野田元総理の追悼演説が見事だった理由

10月25日、国会にて立憲民主党の野田佳彦元首相が安倍元総理の追悼演説を行いました。

持ち前の低く響く重量感のある声を活かした見事な演説でした。
しかしこの演説で素晴らしいのは、話術ではありません。
考え抜かれた明確な「バリューポロポジション」があったことです。

バリュープロポジションとは

・お客様が求めていて、
・他の人が提供できないけど、
・自分だけが提供できる価値のこと。

自分が話したいことだけ話しても、聴き手が求めていないことならば、誰も聴いてくれません。
たとえ聴き手が求めていることでも、他の人でも語れる内容なら、聴き手は聞き流します。

しかし、その人しか語れない、聴き手が知りたいことならば、聴き手は必ず身を乗り出して聴いてくれます。
人前で話す場合、バリュープロポジションは、3つの質問で考えます。

〔三つの質問〕
1.聴き手が知りたいことは何か?
2.ライバルが語れることは何か?

3.自分しか語れないことは何か?

この演説では、野田氏は「安倍氏は『仇のような政敵』」と評したうえで、こんな話しを語りました

・安倍総理の親任式で、選挙で敗れた自分が前総理として同室になった控え室で、安倍氏の方から歩み寄り、重苦しい雰囲気を変えてくれた

・総理公邸の一室で密かに会ったとき、「(陛下の生前退位に向けた環境整備で)国論を二分することのないよう、立法府の総意を作るべきだ」と意見が一致し、立場の違いを乗り越え、政治家として国家のあるべき姿を論じ合えるのではないかと期待を持った

・遊説の際に「総理大臣たるには胆力が必要だ。途中でお腹が痛くなってはダメだ」と言ってしまった。謝罪が叶わなかった

どれも誰もが知り得ない、しかし聴き手が知りたかったこと。こんな話しを、野田氏はご自身の経験から存分に語っていました。

野田氏の演説は、見事にバリュープロポジションを組み立てていることがわかります。

〔野田佳彦氏のバリュープロポジション〕
1.聴き手が知りたいことは何か?:政敵・安倍氏との関係をいかに語るか?
2.ライバルが語れることは何か?:安倍氏の負の側面を語る(モリカケ問題など)
3.野田氏が語れることは何か?:野田氏の目線から見た仇敵・安倍氏との真剣勝負を語る

【バリュープロポジション】→安倍氏とのライバル関係を昇華し、最大のリスペクトで追悼する

この追悼演説は、野田氏がバリュープロポジションを明確にした上で語ったからこそ、演説終盤の「言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負を戦いたかった。勝ちっ放しはないでしょう、安倍さん。」という言葉に、ずっしりとした重みが宿ったのだと思います。

2022/11/02 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika