No.300 ビッグモーターから学ぶ「内部通報が機能しないと、メディアに公開される」

7月25日、中古車販売大手ビッグモーター・兼重社長は記者会見で憤りの表情を浮かべて、こう述べました。

「6月26日に特別調査から不正行為の報告書を受けて、本当に耳を疑い、愕然とした。お客様の車を預かって傷をつけて水増し請求するなんてあり得ない。(社員には)刑事罰で罪を償ってもらう(※)」

兼重社長は、2時間の会見で「私は不正行為を知らなかった」と何度も主張。
不祥事会見でこの言葉を繰り返すトップ、実に多くおられます。

米国NOx排出テスト・クリアのための不正行為をしたフォルクスワーゲンのCEOも「私は不正行為を一切知らなかった」。
このCEOは、悪い報告をする社員を罵倒する人物でした。

今回の会見で、次期社長は「社長の強すぎるリーダーシップに原因があった」と言います。

同社元社員で店長も務めた人物は、メディアの覆面インタビューでこう語りました。
「社長は本当に知らなかったと思う。誰も言えない。社長以外は皆知ってて、社長だけが知らない」

結果的に、トップが事実を把握できないがために、不祥事は日常的になり放置されたのでしょう。

実はメディアではあまり報道されていませんが、社長会見では、社長宛に数回にわたる内部通報があった事実が語られました。
兼重社長はこう発言しています。

「その人間から何度も報告があった。今回もまたかと。もう仲良くやってくれと。すぐ部長を調査に行かせて内容を確認したところ『仲良くやることになりました』という報告を受けたので、それで解決したなと思った。あの時きちんと対応しておけばと反省している」

この対応は、内部通報の対応としては、最悪パターンと言えます。
内部通報した社員は、社長を信じて現場の問題を報告した訳です。
しかし社長は、部長に対応を任せました。
「仲良くやることになりました」という報告は、裏を返せば「キツく叱って、二度と内部告発するなよ、と言っておきました」ということなのかもしれません。

貴重な内部通報がもみ消された瞬間だったと思います。

最近明るみになる事件の多くは、メディアへのリークで発覚していることをご存じでしょうか?

2020年 2022年には公益通報者保護法が改正され、通報者がより保護され通報しやすくなりました。
しかし現実には、企業は内部通報を積極的に利用しておらず、今回のように内部通報があっても会社が抑え込んでしまうことが多いのです。

そもそも内部通報を行う社員は、会社をあまり信用していない可能性が高いものです。
その結果、不正は内部通報ではなく、行政やメディアに通報されるようになります。
当然ながら、経営トップが不祥事を社員から知らされていません。社外から突如として攻撃を受け、対応が後手に回ります。

今回の不祥事は、6月26日に特別調査から不正行為の報告書がありました。
にも関わらず、会見まで多くの時間を割いてしまいました。
不祥事会見で最も大切なのはスピード感です。会社の正式発表前に報道がなされると、隠蔽が疑われ、SNSで騒動が拡大して炎上します。この結果、信頼回復に時間を要するからです。

組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンは、著書「恐れのない組織」で、「組織の心理的安全性が高まればマイナス情報が経営層に速く伝わり不正隠しは起こりにくくなる」と主張します。
心理的安全性とは、集団の大多数が「皆が気兼ねなく何でも言えて、自分らしくいられる」と感じる雰囲気のことです。

ビッグモーターが今後不正を繰り返さないためには、内部通報制度の仕組みを強化する一方で、言うべきことをトップに言いやすい心理的安全性の高い組織風土への変革が必要です。
新しい経営陣がこの問題に真摯に取り組むことを願っています

※会見最後に社員の告訴は取り下げるとの意向が社長より示されました
※2023/08/03 21:45 公益通報者保護法の改正は2022年に訂正

2023/08/03 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika