「遠くまで聞こえる声を出したい」とレッスンを受けにいらした方がいました。プレゼンのとき声が届かなくて、「何を言っているのか聞こえないよ!」とよく指摘されるのだそうです。
しかし、その方、テーブルをはさんでお話していても、「えっ?」と何度も聞き返したくなってしまうような声でした。
だから、仕事のときには無意識に頑張って声を出しているのでしょう。夕方頃になると声が嗄れてしまうのだそうです。
そういう方は、他人に自分の声が聞こえているのかいつも心配で、必要以上に無理をして声を出してしまうか、諦めてしまい声を出さなくなってしまいます。
しゃべってるだけなのに声がすぐ嗄れてしまうのは、やはりどこか間違っています。
また、自信がなくなって声を出さなくなってしまうのも、大変もったいないことです。
本当は、どんな人でも生まれた瞬間は元気に泣きながらこの世に出てきました。
赤ちゃんは、あんな小さな体で、一日中泣いていても声が嗄れることはありませんね?しゃがれ声の赤ちゃんなんてあまりお見かけしたことはありません。
だから、どんな人でも生まれながらにして神様から良い声をいただいています。
そして、一日中精一杯声を出していても嗄れることのないような、無駄のない素直な発声方法を知っていたのです。
人は頑張って声を出そうとすると「怒鳴って」しまいます。
怒鳴る行為というのは、本来は声を調節するだけの場所である、声帯だけに頼っています。
大きな声を出そうとして、声帯にものすごいストレスをかけているのです。
そうなると、声帯はすぐに疲労してしまい、声がかすれます。
声帯だけで頑張って発声する声は、近くでは大きく聞こえますし、出している人も大きな声を出したような気になって満足しています。しかし、そういう声は、残念ながら実際は遠くまで鳴らないという特徴があるのです。
さて、それでは、どうしたら遠くまで届くような、人の心に届くような良い声を出すことが出来るのでしょうか。
声帯を通して声が出ることは確かなのですが、声帯は頑張ってはいけません。
良い声が出ているときというのは、声帯はリラックスして、大変小さなエネルギーしか使いません。
ただ、それだけでは、遠くまで届く声にはならないのです。
響く声で良い発声を行う仕組みとは、声帯で調節した小さな声を、「共鳴」といわれる、鼻の後ろあたりで、響きを増幅させて出しています。
だから「今日は声がよく出ているな」と思うときというのは、声帯は楽なのですが、常に鼻の後ろあたりで響きが持続している感覚を持っています。
それでは、試しに、その感覚を人工的に作ってみましょうか。
小鼻の脇を両人差し指で軽くおさえ、大きく息をすってから、口を閉じて鼻から息を流すように「m~」とハミングしてみてください。そのとき鼻のあたりが「ビーン」と振動する感じがします。
これを「共鳴ハミング」とよびます。
良い声の人は、発声しているときこの振動がいつもあるのです。
これは、楽器が豊かな響きをつくり出しているのと同じ原理です。バイオリンも、弦に弓を強くこすりつければ強い音がするわけではありません。ピアノの鍵盤を強い力で叩けば大きな音が出るわけではありません。プロレスラーが演奏しても大きな音がするわけではないのです。
本当に良く響く声を出したかったら、共鳴ハミングのトレーニング方法を行ってみてください。初めのうちは指で押さえますが、だんだんと、おさえなくてもつかう場所を覚えていきますので、手放しでも響くようになります。
私は、この響きを得てからかなり発声が変わりました。ただ、これに気がついている人は少ないです。このトレーニングを行うと、早い人は瞬間で気がつきます。また遅い人で数ヶ月はかかります。
私は数ヶ月かかったほうでしたが、気がついてよかったと思っています。