No.306 「パーパスは信頼性を上げる」麻生副総裁のプレゼン力

一昨日に岸田文雄首相が発表した内閣改造・自民党役員人事では、麻生太郎副総裁の続投も決まっていました。

麻生さんは元内閣総理大臣であり、安倍政権では戦後最長の財務大臣も務めた方ですが、無類のマンガ好きでも有名で政治に興味のない世代にも人気がありましたね。

麻生さんの政治的な方向性については賛否両論あるかと思いますが、コミュニケーションで学べる点が多く、私は以前より注目していました。

この麻生さんが議員として駆け出しだった38歳の時、路上で突撃取材を受けたときの動画があります。

記者から「どんな政治家になりたいですか」と聞かれて答えたのが下記のコメントです。

日本の方向を間違えないような政治家になりたい。いくら嫌われてもいい、石もて追われるがごとくなってもいいけど、国会議員として日本の方向を世界の中の日本という立場で間違えずにやりたい

38歳にしてすでに貫禄十分の話しぶり。現在の雰囲気とまった変わりません。

「政治家として日本のために戦う覚悟を固めてるって感じで格好いい」
「ズバッと忌憚なく答えてて今の若い政治家には感じられない気概がある」
「国のことを本気で考えてない人には嫌われてもいいなんて言葉は出てこない」
など、SNSでも好意的なコメントが多く見られました。

麻生さんの良い点は、政治家として駆け出しの頃に自ら定めていた「嫌われてもいい。日本の方向を間違えないような政治家になる」というパーパスを実践し続けていることです。

最近、8月に台湾を訪問した麻生さんは、中国が軍事的圧力を強めている中、「日本、台湾、アメリカをはじめとした有志国に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている」とコメント。当然ながら中国側の反発や、与野党からも懸念の声が上がり、大きく話題になっていました。
関係筋によると、「外務省と相談した上での発言であり、岸田総理の口から言えないから麻生さんが言うべきだと判断した」とのことですが、岸田さんが言えない状況で「嫌われても自分が言う」という姿勢を首尾一貫していることが感じられました。

パーパスは企業が語るものと思われていますが、企業だけのものではありません。
個人が自らのパーパスを定め、語り続けることで、何を聞かれてもぶれることがなくなり、信頼性が上がります。

それは時に嫌われることもあるかも知れません。
しかしその首尾一貫している姿勢が、信頼を獲得するのです。
ぜひ、個人のパーパスを仕事の中で語ってみることをおすすめします。

2023/09/15 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.305「いつも自然体」メルカリ・山田社長のプレゼン力

今、メルカリは絶好調。
2023年6月期決算では、純利益135億円。これまでの最高益の2倍以上です。

私はこれまでメルカリ・山田社長のプレゼンを2回取材しています。
一度目は2020年2月、ドコモとの提携記者会見。
二度目はその半月後、コロナ渦で行われた事業戦略に関する会見でした。

当時のメルカリは米国事業が赤字で、業績も思わしくありませんでした。
会見でも記者から「現在のメルカリは優位な立場にない」「将来はドコモと統合するつもりなのか」など、厳しめの質問が飛んでいました。
プレゼンでは山田社長から元気が感じられませんでした。
(ビジネスが厳しい状態だからだろう)と思っていました。

先月8月10日、ワールドビジネスサテライトで放送された山田社長のインタビューを拝見しました。
今回は前回と違って業績は過去最高です。
しかし、山田社長のテンションは3年前とまったく同じだったのです。
そして気がつきました。
「3年前の山田社長は、元気がなかったのではなく「自然体」だったのだ」

会社が良いときも悪いときも、一喜一憂せず、虚勢もはらない。
だから態度も変わらなかった、ということなのででしょう。

今、ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージが2003年に提唱した「オーセンティック・リーダーシップ」が注目されています。
オーセンティックとは「本心に偽りがない」という意味です。

無理に演じてるのって、私たちは違和感を感じて、なんとなく「何か演じているな」と分かりますよね。
演じることは、逆効果なことが多いのです。むしろ自分らしく誠実に振る舞うことで「このリーダーはウソがない」と感じて信頼感が高まります。これがオーセンティック(本心を偽らない)・リーダーシップです。

3年前、会見の質疑応答で、山田社長は記者から「楽天のような『個人経済圏』を目指してますか?」と聞かれて、こう答えていました。

「『個人経済圏』というのはなんでしょうか?不勉強でよくわかりません。すみません」。

分からないことは「分からない」と正直に言う。まさに嘘偽りのないオーセンティックな態度を首尾一貫していたと思います。

先日のインタビューでも「楽天のような経済圏を作りたいと思ってない。より開かれたような循環型社会になっていく。(メルカリが)必要不可欠な存在になるイメージでいる」と語っていた山田社長
次世代にも共感されるようなサステナビリティーなありかたを目指しているということなのでしょう。

今後も自然体でオーセンティックなリーダーシップを発揮し続けていただきたいと思っています。

2023/09/08 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.304 ヤッホーブルーイング 井手社長のプレゼン力

大企業と中小企業との協業って、なかなか難しいですよね。

まず信頼関係を築くのがたいへん。
中小企業からすると物怖じしがちです。
一方で大企業からすると、大企業の論理を押しつけがちです。

そんな中、素晴らしいと思ったイベントがありました。

6月1日、キリンビールが主催するクラフトビール体験型イベント「HELLO CRAFT BEER WORLD」が開催されました。
登壇したのが、「よなよなエール」などのクラフトビールで有名なヤッホーブルーイングの井手直行社長です。

井手さんは…

「僕らだけではパワーが弱いからキリンさんが音頭をとってやってくれる。頼みますよ。キリンさんね!」

とタメ口。キリンビール・堀口英樹社長の肩にガシッと手をかけていました。
まるで飲み会で同僚と仲良く肩を組んでいるかのようなノリ。
堀口社長もニコニコと嬉しそうに笑っています。

私は今から9年前の2014年9月、ヤッホーブルーイングとキリンビールの資本提携をする記者会見を取材したことがあります。
キリンビールがヤッホーに33.4%出資し、ヤッホーのビールを製造するのが提携の内容です。

当時、小規模なクラフトビール企業のヤッホーブルーイングは、製造能力が限界に達しつつありました。お客様の需要に対応するためには、大手ビールメーカーに製造委託する必要があったのです。一方でキリンも、当時、将来の成長が見込まれていたクラフトビール市場の拡大を狙っていました。

この資本提携発表記者会見でも、井手社長のノリは首尾一貫していました。
会見終盤、テーブルの上にあった自社ビール「よなよなエール」を二つ手に取りました。
そしてキリンの磯崎社長(当時)に「では、乾杯しましょう!」と声をかけ乾杯。
二人でグイッと飲んだあと、磯崎社長に「どうですかーっ?!」と聞いたのです。

こんなときビール会社の方が言う言葉は一つしかありません。「旨い!」。
当時今ほど有名ではなかったよなよなエールを、大手ビールメーカー社長に記者会見で「旨い」と言わせたのです。

実はこの提携にあたり、井手社長は磯崎社長にある不安を打ち明けたそうです。

「大企業のトップは数年で交代します。磯崎社長が熱心でも、次の社長がクラフトビールを冷遇する可能性もありますよね」。笑顔だった磯崎さんの表情が一変しました。カッと目を見開き、前のめりの姿勢で「井手さん、そんなことは絶対にありません」。この時の真剣な表情を見て、「磯崎社長は絶対に信頼できる。一緒にクラフトビールを盛り上げ、ビールファンにも喜んでもらえる」と確信しました。
(「クラフトの旗手井手直行氏(19)キリンビールと提携」日経MJ 2021年5月28日)

6月1日のイベントでの井手社長と堀口社長の振る舞いから、9年間、磯崎社長の約束がしっかり守られていることが伝わってきました。

企業規模が大きく異なる両社の提携に、ヤッホーブルーイングの社員も井手社長と同じような不安を抱えていたのではないでしょうか。

今回の会見で、9年前の会見を思い出しながら、トップ同士がフラットな関係でビジネスを推し進めている姿を明確に開示することは、それを見ている社員や、他の地ビール関係者にも安心感を与えるのだ、と感じました。

1994年の地ビールブーム以来、ここ数年、醸造所が増加し、地ビール人気が再燃しています。
ぜひ今後のクラフトビール市場を盛り上げていただきたいですね。

2023/09/01 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.303 應義塾高校野球部・森林監督から学ぶ「リーダーとはメンバーの自立を支援するもの」

一昨日の8月23日、夏の甲子園大会決勝戦で、慶應義塾高校野球部が107年ぶり2度目の優勝を果たしました。

この優勝は、私は日本社会の価値観をよい方向に進化させる大きなきっかけになり得ると感じています。
慶應高校の野球が、これまでの「高校野球、こうあるべし」という常識をことごとく破っているからです。

これまで甲子園で戦う高校野球の常識は、こんな感じでした。
・頭は丸刈り
・先輩後輩は絶対的
・朝から晩まで365日野球漬け
・勉強できなくてもそこは問わない
・プロ野球入団を目指して、全てを捧げる

慶應高校野球部は、こんな感じです。
・普通の髪型
・先輩後輩は同等
・練習時間は、強豪校と比べて少なめ
・野球部だからといって、勉強で特別扱いしない
・野球を離れても勝負できる人間に育てる

なぜこんな方針なのに、甲子園で優勝できたのでしょうか?
森林監督は、優勝インタビューで以下のように答えています。

「優勝することで、高校野球の新たな可能性とか、多様性とか、そういったものを何か示せればいい」
「常識を覆すという目的に向けて頑張ってきた」
「高校野球の新しい姿につながるような勝利だったと思う」

慶應高校は、全国屈指の高偏差値を誇る難関校です。強豪校のような野球推薦はなく、中学の内申点が満点45点中、38点以上必要です。
入学後も野球だけやっていればいいというわけではなく、扱いは周囲の学生とまったく同じ。しっかり勉強をしなくては進級できません。また、先輩後輩の関係も厳しくなく自由な雰囲気が特色。「高校野球といえばスポーツ刈り」が常識の中、部員全員がごく普通の髪型だったことがメディアで注目されていました。

慶應高校野球部のこうした姿勢に、風当たりも強かったようです。

優勝インタビューにて、大村主将は「ずっと高校野球の常識を変えたいとか、さんざん大きなことを言ってきて、笑われたり、いろいろ言われることがあった。そういう人たちを見返して、自分たちが絶対に日本一になるという強い思いで頑張ってきた」とコメントしていました。

これまでの伝統的な取り組み方とはまったく違う慶應高校が、並みいる強豪校を押さえて優勝したことは、まさに高校野球の常識を覆すような革新的な出来事だと思います。

森林監督は、著書「Thinking Baseball―慶應義塾高校が目指す”野球を通じて引き出す価値”」にて以下のように述べています。

私が指導するにあたって、もっとも心がけているのは、選手の主体性を伸ばすことです。
プロとして野球を続けられる選手はごくわずかですし、仮にプロ野球選手になれても、いつかは現役を引退しなければならず、監督や評論家になれるのはほんのひと握り。
つまり、野球から離れたときにきちんと勝負できる人間になっていることが大事なのです。
そのためには、高校野球を通して人間性やその人自身の価値を高めていかなければなりません。この重要な2年半、3年間を野球で勝つことだけに使っては絶対にいけない。野球にしか通じない指導は、「俺の言う通りにやれ」という方法が大半でしょうから、それはやはり指導者のエゴです。(中略)
社会で活躍できる人の共通点として挙げられるのは、自分を客観視できること。自分なりのアイデアを持ち、自分自身の強みを知り、それを伸ばす努力ができる人は、社会に出てどんな仕事に就こうとも通用します。

森林監督は「選手の主体性を伸ばす」と書いています。
まさにメンバーの自立を応援するのが、真のリーダーです。
人は自立しているからこそ、自分の価値を信じて、力を発揮できるのではないでしょうか。

昨今、スポーツ部の暴力事件、パワハラ事件が後を絶ちません。
勝利という結果に盲目的になり、パワハラを誰も止められず、受けている本人も「止めてほしい」と言えない現実は、自立しているとは言えないと感じます。

もしかしたらこれはスポーツだけでなく、旧態然として不祥事を起こす一部の日本企業にも、共通しているかもしれません。

慶應義塾の基本精神には、創設者である福澤諭吉の説く「独立自尊」があります。
独立自尊とは「自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行うことを意味する」ということ。(慶應義塾サイトより)

今回の慶應高校野球部の優勝で、組織のメンバーの個性を重視して自由に伸ばすことが大きな結果につながることや、リーダーが周囲に迎合せず勇気を持ってメッセージを伝えていくことがいかに大切か、日本社会全体で気づいて、大きく変わるきっかけになればいいですね。

2023/08/25 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.302 日大アメリカンフットボール部薬物事件謝罪会見から学べること

2023年8月8日、日大アメリカンフットボール部の薬物事件を受けて、日本大学が記者会見を行いました。

今回の事件を聞いて「またか」と思われた方も多いかと思います。

2018年、日大アメフト部の反則タックル事件は社会問題にもなりました。
その後も日大は、水泳部暴力事件、チアリーディング部パワハラ事件、ラグビー部暴力事件と大麻所持など、スポーツ部で不祥事が多発。さらに医学部でも不正入試が発覚。背任事件で元理事が逮捕され、理事長も逮捕されました。

