ブログ「次世代トッププレゼン」

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No.305「いつも自然体」メルカリ・山田社長のプレゼン力

今、メルカリは絶好調。
2023年6月期決算では、純利益135億円。これまでの最高益の2倍以上です。

私はこれまでメルカリ・山田社長のプレゼンを2回取材しています。
一度目は2020年2月、ドコモとの提携記者会見。
二度目はその半月後、コロナ渦で行われた事業戦略に関する会見でした。

当時のメルカリは米国事業が赤字で、業績も思わしくありませんでした。
会見でも記者から「現在のメルカリは優位な立場にない」「将来はドコモと統合するつもりなのか」など、厳しめの質問が飛んでいました。
プレゼンでは山田社長から元気が感じられませんでした。
(ビジネスが厳しい状態だからだろう)と思っていました。

先月8月10日、ワールドビジネスサテライトで放送された山田社長のインタビューを拝見しました。
今回は前回と違って業績は過去最高です。
しかし、山田社長のテンションは3年前とまったく同じだったのです。
そして気がつきました。
「3年前の山田社長は、元気がなかったのではなく「自然体」だったのだ」

会社が良いときも悪いときも、一喜一憂せず、虚勢もはらない。
だから態度も変わらなかった、ということなのででしょう。

今、ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージが2003年に提唱した「オーセンティック・リーダーシップ」が注目されています。
オーセンティックとは「本心に偽りがない」という意味です。

無理に演じてるのって、私たちは違和感を感じて、なんとなく「何か演じているな」と分かりますよね。
演じることは、逆効果なことが多いのです。むしろ自分らしく誠実に振る舞うことで「このリーダーはウソがない」と感じて信頼感が高まります。これがオーセンティック(本心を偽らない)・リーダーシップです。

3年前、会見の質疑応答で、山田社長は記者から「楽天のような『個人経済圏』を目指してますか?」と聞かれて、こう答えていました。

「『個人経済圏』というのはなんでしょうか?不勉強でよくわかりません。すみません」。

分からないことは「分からない」と正直に言う。まさに嘘偽りのないオーセンティックな態度を首尾一貫していたと思います。

先日のインタビューでも「楽天のような経済圏を作りたいと思ってない。より開かれたような循環型社会になっていく。(メルカリが)必要不可欠な存在になるイメージでいる」と語っていた山田社長
次世代にも共感されるようなサステナビリティーなありかたを目指しているということなのでしょう。

今後も自然体でオーセンティックなリーダーシップを発揮し続けていただきたいと思っています。

2023/09/08 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.304 ヤッホーブルーイング 井手社長のプレゼン力

大企業と中小企業との協業って、なかなか難しいですよね。

まず信頼関係を築くのがたいへん。
中小企業からすると物怖じしがちです。
一方で大企業からすると、大企業の論理を押しつけがちです。

そんな中、素晴らしいと思ったイベントがありました。

6月1日、キリンビールが主催するクラフトビール体験型イベント「HELLO CRAFT BEER WORLD」が開催されました。
登壇したのが、「よなよなエール」などのクラフトビールで有名なヤッホーブルーイングの井手直行社長です。

井手さんは…

「僕らだけではパワーが弱いからキリンさんが音頭をとってやってくれる。頼みますよ。キリンさんね!」

とタメ口。キリンビール・堀口英樹社長の肩にガシッと手をかけていました。
まるで飲み会で同僚と仲良く肩を組んでいるかのようなノリ。
堀口社長もニコニコと嬉しそうに笑っています。

私は今から9年前の2014年9月、ヤッホーブルーイングとキリンビールの資本提携をする記者会見を取材したことがあります。
キリンビールがヤッホーに33.4%出資し、ヤッホーのビールを製造するのが提携の内容です。

当時、小規模なクラフトビール企業のヤッホーブルーイングは、製造能力が限界に達しつつありました。お客様の需要に対応するためには、大手ビールメーカーに製造委託する必要があったのです。一方でキリンも、当時、将来の成長が見込まれていたクラフトビール市場の拡大を狙っていました。

この資本提携発表記者会見でも、井手社長のノリは首尾一貫していました。
会見終盤、テーブルの上にあった自社ビール「よなよなエール」を二つ手に取りました。
そしてキリンの磯崎社長(当時)に「では、乾杯しましょう!」と声をかけ乾杯。
二人でグイッと飲んだあと、磯崎社長に「どうですかーっ?!」と聞いたのです。

こんなときビール会社の方が言う言葉は一つしかありません。「旨い!」。
当時今ほど有名ではなかったよなよなエールを、大手ビールメーカー社長に記者会見で「旨い」と言わせたのです。

実はこの提携にあたり、井手社長は磯崎社長にある不安を打ち明けたそうです。

「大企業のトップは数年で交代します。磯崎社長が熱心でも、次の社長がクラフトビールを冷遇する可能性もありますよね」。笑顔だった磯崎さんの表情が一変しました。カッと目を見開き、前のめりの姿勢で「井手さん、そんなことは絶対にありません」。この時の真剣な表情を見て、「磯崎社長は絶対に信頼できる。一緒にクラフトビールを盛り上げ、ビールファンにも喜んでもらえる」と確信しました。
(「クラフトの旗手井手直行氏(19)キリンビールと提携」日経MJ 2021年5月28日)

6月1日のイベントでの井手社長と堀口社長の振る舞いから、9年間、磯崎社長の約束がしっかり守られていることが伝わってきました。

企業規模が大きく異なる両社の提携に、ヤッホーブルーイングの社員も井手社長と同じような不安を抱えていたのではないでしょうか。

今回の会見で、9年前の会見を思い出しながら、トップ同士がフラットな関係でビジネスを推し進めている姿を明確に開示することは、それを見ている社員や、他の地ビール関係者にも安心感を与えるのだ、と感じました。

1994年の地ビールブーム以来、ここ数年、醸造所が増加し、地ビール人気が再燃しています。
ぜひ今後のクラフトビール市場を盛り上げていただきたいですね。

2023/09/01 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.303 應義塾高校野球部・森林監督から学ぶ「リーダーとはメンバーの自立を支援するもの」

一昨日の8月23日、夏の甲子園大会決勝戦で、慶應義塾高校野球部が107年ぶり2度目の優勝を果たしました。

この優勝は、私は日本社会の価値観をよい方向に進化させる大きなきっかけになり得ると感じています。
慶應高校の野球が、これまでの「高校野球、こうあるべし」という常識をことごとく破っているからです。

これまで甲子園で戦う高校野球の常識は、こんな感じでした。
・頭は丸刈り
・先輩後輩は絶対的
・朝から晩まで365日野球漬け
・勉強できなくてもそこは問わない
・プロ野球入団を目指して、全てを捧げる

慶應高校野球部は、こんな感じです。
・普通の髪型
・先輩後輩は同等
・練習時間は、強豪校と比べて少なめ
・野球部だからといって、勉強で特別扱いしない
・野球を離れても勝負できる人間に育てる

なぜこんな方針なのに、甲子園で優勝できたのでしょうか?
森林監督は、優勝インタビューで以下のように答えています。

「優勝することで、高校野球の新たな可能性とか、多様性とか、そういったものを何か示せればいい」
「常識を覆すという目的に向けて頑張ってきた」
「高校野球の新しい姿につながるような勝利だったと思う」

慶應高校は、全国屈指の高偏差値を誇る難関校です。強豪校のような野球推薦はなく、中学の内申点が満点45点中、38点以上必要です。
入学後も野球だけやっていればいいというわけではなく、扱いは周囲の学生とまったく同じ。しっかり勉強をしなくては進級できません。また、先輩後輩の関係も厳しくなく自由な雰囲気が特色。「高校野球といえばスポーツ刈り」が常識の中、部員全員がごく普通の髪型だったことがメディアで注目されていました。

慶應高校野球部のこうした姿勢に、風当たりも強かったようです。

優勝インタビューにて、大村主将は「ずっと高校野球の常識を変えたいとか、さんざん大きなことを言ってきて、笑われたり、いろいろ言われることがあった。そういう人たちを見返して、自分たちが絶対に日本一になるという強い思いで頑張ってきた」とコメントしていました。

これまでの伝統的な取り組み方とはまったく違う慶應高校が、並みいる強豪校を押さえて優勝したことは、まさに高校野球の常識を覆すような革新的な出来事だと思います。

森林監督は、著書「Thinking Baseball―慶應義塾高校が目指す”野球を通じて引き出す価値”」にて以下のように述べています。

私が指導するにあたって、もっとも心がけているのは、選手の主体性を伸ばすことです。
プロとして野球を続けられる選手はごくわずかですし、仮にプロ野球選手になれても、いつかは現役を引退しなければならず、監督や評論家になれるのはほんのひと握り。
つまり、野球から離れたときにきちんと勝負できる人間になっていることが大事なのです。
そのためには、高校野球を通して人間性やその人自身の価値を高めていかなければなりません。この重要な2年半、3年間を野球で勝つことだけに使っては絶対にいけない。野球にしか通じない指導は、「俺の言う通りにやれ」という方法が大半でしょうから、それはやはり指導者のエゴです。(中略)
社会で活躍できる人の共通点として挙げられるのは、自分を客観視できること。自分なりのアイデアを持ち、自分自身の強みを知り、それを伸ばす努力ができる人は、社会に出てどんな仕事に就こうとも通用します。

