会いは、黙っていても力士同士の気合いの高まりが感じられます。そして、力士はお互いの気合いが高まらなければ立つことはできません。だから、行司は気合いの高まりを見守るだけで「よーいドン!」などと言わなくても一番良いところで立てるのです。

これはプレゼンも同じです。

言葉に魂を宿らせる方法はたった一つ。言葉に魂が宿るまで言葉を発しないことです。
このような間合いは、話しのプロであるアナウンサーが取るリズミカルでスマートな間合いとは、全く違います。

トッププレゼンで必要な間合いは、経営者の魂を込めるためのものなのです。

 

詳しくは、月刊『広報会議8月号』に執筆記事が掲載されています。もしよろしければご覧ください。

 

 

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