そして2022年7月、日大出身で小説家の林真理子氏が「イメージが落ちた母校のために一肌脱ぎたい。ガバナンス全くなしの学校を何とか変えたい」と理事長に就任しました。

そして理事長の就任から1年。今回のアメフト部薬物事件が起こりました。

あまりメディアでは指摘されていませんが、今回の会見で最も注目すべきポイントは、不祥事発覚から会見開催までのスピード感だと思います。

7月6日、アメフト部の寮を点検し、逮捕された部員の部屋から植物片を発見。
その日から警視庁へ報告するまで、空白期間が約2週間。

沢田副学長は会見でこう述べました。

「大麻と分からなかった。疑惑があるから『大麻かもしれない』と思った」
「本人に『自首させて欲しい』と言われ、自分もそう考えた。まだ自首させる時期ではないと判断した」

林理事長は、この説明に対して「適切な対応」と述べています。

この林理事長の発言は、組織内の人間関係を考慮してのことかも知れません。
しかし澤田副学長の対応は、実は全く適切ではないのです。
違法な薬物への認識があるにも関わらず、それを所持していることは適切でないからです。

ここで参考になるのが、コーポレートガバナンスの考え方です。
コーポレートガバナンスと言うと「難しそうだし、自分は関係ない」と考えがちですが、このコラム読者は広報関係者が多いのでぜひお伝えしたいと思います。コーポレートガバナンスは、広報では今や必須科目です。

コーポレートガバナンスにおける不祥事対応の原則では、不祥事が起きた場合はタイムリーに情報開示をすることが鉄則です。
「しっかり状況を確認してから開示しよう」と考えて時間が長引けば、外部から隠蔽と判断され、責任追及される可能性が高まるからです。

今回はあまりにも遅過ぎました。
本来、事件が起こった場合、分かった時点ですみやかに記者会見を行い、誠実に謝罪するのが基本なのです。

当然、会見では記者より質問が飛びます。全部答えられないこともあるでしょう。しかしそれは問題ではありません。その時点で確認できている事実を明確にして、現時点で分かっている事実と、まだ分かっていない事実を分けて、答えることです。
さらにその後も、原因究明した結果の情報をわかり次第ホームページなどで開示するとと、最終的には第三者委員会の意見を踏まえて対応する旨をしっかりと伝えることです。

しかし今回の日大の謝罪会見では、あまりにも時間がかかりました。
会見準備に時間をかけている間に、メディアが徹底的に裏を取って調査します。この結果、謝罪会見では、「裏を取った情報で完全武装したメディア」vs.「まだ情報を完全に把握していない謝罪側」、という構図になってしまうのです。
そうならないためにも、不祥事は発覚時点ですぐに謝罪会見。これが鉄則なのです。

その点、昨年7月に発生したKDDIの大規模通信障害に対する謝罪会見はお手本のような謝罪会見だったと思います。
7月2日深夜1時35分に障害事件が発生し、翌日午前11時には記者会見。
高橋社長は、「事象の概要」→「事象による影響」→「事象の原因」→「一次処置対応状況を時系列で説明」→「検討している再発防止策」などを、分かりやすくプレゼン資料にまとめて、一人で説明していました。あれ以上は答えられないと言うところまで,オープンな情報開示が行われたのです。メディアやSNSでも好意的に受け止められました。

不祥事会見の成功パターンは、把握の段階で迅速に第一報を行うことです。隠蔽を疑われてしまうことが一番まずいのです。
今回の会見中、多くの記者より隠蔽を疑う質問が出てしまいました。初速を誤ったのが原因です。

不祥事は繰り返します。そして不祥事の完璧な未然防止は困難です。
これから、林理事長の本当の意味での経営手腕が問われるフェーズに入ってきているのではないでしょうか。
ぜひ初心を忘れずに改革に邁進していただきたく思います。

2023/08/17 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.301 東芝・島田太郎社長のプレゼン力

「プロ経営者」と言われる人に「東芝の社長をお願いします」というと、多くの人は辞退されるのではないでしょうか?

まず、歴代トップが粉飾決算などの不祥事を起こしたのは、まだ記憶に新しいですね。
その後、会社の存続が厳しくなり、上場廃止回避のために海外ファンドが資本参加。
「物言う株主」として経営に口出しされています。
つまり短期利益を求める「物言う株主」に経営の意志決定権のかなりの部分を握られているのです。

2022年3月、こんな東芝のトップに就任したのが、島田太郎社長です。

2023年8月7日、東芝はJIPなどによるTOB(株式公開買い付け)の開始を発表しました。この日開いた記者会見で、島田太郎社長はこう言いました。

「非上場化がベストな選択です。非上場化することで世の中に本当に貢献できる企業として再び成長できる。いまは平静で澄みやかな気持ちです」

島田社長は、生え抜きの東芝社員ではありません。
外資系のシーメンスPLMソフトウェア日本法人トップでした。
前々社長の車谷氏に説得され、2018年に東芝へ入社し、東芝社長に就任。
そして就任から1年5ヶ月で、非上場化という次のステージに導きました。

島田社長の良い点は、信念に基づきながら首尾一貫した発言を続け、経営判断を行っている点です。

昨今、修羅場になると、これまでの言動を簡単に変えるリーダーをよく見かけます。
これでは信頼されません。

2022年3月の社長就任当時、島田社長はテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のインタビューに出演しました。
この時「信じることをしっかりやるということが大事」と話しています。
また「非上場、上場維持、どちらの方が東芝にとって良いと考えるか」と聞かれ、こう答えています。

「価値の最大化自体を中心に考えるべき。形はその結果。私が重視しているのは、我々がどういう領域でどんなふうに会社を伸ばすことができるのかということ。そのことによって初めて、資本の状況、状態はどれが1番いいのか後から決まる」

では「東芝の価値最大化」とは何でしょうか?
島田社長は「日経ビジネス」で次のように述べています。

コアとなる事業は時代によって変わるので、大切なのはコアバリュー(中核となる価値観)となります。東芝とはいかなる会社かというと「人と、地球の、明日のために。」という目的がある。その達成に向けて、とにかく難しい挑戦を好む組織と言えます。もし、コアバリューを忘れて様々な提案を受け入れるようなかたちになってしまったら、東芝が培ってきた理念が失われてしまう。
(『編集長インタビュー 東芝・島田社長の覚悟 「結果示し、混迷から脱却する」』日経ビジネス 2023.9.8号より)

つまり「人と、地球の、明日のために、難しいことに挑戦するのが東芝らしさ」ということなのでしょう。
しかしこれを実現するには時間がかかります。
一方で東芝の持ち株の半分以上を占める「物言う株主」は、短期利益を求める傾向にあります。
しかも日本は海外から「日本はアクティビストの遊び場」とも言われるほど、「物言う株主」が権利を乱用する傾向もあります。

この難しい状況の中、島田社長は最後まで価値最大化のために信念であるコアバリューを基準に考え抜き、非上場化という形を選びました。

島田社長のプレゼンは、明確な信念を首尾一貫して語り続け、強い信頼感を感じさせます。

島田社長には、これまでの暗い空気を一掃し、日本の伝統ある優良企業である東芝を復活させていただくことを期待しています。

2023/08/11 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.300 ビッグモーターから学ぶ「内部通報が機能しないと、メディアに公開される」

7月25日、中古車販売大手ビッグモーター・兼重社長は記者会見で憤りの表情を浮かべて、こう述べました。

「6月26日に特別調査から不正行為の報告書を受けて、本当に耳を疑い、愕然とした。お客様の車を預かって傷をつけて水増し請求するなんてあり得ない。(社員には)刑事罰で罪を償ってもらう(※)」

兼重社長は、2時間の会見で「私は不正行為を知らなかった」と何度も主張。
不祥事会見でこの言葉を繰り返すトップ、実に多くおられます。

米国NOx排出テスト・クリアのための不正行為をしたフォルクスワーゲンのCEOも「私は不正行為を一切知らなかった」。
このCEOは、悪い報告をする社員を罵倒する人物でした。

今回の会見で、次期社長は「社長の強すぎるリーダーシップに原因があった」と言います。

同社元社員で店長も務めた人物は、メディアの覆面インタビューでこう語りました。
「社長は本当に知らなかったと思う。誰も言えない。社長以外は皆知ってて、社長だけが知らない」

結果的に、トップが事実を把握できないがために、不祥事は日常的になり放置されたのでしょう。

実はメディアではあまり報道されていませんが、社長会見では、社長宛に数回にわたる内部通報があった事実が語られました。
兼重社長はこう発言しています。

「その人間から何度も報告があった。今回もまたかと。もう仲良くやってくれと。すぐ部長を調査に行かせて内容を確認したところ『仲良くやることになりました』という報告を受けたので、それで解決したなと思った。あの時きちんと対応しておけばと反省している」

この対応は、内部通報の対応としては、最悪パターンと言えます。
内部通報した社員は、社長を信じて現場の問題を報告した訳です。
しかし社長は、部長に対応を任せました。
「仲良くやることになりました」という報告は、裏を返せば「キツく叱って、二度と内部告発するなよ、と言っておきました」ということなのかもしれません。

貴重な内部通報がもみ消された瞬間だったと思います。

最近明るみになる事件の多くは、メディアへのリークで発覚していることをご存じでしょうか?

2020年 2022年には公益通報者保護法が改正され、通報者がより保護され通報しやすくなりました。
しかし現実には、企業は内部通報を積極的に利用しておらず、今回のように内部通報があっても会社が抑え込んでしまうことが多いのです。

そもそも内部通報を行う社員は、会社をあまり信用していない可能性が高いものです。
その結果、不正は内部通報ではなく、行政やメディアに通報されるようになります。
当然ながら、経営トップが不祥事を社員から知らされていません。社外から突如として攻撃を受け、対応が後手に回ります。

今回の不祥事は、6月26日に特別調査から不正行為の報告書がありました。
にも関わらず、会見まで多くの時間を割いてしまいました。
不祥事会見で最も大切なのはスピード感です。会社の正式発表前に報道がなされると、隠蔽が疑われ、SNSで騒動が拡大して炎上します。この結果、信頼回復に時間を要するからです。

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、著書「恐れのない組織」で、「組織の心理的安全性が高まればマイナス情報が経営層に速く伝わり不正隠しは起こりにくくなる」と主張します。
心理的安全性とは、集団の大多数が「皆が気兼ねなく何でも言えて、自分らしくいられる」と感じる雰囲気のことです。

ビッグモーターが今後不正を繰り返さないためには、内部通報制度の仕組みを強化する一方で、言うべきことをトップに言いやすい心理的安全性の高い組織風土への変革が必要です。
新しい経営陣がこの問題に真摯に取り組むことを願っています

※会見最後に社員の告訴は取り下げるとの意向が社長より示されました
※2023/08/03 21:45 公益通報者保護法の改正は2022年に訂正

2023/08/03 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.299 まず結論ではなく、まず強い想い。吉村洋文大阪府知事のプレゼン力

(写真:吉村洋文公式サイト)

昨日の7月26日、大阪府定例記者会見で吉村洋文大阪府知事が登壇しました。
2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の準備が遅れつつあり、問題になっていることが注目されています。

吉村知事は、2019年に大阪府知事に就任してからすでに二期目。大阪で多くの支持を得ている知事です。
コロナ渦で強いリーダーシップを発揮していた知事の姿が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。

大阪・関西万博の施設は、全部で3タイプあります。
「タイプA」 参加国や地域が、自由にデザインするパビリオン。
「タイプB」 日本が作って渡すパビリオン
「タイプC」 パビリオンの一部を共同利用するタイプ

「万博の華」は「タイプA」です。吉村知事もタイプAでの建設を強く希望していました。
しかし7月26日時点で、大阪市への許可申請の数はゼロ。万博まで工期が間に合わない可能性が発生しているのです。

さらに開催時期「延期論」がささやかれ始めている背景もあり、1時間の質疑応答では万博パビリオン施設への質問が大半を占めましたが、吉村知事は辛抱強く丁寧な説明を展開していました。

多くの政治家は「我々(政党)は」「国では」と組織主語で話しますが、公の前で「私の考えは」と言える政治家は、多くいません。
吉村知事の良い点は、自分自身の想いを明確に表明することです。

記者から「タイプB」「タイプC」への変更の可能性を聞かれると、吉村知事は「僕の考えでは」と前置きした上で、「僕はAタイプでやると言っているので、できる限りAタイプでやりたいと思ってます。今もそう思ってます。2025年4月に必ず開催する。絶対に遅らせることはない」と強い想いを明確に口にしました。

その上で、「ただAタイプに固執しすぎるとできない国も出てくる。無理矢理推し進めるというのは、ちょっとやめたほうがいいと思う。想いはあるけれど、できないところに固執して結局できませんでしたと言うよりかは、できるところに行ったほうがいい」と、冷静に一歩引いた見解を述べたのです。