森林監督は「選手の主体性を伸ばす」と書いています。
まさにメンバーの自立を応援するのが、真のリーダーです。
人は自立しているからこそ、自分の価値を信じて、力を発揮できるのではないでしょうか。

昨今、スポーツ部の暴力事件、パワハラ事件が後を絶ちません。
勝利という結果に盲目的になり、パワハラを誰も止められず、受けている本人も「止めてほしい」と言えない現実は、自立しているとは言えないと感じます。

もしかしたらこれはスポーツだけでなく、旧態然として不祥事を起こす一部の日本企業にも、共通しているかもしれません。

慶應義塾の基本精神には、創設者である福澤諭吉の説く「独立自尊」があります。
独立自尊とは「自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行うことを意味する」ということ。(慶應義塾サイトより)

今回の慶應高校野球部の優勝で、組織のメンバーの個性を重視して自由に伸ばすことが大きな結果につながることや、リーダーが周囲に迎合せず勇気を持ってメッセージを伝えていくことがいかに大切か、日本社会全体で気づいて、大きく変わるきっかけになればいいですね。

2023/08/25 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.302 日大アメリカンフットボール部薬物事件謝罪会見から学べること

2023年8月8日、日大アメリカンフットボール部の薬物事件を受けて、日本大学が記者会見を行いました。

今回の事件を聞いて「またか」と思われた方も多いかと思います。

2018年、日大アメフト部の反則タックル事件は社会問題にもなりました。
その後も日大は、水泳部暴力事件、チアリーディング部パワハラ事件、ラグビー部暴力事件と大麻所持など、スポーツ部で不祥事が多発。さらに医学部でも不正入試が発覚。背任事件で元理事が逮捕され、理事長も逮捕されました。

そして2022年7月、日大出身で小説家の林真理子氏が「イメージが落ちた母校のために一肌脱ぎたい。ガバナンス全くなしの学校を何とか変えたい」と理事長に就任しました。

そして理事長の就任から1年。今回のアメフト部薬物事件が起こりました。

あまりメディアでは指摘されていませんが、今回の会見で最も注目すべきポイントは、不祥事発覚から会見開催までのスピード感だと思います。

7月6日、アメフト部の寮を点検し、逮捕された部員の部屋から植物片を発見。
その日から警視庁へ報告するまで、空白期間が約2週間。

沢田副学長は会見でこう述べました。

「大麻と分からなかった。疑惑があるから『大麻かもしれない』と思った」
「本人に『自首させて欲しい』と言われ、自分もそう考えた。まだ自首させる時期ではないと判断した」

林理事長は、この説明に対して「適切な対応」と述べています。

この林理事長の発言は、組織内の人間関係を考慮してのことかも知れません。
しかし澤田副学長の対応は、実は全く適切ではないのです。
違法な薬物への認識があるにも関わらず、それを所持していることは適切でないからです。

ここで参考になるのが、コーポレートガバナンスの考え方です。
コーポレートガバナンスと言うと「難しそうだし、自分は関係ない」と考えがちですが、このコラム読者は広報関係者が多いのでぜひお伝えしたいと思います。コーポレートガバナンスは、広報では今や必須科目です。

コーポレートガバナンスにおける不祥事対応の原則では、不祥事が起きた場合はタイムリーに情報開示をすることが鉄則です。
「しっかり状況を確認してから開示しよう」と考えて時間が長引けば、外部から隠蔽と判断され、責任追及される可能性が高まるからです。

今回はあまりにも遅過ぎました。
本来、事件が起こった場合、分かった時点ですみやかに記者会見を行い、誠実に謝罪するのが基本なのです。

当然、会見では記者より質問が飛びます。全部答えられないこともあるでしょう。しかしそれは問題ではありません。その時点で確認できている事実を明確にして、現時点で分かっている事実と、まだ分かっていない事実を分けて、答えることです。
さらにその後も、原因究明した結果の情報をわかり次第ホームページなどで開示するとと、最終的には第三者委員会の意見を踏まえて対応する旨をしっかりと伝えることです。

しかし今回の日大の謝罪会見では、あまりにも時間がかかりました。
会見準備に時間をかけている間に、メディアが徹底的に裏を取って調査します。この結果、謝罪会見では、「裏を取った情報で完全武装したメディア」vs.「まだ情報を完全に把握していない謝罪側」、という構図になってしまうのです。
そうならないためにも、不祥事は発覚時点ですぐに謝罪会見。これが鉄則なのです。

その点、昨年7月に発生したKDDIの大規模通信障害に対する謝罪会見はお手本のような謝罪会見だったと思います。
7月2日深夜1時35分に障害事件が発生し、翌日午前11時には記者会見。
高橋社長は、「事象の概要」→「事象による影響」→「事象の原因」→「一次処置対応状況を時系列で説明」→「検討している再発防止策」などを、分かりやすくプレゼン資料にまとめて、一人で説明していました。あれ以上は答えられないと言うところまで,オープンな情報開示が行われたのです。メディアやSNSでも好意的に受け止められました。

不祥事会見の成功パターンは、把握の段階で迅速に第一報を行うことです。隠蔽を疑われてしまうことが一番まずいのです。
今回の会見中、多くの記者より隠蔽を疑う質問が出てしまいました。初速を誤ったのが原因です。

不祥事は繰り返します。そして不祥事の完璧な未然防止は困難です。
これから、林理事長の本当の意味での経営手腕が問われるフェーズに入ってきているのではないでしょうか。
ぜひ初心を忘れずに改革に邁進していただきたく思います。

2023/08/17 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika

No.301 東芝・島田太郎社長のプレゼン力

「プロ経営者」と言われる人に「東芝の社長をお願いします」というと、多くの人は辞退されるのではないでしょうか?

まず、歴代トップが粉飾決算などの不祥事を起こしたのは、まだ記憶に新しいですね。
その後、会社の存続が厳しくなり、上場廃止回避のために海外ファンドが資本参加。
「物言う株主」として経営に口出しされています。
つまり短期利益を求める「物言う株主」に経営の意志決定権のかなりの部分を握られているのです。

2022年3月、こんな東芝のトップに就任したのが、島田太郎社長です。

2023年8月7日、東芝はJIPなどによるTOB(株式公開買い付け)の開始を発表しました。この日開いた記者会見で、島田太郎社長はこう言いました。

「非上場化がベストな選択です。非上場化することで世の中に本当に貢献できる企業として再び成長できる。いまは平静で澄みやかな気持ちです」

島田社長は、生え抜きの東芝社員ではありません。
外資系のシーメンスPLMソフトウェア日本法人トップでした。
前々社長の車谷氏に説得され、2018年に東芝へ入社し、東芝社長に就任。
そして就任から1年5ヶ月で、非上場化という次のステージに導きました。

島田社長の良い点は、信念に基づきながら首尾一貫した発言を続け、経営判断を行っている点です。

昨今、修羅場になると、これまでの言動を簡単に変えるリーダーをよく見かけます。
これでは信頼されません。

2022年3月の社長就任当時、島田社長はテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のインタビューに出演しました。
この時「信じることをしっかりやるということが大事」と話しています。
また「非上場、上場維持、どちらの方が東芝にとって良いと考えるか」と聞かれ、こう答えています。

「価値の最大化自体を中心に考えるべき。形はその結果。私が重視しているのは、我々がどういう領域でどんなふうに会社を伸ばすことができるのかということ。そのことによって初めて、資本の状況、状態はどれが1番いいのか後から決まる」

では「東芝の価値最大化」とは何でしょうか?
島田社長は「日経ビジネス」で次のように述べています。

コアとなる事業は時代によって変わるので、大切なのはコアバリュー(中核となる価値観)となります。東芝とはいかなる会社かというと「人と、地球の、明日のために。」という目的がある。その達成に向けて、とにかく難しい挑戦を好む組織と言えます。もし、コアバリューを忘れて様々な提案を受け入れるようなかたちになってしまったら、東芝が培ってきた理念が失われてしまう。
(『編集長インタビュー 東芝・島田社長の覚悟 「結果示し、混迷から脱却する」』日経ビジネス 2023.9.8号より)

つまり「人と、地球の、明日のために、難しいことに挑戦するのが東芝らしさ」ということなのでしょう。
しかしこれを実現するには時間がかかります。
一方で東芝の持ち株の半分以上を占める「物言う株主」は、短期利益を求める傾向にあります。
しかも日本は海外から「日本はアクティビストの遊び場」とも言われるほど、「物言う株主」が権利を乱用する傾向もあります。

この難しい状況の中、島田社長は最後まで価値最大化のために信念であるコアバリューを基準に考え抜き、非上場化という形を選びました。

島田社長のプレゼンは、明確な信念を首尾一貫して語り続け、強い信頼感を感じさせます。

島田社長には、これまでの暗い空気を一掃し、日本の伝統ある優良企業である東芝を復活させていただくことを期待しています。

2023/08/11 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : nagaichika