パンが美味しく焼ける「バルミューダ・ザ・トースター」のヒットで有名になったバルミューダ。
そのバルミューダ・寺尾玄社長の「バルミューダ・ザ・ゴハン 新商品発表会」を取材したときのことです。
寺尾社長は発表会冒頭でこう言いました。
「パンが美味しくなるならご飯も美味しくなるはず。でも家庭だと、美味しく炊ける土鍋炊飯は、コンロを1つ専有してしまう。もっと便利に、土鍋より美味しいご飯を実現したいと思った」
そして、なぜかこのあと、『当初、炊飯器ではなく「冷凍ご飯開発」に走ったのです』と、紆余曲折した失敗談を滔々と語り始めたのです。
新商品に加えて、商品の開発失敗談にここまで多くの時間を割いたプレゼンは初めて見ました。
そして発表直後、メディアでは失敗談も含めて多く取り上げられ、炊飯器は品薄になったのです。
寺尾社長のプレゼンは、「なぜこれをやっているのか」自分が心から信じている思いを重要視しているように思えます。
「商品よりも、思いの方が大事なのでは?」と思えるほどです。
寺尾社長にとって、失敗談は思いを語るうえでの大事な要素なのです。
聴き手は、話し手の「なぜ、これをやっているのか?」という強い思いに対して、興味を持ち共感します。
しかし世の中の多くのプレゼンでは、「なぜ、これをやっているのか?」が不明確。
だから、スルーされやすいのです。
寺尾社長の「自分の思い」を重視する姿勢は、ご自身が書いた自伝『行こう、どこにもなかった方法で』でも、首尾一貫しています。
執筆当時、すでにバルミューダを立ち上げていたにもかかわらず、この本では読み続けても、バルミューダのことがなかなか出てきません。
全11章中、バルミューダが登場するのは、なんと9章から。そこまで「幼少の頃の家族旅行」や「若い時の一人旅」、「ミュージシャンとしての活動」などの話が、延々と続きます。
初期の商品「グリーンファン扇風機」は、書店で流体力学の本を買い、独学で学んで作り始めます。そして寺尾社長の思いに共感した応援者が増えてくのです。
この本では、「なぜやっているのか」の原体験をぶ厚く語ったからこそ、9章以降のバルミューダの話に強い説得力が宿っていました。
以前、ある編集者さんがこんなことを言っていました。
「この前、バルミューダの社員さんたちに取材に行ったんですけど、みなさん寺尾社長のことが大好きなんですよね」
プレゼンでは「自分の思いなんて語らずに、本題から」と思われがちです。
でも実際には、人はその人の本当の思いを知ることで、共感するようになるのです。
今度の勝負プレゼンでは、思い切って強い言葉で自分の思いから語ってみてはどうでしょうか?