「プレゼンは、先に結論を述べよ」と言う人がよくいます。
しかし、万博の華であるAタイプを期待している人たちは多くいます。
そんな人に「Aタイプに固執しない」と結論を先に語ると、その人たちを大きく失望させることになります。

一方で、リーダーの強い想いは人々に届きます。
最初に結論を語らず、まずは強い想いを表明することで、相手に「この人は真剣だ。ちゃんと話を聞こう」と聞く姿勢ができます。
同じ結論でも、最初に想いを語ることで、聴き手の受取方は大きく違ってくるのです。

かつて吉村知事が日本経済新聞のインタビューで「首相を目指しますか」と聞かれ、きっぱり「目指しません」と言い切ったコメントを拝見したことがあります。
吉村知事はその理由を以下のように述べています。

知事や市長は選挙で直接選ばれる。腹をくくれば公約を実行できる。首相は国会議員に選ばれる。派閥などに配慮しないとならず、スピードと決定力が圧倒的に欠ける。僕自身は向いているとは思わない。性格上、まとめられない。
(『国会議員は3割減らせる 大阪知事が唱える国政改革 吉村洋文・日本維新の会共同代表』2023年7月15日 日本経済新聞より)

最近、鳥取県の平井伸治知事や、北海道の鈴木直道知事など、人口の少ない都道府県で活躍する知事が目立っています。
今後、吉村知事のように自分の想いを自分主語で語り、日本を地方から変革していく政治家のリーダーが増えていけば、日本ももっと元気になると思います。

2023/07/27 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.298 植田和男日銀総裁のプレゼン力

日本銀行(日銀)は銀行ですが、普通の銀行とはかなり違います。
日銀は、お金を刷る権限を持っています。さらに金利の方向性も決めることができます。
日本銀行は、日本の中央銀行。日本経済の大事な舵取りの一役を担っているのです。

今年4月に、この日本銀行の総裁に就任したのが、植田和男さんです。
日銀総裁でとても大事なのが、今後の金融政策の方向性を語るメディアとのインタビューです。

一般的な話ですが、組織のトップのプレゼンは、市場や組織を動かします。
しかし日銀総裁のプレゼンの影響力は、ケタ違いです。

経済学者のケインズは「中央銀行が金利の誘導目標を明確に示すことで、金利動向の様子をうかがう投資家もそれになびいて行動する」と述べています。

日銀総裁のちょっとした一言、ほんの少しの間、目線で、市場関係者は裏にあるメッセージを読み取って、株式相場や為替相場が大きく動く、ということです。
日銀の施策一つで、金融関係者は大金を稼いだり失ったりします。だから皆、真剣に日銀総裁の話を聞きます。

あなたはプレゼン中に、思わず言葉が詰まって間を取ることってありませんか?
普通のプレゼンなら何の問題もないこんな仕草でも、日銀総裁がやると相場がいきなり下落したり、高騰したりするのです。
想像も出来ないほどすごいプレッシャーですよね。

では新たに就任した植田総裁のプレゼンは、どうなのでしょうか?

6月16日の会見で、植田総裁は、紙を読み上げずに正面を見据えながら明言しました。

「粘り強く金融緩和を継続していく。賃金の上昇と2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指す」

植田総裁の良い点は2つあります。

1つ目は、大事なメッセージを自分の言葉で話すこと。
紙を見ずに自分の言葉で話すと、自信を伝えることができるのです。

「紙を見ず自分の言葉で語ること」は、人を動かす経営トップにとっては当たり前のことですよね。
「このトップ自信がなさそうだ」と見られると人は動いてくれません。
しかし、日銀総裁が紙を見ずに話すことがいかに凄いことかは、相場の反応を見ると分かります。

会見中、「金融緩和は続く」と判断した円相場は141円台まで円安が進み、輸出関連の株価も上昇。日経平均株価は2日ぶりに33年ぶりの高値更新しました。やはり日銀総裁のプレゼンは、それこそ異次元の重圧なのです。

良い点の2つ目は、明言せずともメッセージ力を強めていること。

「正直、物価の下がり方が思っていたよりやや遅いかなと思う。資産価格の高まりも続いている。行きすぎると金融的不均衡につながり、将来マイナスの影響を及ぼす」
「次の金融政策決定会合までの間に、新しいデータや情報が入る。それに基づき前回とは違ったある程度のサプライズが発生することもやむを得ない」

このように語った植田総裁は、会見で緩和維持を明言する一方、サプライズ修正の可能性も示唆していました。
サプライズ修正とは、「市場関係者が想像もしていない方法で、金融政策をいきなり修正するかもしれませんよ」ということ。
前任者の黒田総裁は、よくこのサプライズをやっていたので、「黒田バズーガ」と言われていたりしました。

植田総裁は、修正について語るときは、紙を見ながら慎重に話していたのも印象に残りました。おそらく執行部との議論を丁寧に伝えようとする意識が働いたと思われます。

緩和姿勢継続を示すと同時に政策とのバランスも保ちつつ、サプライズにも含みを持たせて話しているのです。
市場は「いつ長期金利上限を撤廃するサプライズがあるのか」に大きく注目しています。この注目に最大限応えながらも、含みを持たせることで強く印象に残しているのです。

ビジネスパーソンも学ぶべきことが多い植田総裁のプレゼンですが、一つ異なる点があります。
それは植田総裁が、その場にいる聴き手だけではなく、市場と対話しているということ。

日銀総裁の大事な仕事は、市場の空気を作ること。
植田総裁は市場と対話しながら、市場の空気を作りだしているのです。

いま、日銀は異次元の金融緩和を続けています。

植田総裁は、いつ、どのように金融緩和を終わらせるのか慎重に見極めているのではないでしょうか。今後も植田総裁のプレゼンに要注目です。

2023/07/19 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.297 ウクライナ・ゼレンスキー大統領のプレゼン力

2023年7月11日から12日までNATO首脳サミットがリトアニアにて行われました。
サミット一番の注目はウクライナのゼレンスキー大統領のコメントでした。

「闘う政治家」として今や彼のトレードマークともなった、ピッタリしたカーキ色のカットソーで現れたゼレンスキー大統領。
NATO加盟の時期が示されないことを受け、まずは「前例のない馬鹿げた話だ」と強い口調でNATOを批判。強烈なカウンターパンチを放ちました。

しかしトップとの会談後に行われた共同会見では、複数年単位の軍事支援計画や加盟手続きの簡素化も発表されたためか態度は少々軟化。以下のようにのべました。

「ウクライナの人々に大事なのは、NATO加盟の安全保障」
「他の国々は生活の支援をしてくれているが、私たちは生活をする前に生き残らなければならない」

ゼレンスキー大統領のプレゼンのポイントは、どのような状況であっても首尾一貫して「ウクライナ国民の安全」を強調していること。
「なぜ私はこの話をするのか」という大義名分が明確なのです。

人は、誰もが共感する大義名分を聞くと、自分ごとに置き換えて考えるようになり心が動きます。
だから大義名分が明確であれば、多少厳しい言い方をしたとしても受け容れてもらいやすくなるのです。

ゼレンスキー大統領が大義名分を語るもう一つの理由はウクライナ国内の支持率です。
EU加盟、NATO加盟、核再武装は、ゼレンスキーが支持率を上げるための「3本の矢」。

今回のサミットでは矢の一つ「NATO加盟」に向けての努力を国民にアピールする大きなチャンスでもありました。
ゼレンスキー大統領の政治家としてのしたたかさも感じさせたサミットでした。

No.296 原稿があっても感情を伝える方法

ある企業のメディア会見を取材したときのこと。

トップは冒頭から最後まで、明らかに他人が書いたと思われる文章を読み上げていました。
機械的に話しているだけ。感情が入っていません。言葉が素通りしていくように感じられ、そのトップが何をしたいのか伝わってきませんでした。
これでは人は動きません。なぜなら人は感情で動くからです。

「台本読み上げでも感情が伝わるように話せませんか?」

このような質問をいただくことがあります。
実際には訓練されたプロの役者は別ですが、普通の人が他人が書いた文章を読み上げても、なかなか感情が伝わらないものなのです。

しかし用意された文章でも、感情を伝える方法があります。
それは話し手本人が「書き換え」を行うことです。

ジェフ・ユナイテッド市原・千葉で、オシム監督の通訳を務めた間瀬秀一氏は、「サッカー選手である彼らが理解して、それをできるようにするまでが自分の成果なんだ」と考え、オシム監督の指示を自分なりに「書き換え」て選手に伝えていたそうです。
正確に訳すのではなく、伝える順番を変え、言葉の補足を施し、ときには出身である三重県の方言まで織り交ぜながら伝えたのです。
(参照元『週刊東洋経済 2023.7.1』「ニュースの核心」)

たとえば、誰かが書いたこんな文章があったとします。

「今期の業績は、おかげさまで目標を達成しました。皆様のご尽力に感謝いたします」

これを読むときに、自分の経験を交えてこう書き換えます。

「今期の業績、私は最後まで達成できるかハラハラしましたが…。最終日に○○社の大型案件を受注しましたね。おかげまで目標達成です。
皆さん、本当にありがとう。ご尽力、深く感謝します」

忙しいトップが文章をイチから作成して話すのは難しいでしょう。

しかし元原稿を自分なりに解釈し、「書き換え」を行えば、読み上げより何倍も感情が伝わりやすくなります。

マネジメントの王道は「人に動いていただくこと」。
ぜひ、原稿に手を入れて、ご自分の気持ちを伝えてみてください。

2023/07/06 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.295 鳥取県・平井知事のリスクマネジメント

「断じて許すことができない」

6月15日、午後10時30分。
普段、とても温厚な鳥取県の平井伸治知事は、鳥取県庁の緊急会議で強い口調で言い切りました。

その3時間前。北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本のEEZ=排他的経済水域内に着弾したことを受け、即刻のメディアに向けての発言です。

「私どもの操業しているベニズワイガニのカニかご船、その操業水域で着弾したと考えられます。こういう所で安心して操業できるでしょうか。断固抗議しますし、政府も対策を取って頂きたい。憤りを持って強く抗議をしたいと思います

引用元:『山陰放送』「何か落ちた大きな音がした」北朝鮮ミサイル落下地点から約27キロで鳥取県の漁船操業中

私は2016年、同じ平井知事のメディア会見を取材しました。そのときの愛嬌たっぷりの振る舞いと得意のダジャレを連発している姿とは打って変わって、厳しい平井知事の政治家としての本質を見た思いでした。

「ダジャレ知事」として軟派な印象がある平井知事ですが、実は東大法学部卒→自治省(現・総務省)の官僚→全国最年少副知事を経て、選挙を戦って鳥取県知事に就任した、筋金入りの政治家です。
2007年の県知事就任直後には「机上の理論では100年経っても駄目だ」と鳥取県庁職員を一喝。変革に取り組み続けています。

平井知事の対応は、企業のリスクマネジメントにも大いに参考になります。

今回の平井知事のメディアの発信で良かった点は、何よりも問題発生からのスピード。

6月15日の午後7時30分に事案発生。
迅速に緊急会議を開く段取りを整えて、3時間後の午後10時30分にはメディアの前に立っていました。

加えて素晴らしかったのは、その場で、翌16日には県は漁の安全が確保されるように、国へ緊急の要請を行うことを明言した点です。

通常は「詳細を確実に確認してから」と考えて、発信を遅らせてしまうケースが多くあります。
しかし発信が遅れれば遅れるほど、県民の不安は増大します。

平井知事をつき動かしているのは、鳥取を豊かな素晴らしい県にしたいという政治家としての使命感です。
県民の生命がかかる有事で、何を差し置いても迅速に対応。誠実な行動を首尾一貫しています。

リスクマネジメントにおいても、使命感、目指すべきもの、想い、行動をシンプルに一致させることが、何よりも大切なのです。

2023/06/29 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.294 効果的なプレゼン資料の作り方

「ジョブズのような、写真メインで文字が少し、みたいな資料、かっこいいですよね。こんな感じのプレゼン資料を作るコツを知りたい」

このような質問を受けることがあります。
例えば、「プレゼンテーションZen」であるような、画面全体に美しい写真、巨大な文字と短いメッセージのみの資料はプレゼンの達人を思わせます。

最近拝見したプレゼンで気になることがありました。
その方の資料は、大きな写真の中心に1行、短くシンプルなメッセージのみが書かれている美しいチャートでした。
しかし後から資料を見たとき、何の話をしていたのか思い出せなかったのです。

確かにセンスの良い写真やシンプルなメッセージはプレゼンの説得力を上げてくれます。
しかし写真に力点を置くあまりメッセージを削りすぎると、本当に伝えたい事が伝わりにくくなります。

なぜなら人の見え方はバラバラだからです。
同じリンゴでも、赤く描く人もいれば、緑を使って描く人もいます。人の認知は同じではないので、写真の印象に委ねるとメッセージがぼやけてしまいます。

そこで必要なのが、最小限の研ぎ澄まされたメッセージを考え抜いて、資料に入れることです。

ポイントは2つあります。

1つ目は、そのチャートで伝えたいインサイト(洞察)を書く。
相手に伝えたいインサイトを書かないと、そのチャートで何を言いたいのか分かり難くなります。
ただし文字をぎっしり書くのは見にくくなりますのでNG。研ぎ澄ましたメッセージに磨き抜くことです。

2つ目は、チャートのタイトルをつなぎ合わせると、ストーリーが浮かび上がってくること。
「見た目重視」で、ストーリーの流れと関係ないタイトルをつけているチャートが多く見られます。これはいただけません。そこで資料づくりの際に、全体をサムネイル表示にして、メッセージの流れが首尾一貫しているかを見ると、一目で確認しやすくなります。

プレゼンを控えている方は、ぜひこの2点を確認してみてください。

2023/06/15 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.293 パーパスを語ることの意味

「早く仕事に行きたい」「出勤が楽しみ」

このように思える職場なら、最高ですよね。
ということで今回も前回・前々回に引き続き、パーパスに関するお話です。

従業員60名のある歯科クリニックは、トップダウン経営で離職率が33%。
毎年従業員の1/3が離職するという職場でした。

しかし離職率は、なんと6%と大きく改善。
しかも、診療時間を短縮したにもかかわらず、業績は向上しました。
従業員の皆さんが「仕事に行きたい」と出社を楽しみにする会社に変身したのです。

ポイントは、パーパスです。

このクリニックは、2019年に従業員全員で話し合い、パーパスを決めました。
一人一人の従業員が、お互いに大事にしている価値観や存在価値を徹底的に話し合って決めたパーパスです。
ですから全員が納得しているのです。

現実には、全員がパーパスを話し合って決めるのは難しいかもしれません。

一方で、今の職場には既に何らかのパーパスの原石になる考え方があるかもしれません。
そこでそれをパーパスに見立てて、自分なりのエピソードを交えながらプレゼンで話してみることです。
良いパーパスは、なぜ自分が働くのか「働く意味」を明確にし、プレゼンに首尾一貫性をもたせてくれます。

調査によると、この5年間で転職先を選ぶ際にパーパスを重視するビジネスパーソンは2倍に増え、さらに年収よりもパーパスを優先する人は半数近くにのぼっています。

今の時代、パーパスを語ることは、仕事を語ることそのものでもあるのです。

◆引用記事
出勤が楽しみ」 高い離職率に苦しむクリニックの「働きたい改革」

2023/06/08 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.292 なぜJINS田中仁CEOの前橋プロジェクトに、人が集まるのか?

5月29日のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で、大手メガネチェーン「JINS」のCEO、田中仁さんが出演していました。
田中さんは今、前橋市の再生に取り組んでいます。

前橋市商店街はかつて賑わっていましたが、現在は最盛期と比べての歩行者数は10分の1以下。「シャッター通り」となっていました。
前橋氏出身の田中さんは、こう話します。

「子供の頃、親に連れられて繁盛している商店街を歩いていた。活気に溢れていたあの頃の街を取り戻したい」

そして率先して商店街におしゃれなカフェやレストランを誘致。ホテルや美術館も作り、今、客足が戻ってきています。
さらに前橋市から起業家を育てるために、9年前に「群馬イノベーションスクール」を立ち上げて無料で起業のノウハウを伝えています。教室には大勢の受講生が集まり、卒業生は次々と起業しています。

短い番組でしたが、田中さんが目指すこと、言っていること、行動は、全て首尾一貫していることがよく伝わってきました。
そしてそんな田中さんの志に、多くの人たちが集まり、前橋が盛り上がろうとしています。

田中さんは、相手が共感するWHY=大義名分を出発点に、行動し、語っています。
そして人は「なぜそれをしなければならないのか」という大義名分を聞くと、心が動き、自分ごとに置き換えて考えるようになります。

逆にうまく伝わらない人の多くは、大義名分をあまり重視しません。
そして「大事なのは中身だ」と考えて、製品やプロジェクトの説明、またはハウツーから話し始めてしまいます。
でもその結果、多くの人からスルーされてしまいます。

皆さんも次のプレゼンではぜひWHYを語っていただきたいと思います。

2023/06/01 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.291 パーパスをプレゼンで語る理由

先週のメルマガで、パーパスについて書きました。その続きです。

会見でパーパスを語る企業が増えてきました。
パーパスは、企業の本質を表すものです。
新商品や新サービスの発表会見で、会社のパーパスもあわせて語ることで、その企業が何をしたいのか、そしてなぜその新商品・新サービスなのかが、メディアにストレートに伝わります。

そして良いパーパスは、トップだけではなく一般社員さんが語ることでも大きな効果を発揮します。

パタゴニアのメディア会見を取材したときのことです。
試食会でオーガニック食品が提供されました。しかし価格は一般的な商品よりも高額です。
スタッフにその理由を尋ねると「はい。高いんです。私たちは環境を再生する農業や漁業をサポートしていますからね」と、自信を持って説明してくれたのが印象に残っています。

パタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と宣言しています。
社員さん一人一人がパーパスの内容に腹落ちしているので、何を聞かれてもぶれることがないのです。

しかし実際には、せっかく良いパーパスを作ってもトップだけが語っている企業が多いように感じます。

パーパスは、トップが語るためのものではありません。
企業の関係者全員のものです。

ぜひあなたも、御社のパーパスをプレゼンの内容に入れ込んで語ってみてはいかがでしょうか?

2023/05/25 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.290 額縁パーパスにならないために

「会社のパーパス」を語るリーダーが増えています。
パーパスとは、会社の存在意義のこと。会社の本質を一言で表現したものです。

最近、さかんにパーパスが語られるようになった背景には、働く会社を決めるときにパーパス重視の人々が増えてきているためです。
入社時や転職時に「パーパスを年収よりも重要視する」という方が半分以上いる、という調査もあります。

「ウォンテッドリー、企業のパーパスと採用に関する調査結果を発表」2022年7月11日)

いまやより良い人材に選んでもらうためには、パーパスは不可欠。
パーパスを掲げるトレンドが生まれているのです。

しかしパーパスを作っても、数ヶ月も経つと経営幹部でも「ウチのパーパスなんだっけ」となってしまうケースは少なくありません。本来パーパスは自分の言葉で語るべきなのに、プレゼンでパーパスを読み上げているトップもいたりします。

一橋大学ビジネススクールの名和高司客員教授は、このようなパーパスを「額縁パーパス」と名付けています。
額縁に入れて飾っているだけで、身についていない…。
リーダーが、台本のように額縁パーパスを棒読みしていたら、嘘くささを感じてしまいますよね。

パーパスは会社の本質です。
リーダーが自然に出てくる自分の言葉で語って、伝えていくものです。

パーパスを伝えるときに単なる綺麗ごとではなく、より説得力を高めるには、具体的な言葉を入れると話しやすくなります。

サイバーエージェントは2021年に「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というパーパスを制定しました。藤田社長は、パーパスを次のように語っています。

