ある会社の発表会で、有名な社長さんがプレゼンされるということで取材に行ってきたときのことです。
プレゼンが始まると、最初、緊張感からか言葉の合間に余分な「えー」という発音が多く出ていました。「えー」とか「あー」の発音が多いのは、聴衆にとって聞き難いものです。このままではもったいないと思いました。
私は一番前の真ん中に座っていましたので、アイコンタクトとあいづちで社長さんを応援することにしました。
すると社長さんは、私と頻繁に視線を合わせてくださるようになり、だんだん話しが滑らかになって、言葉に自信が感じられるようになってきました。そうすると不思議なものです。私の周囲に座っているお客さんも「うん、うん」と、うなずきながら聞くようになっていきました。社長さんは、その後一気に調子を上げられて、本来のパッションあふれる見事なプレゼンをされたのです。
平均からすると、力量十分なプレゼンではあったのですが、聴衆が共に創り上げるという気持ちを持つことで、さらに素晴らしいプレゼンになり、聴衆も楽しむことができます。
例えばカラオケで歌うとき。仲間に手拍子を打ってもらったり、ニコニコと体を歌のリズムに合わせてゆすってもらうと、歌いやすくなりますよね。それと同じです。
随分前のことですが、私は、老人ホームのボランティアに行っていたことがあります。ここでは、ホームのおじいちゃん、おばあちゃん方が主役。「赤とんぼ」や「ふるさと」など、皆さんがよく知っている歌を、目線を合わせ、リズムに合わせて体をゆらしながら歌ってあげると、今まで全く無表情だった皆さん方が、涙を流しながら歌ってくださったことがあり、こちらまで感動してしまった経験があります。
聴衆が冷たかったり、警戒している雰囲気の中では、やはりどんなに舞台慣れていても話しにくいものです。「退屈するのは話し手の責任だ」という厳しい見方もありますし、話し手自身も、「聴衆が退屈しているのは準備不足」と振り返ってみる必要があるかもしれません。
しかし、熱心に聞いてくれているお客さんが、一人でも二人でもいるだけで、本当に話しやすくなるものです。マラソンで言うと、ペースメーカーのような方々です。会場には、熱心に聞いてくださるお客さんが必ずいらっしゃいます。私は、自分のプレゼンのときは、熱心に聞いてくださるお客さんを早く見つけるようにしています。
私が、まだビジネスのプレゼンを始めたばかりの頃。今から比べると未熟であったと思います。でも、そんなときでも熱心に聞いてくださる方はいらっしゃいました。それはどんなに有り難かったことか。今でも鮮明に覚えています。
熱心な聴衆に気がつくことでプレゼンは格段に良くなるのです。