インターネット産業は成長を続け、新しい仕事も増えて、若い人が活躍している。しかし自分達の外に目を向けると多くの先送り世代が居座り、若い人の閉塞感につながっている。既得権益も存在する。
ビジネスも日本の閉塞感はこれからも続く。現状の延長線にある限りそれを打破する動きは進みそうにない。しかし民間企業としてやれることはある。情熱を持って、熱狂しながら変えていきたいと思える問題があれば、その状況を打破するのは自分達の役割の一つだ。
(ハーバード・ビジネスレビュー 2022年6月号)

パーパスは飾っておくものではありません。
ましてや暗記するものでもありません。
ぜひ、ご自身が腹の底から信じることを、具体的で力強い言葉で語っていただきたいものです。

2023/05/18 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.289 嗄れをなくす発声法

人前で話すとすぐ声が嗄れてしまう方、結構多くおられます。
それに話している途中で声が嗄れるのは話しにくくて困りますよね。
一方で声が嗄れない人もいます。

声が嗄れる原因は、喉に余分な力みがあるからです。
ただ「つい力が入ってしまう」ということは、醒めていたり、感受性が弱かったりする人よりは何倍も感動する話になって相手に伝わる可能性も高いので、必ずしも悪いことではありません。

ただ、声嗄れを繰り返しすぎるとガラガラ声に移行して定着してしまうことがあるので、要注意です。長時間大声で話す政治家や八百屋さんなどに声が嗄れている方が多いのは、限界を超えて無理に声を出し続けた結果です。

声嗄れは力みが原因なので、声嗄れを防止するには、声帯をリラックスさせるトレーニングをすると良いでしょう。
ポイントは、声帯を緩めるための「息を使う」ことです。方法は以下です。

(1) ガラス磨きや眼鏡を拭くときガラスに「は~」と吹きか
けるような息をはく

(2) 息を吸って話す

(3) (1)(2)を繰り返す

「は~」と暖めの息をはくことで声帯の力みがとれてきます。
簡単ですのでお試しください。

本番中声が嗄れてしまった場合は、水を飲むことで応急処置ができます。
声が嗄れやすい方は、水を用意してプレゼンに臨みましょう。

2023/05/11 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.288 プレゼン苦手の克服法

「私、プレゼンが大の苦手。やったら絶対失敗しちゃいます。できれば一生やらないで済ませたいです…」

こんな方がいらっしゃいました。
でも社会人ならどんな人でもいつかはプレゼンする機会は訪れるものです。

本来は「これやりたい」「楽しそう」と思って取り組む方が成功しやすいと言われています。
では「仕方ないからやる」のは、やっぱり無駄なのでしょうか。

知人に誘われて、田んぼの草取りの手伝いに伺ったことがあります。当時の私は、「庭の草取りだって面倒なのに、なんで田んぼの草取りをしなくてはならないの?」と思いました。
なんとなく草取りを始めましたが、つまらない単純作業の連続です。

でもやっているうちに少しずつ雑草の抜き方や水田の動き方のコツがつかめて、気持ちに余裕が出てきました。そうすると、「どうするともっと効率が良くなるか」、「身体を上手く使うにはどうすればいいか」など、工夫しながら作業するようになります。ふと楽しんでいる自分に気がついたのです。その瞬間、自然への畏敬の念と共に、幸せな気持ちがわき上がってきました。

江戸時代初期の思想家・鈴木正三(すずきしょうさん)は、「何の事業も皆佛行なり」 と考え、「ただ無心に行動することで気づきが得られる」と言います。
正三の時代は、悟りを開こうと思えば寺院にこもって修行しなくてはいけないと考えられてきました。しかし正三は、日々の仕事こそ仏行であり、仕事をすれば自動的に世の中に貢献することになり、ただ仕事に感謝して働けば悟りが開けるということを言ったのです。

自分が見えている世界は、これまでの経験からくる前提や思い込みから出来ています。
新たな経験をしてみると何かしらの「気づき」があって、想像していた世界と違って見えてくるということがあるのです。

プレゼンも、ご縁があったらまずはやってみる。そこから自分が変わっていくということがあるのだと思います。
 

2023/04/27 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.287 プレゼンが上達する人は「頑固」である

コンサルティングで見違えるようにプレゼンが上達する人にはある共通の特徴があります。
それは「頑固な人」です。

これって意外ですよね。
一般的には「素直じゃないと、人は伸びない」と言われています。

でも「素直」とはそもそも何でしょう。ちなみに辞書にはこう書いています。
「飾り気がなくありのままである様子」
「従順で、人の言動を逆らわずに受け入れるさま」

「非を素直に認める」「忠告を素直に聞く」「行為を素直に受ける」とよく言います。
素直さは、どうやら「受け入れる」という要素があるようです。

でもちょっと考えてみて下さい。なんでも「受け入れる」人って、どうでしょうか?

「Aにしたらいいと、思いますよ」
「そうですね。確かに。Aにします」

「それ、ダメですよ」
「そうですか。早速やめるようにします」

(なんだか物足りない)という気がしませんか。
確かに素直です。でも他人の意見を右から左に受け入れ続ける「自分がない人」のようにも見えますよね。

こんな状況を、精神科医の土居健郎はこう表現しています。

「『自分がない』とは、『私は自分というものを持っていない』、『彼は自分というものを持っていない』など、自身の内面を反省的にとらえている自己意識のこと」

よく会議で「彼には、自分の意見がない」「彼は何をやりたいのか分からない」と言われる人がいます。
こんな人も「自分がない」状態に陥っています。

組織の中で「自分がある」状態にするには、勇気が必要です。
他人と対立したくない場合は尚更です。自分の意見を強く主張すると「あいつはKY」とか「あいつは頑固」と言われてしまいますよね。

人は様々な経験を蓄積しています。だから自分なりの持論や前提を持っています。
こう考えると、人は本来「頑固」なものなのです。
この頑固さが、その人の価値観を形作っています。

一方でこの頑固さという価値観は、何か大きな壁に直面して、価値観の限界に突き当たることがあります。
こんな時には、価値観そのものを大きく変えて行く必要もあります。

その時にこそ必要なのが「素直さ」です。
こう考えると人が成長するためには、頑固さを持ちつつ、相反する素直さも持ち続けることが、必要なのです。

最初の話しに戻りましょう。
コンサルティングで見違えるようにプレゼンが上達する人は、アドバイスを受け入れつつ、自分の意見を人前で通す頑固さを持つ人なのです。

2023/04/20 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika